雑食音楽偏歴

徒然なるままに あの頃好きだった曲、今も聴いている曲を紹介します

The Chainsmokers『Memories...Do Not Open』(2017)

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出典:YouTube

エレクトロニック・ミュージックの世界において、2010年代後半を象徴するデュオの一組が The Chainsmokers です。彼らの楽曲はポップスとEDMの境界線を溶かし、サブカルチャーとメインストリームを行き来するように大衆の心をつかんできました。

本稿では、そんな彼らの記念すべきフルアルバム第1作『Memories...Do Not Open』を取り上げ、1曲ごとに丁寧なレビューを加えながら、その個性や魅力を紐解いていきます。

アーティストについて

The Chainsmokers は、Andrew Taggart(アンドリュー・タガート) と Alex Pall(アレックス・ポール) の二人によるアメリカのDJ/プロデューサーユニットです。2014年の「#SELFIE」で話題を集めた後、2016年の「Closer feat. Halsey」で一躍グローバルポップの中心に躍り出ました。

彼らの音楽性は、EDMを基軸にしながらもポップス、ロック、R&Bの要素を吸収し、ジャンル横断的な魅力を持っています。

アルバムの特徴・個性

『Memories...Do Not Open』は、The Chainsmokers にとって初のスタジオ・フルアルバムです。本作では、これまでのEDM的なビルドアップ/ドロップ構造を保ちつつも、よりソングライティングに重点を置いた構成が際立っています。

多くの楽曲で Andrew 自身がボーカルをとり、内省的なリリックとセンチメンタルなメロディが強調されており、"パーティーのその後"のような感傷を伴ったエレクトロ・ポップに仕上がっています

『Memories...Do Not Open』全曲レビュー

1. The One

  • ジャンル:エモ・ポップ/ダウナー・エレクトロニカ

  • 特徴:冒頭で優しく響く軽やかなアコースティック・ギターとDrew Taggartの切ない歌声が印象的。リリックは「心の拠り所」となる相手への誓いを紡ぎ、聴く者を感情の中へ自然と誘う。プロダクションはストリングスも取り込み、EP的なセルフビルドサウンドから一歩踏み出した印象を残す。

2. Break Up Every Night

  • ジャンル:オルタナ・ポップ/ギターポップ×EDM

  • 特徴:軽快なリズムとギターリフをふんだんに盛り込んだ、明るめのダンサブル・チューン。不安定な男女の繰り返される別れと復縁を、遊び心あるリリックで描写。EDM色を抑えつつも、明快なビートでラジオにも映えるポップさが魅力。

3. Bloodstream

  • ジャンル:ミッドテンポEDM/ダーク・ポップ

  • 特徴:ミドルテンポで展開される、このアルバム中もっとも“満たされない倦怠”を歌う曲。パッド音の広がりとリフレイン系コーラスが病的なテンションを作り出し、Taggartの感傷的な歌い回しが心の痛みを引き立てる。

4. Don't Say

  • ジャンル:エレクトロ・バラード

  • 特徴:Emily Warrenが感情のナビゲーターとして参加し、Taggartとのボーカルが絶妙に混じり合うデュエット曲。ピアノ中心のアレンジながら、サビのエモーショナルな盛り上がりは一気に感情の核心へ迫る力強さを持つ。

5. Something Just Like This

  • ジャンル:アンセミックEDM/ポップロック

  • 特徴:Coldplayとの共作曲で、壮大なコーラスとミニマル・エレクトロが融合。歌詞はスーパーヒーロー願望をテーマに大衆に訴求。彼らの一貫した“共作でのポップ伝播力”を最大限に生かしたヒットチューン。「完璧じゃなくていい」というメッセージが、今も響く。ステージ映えする壮大なアレンジも◎。

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6. My Type

  • ジャンル:ポップ・エレクトロ/ミッドテンポ

  • 特徴:再びEmily Warrenを迎えたナンバー。目まぐるしい恋愛模様を描いたリリックと、軽やかなビートとシンセ構成が特徴。エレクトロR&Bのような質感を備えつつ、耳に残るメロディとヴォーカルフックがポップ感を高める。

7. It Won’t Kill Ya

  • ジャンル:ラテン・ポップ/エレクトロ

  • 特徴:フランスの歌姫Louaneとのコラボで、柔らかく大人びた雰囲気に。トラップビートにピアノ/ホーンを重ねた重厚かつ洗練されたトラック。「一夜の関係」をテーマに歌詞が焦燥と高揚を描く。重量感あるボトムエンドとキャッチーなコード進行を抱え、アルバム内で異色の質感を持つ楽曲。

8. Paris

  • ジャンル:ミッドテンポ・エレクトロポップ

  • 特徴:青直球のポップチューンながら、微細なギターとシンセが加齢感のあるセンチな雰囲気を醸す。Taggartの語り口調的なボーカルとミニマルなサビは、リスナーを現実の恋愛不完全感へ優しく誘う一曲。

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9. Honest

  • ジャンル:オルタナティブ・ポップ/エレクトロニカ

  • 特徴:“正直さ”をテーマにした自省的な歌詞が胸に刺さる。サウンドは控えめで、ボーカルに寄り添うようなアレンジが光る。夜にひとりで聴きたい曲。

10. Wake Up Alone

  • ジャンル:R&B/チル・エレクトロ

  • 特徴:Jhené Aikoとのデュエットで、夜の孤独と存在への不安をゆったりと紡ぐ。デジタル的ではなく生演奏風のビートとパッドが心を温める構成。Taggartのヴォーカルも抑制気味で、2人の声が夜空に溶け合う夜仕様バラード。

11. Young

  • ジャンル:ポップバラード/エレクトロ・ロック

  • 特徴:青春の刹那を歌うリリックと、落ち着いたテンポが懐かしさを誘う。胸を締め付けるようなコード進行のピアノに、Taggartの少し透き通った歌声が重なり、過ぎ去りし頃を反映させるノスタルジーが主軸。

12. Last Day Alive

  • ジャンル:カントリー・ポップ×EDM
  • 特徴:Florida Georgia Lineを迎え、壮大なコースドリーム曲に仕上がる。飛行機や戦闘機を想起させる音響とともに、「命を賭けた今を祝おう」というメッセージめいた歌詞が展開。Pitchforkでは「戦闘機のポスター」のようだと評された印象的なトーン。

こんな人におすすめ!

  • Z世代/ミレニアル世代で「感情に寄り添ってくれる音楽」を探している人

  • EDMはちょっと疲れたけど、歌メロと共感性のあるサウンドが好きな人

  • ロックやポップも好きだけどクラブ系もいける“雑食派”リスナー

  • アリーナ映えするエモーショナルな音楽が好きな人

同じ系統の楽曲・アルバム5選

  1. Zedd – 『True Colors』

    ロディアスなシンセと壮大な展開が特徴のEDMポップアルバム。

    エモーショナルなボーカルとビルドアップの美しさが際立つ。

    ダンスミュージックながら、リスニングにも適した繊細な構成。

  2. Kygo – 『Cloud Nine』

    トロピカルハウスの代表作として知られ、爽やかで優しいサウンドが印象的。

    アコースティックな要素やポップなメロディも多く、聴きやすさ抜群。

    心地よいビートと透明感ある音作りが特徴。

  3. Lauv – 『how i’m feeling』

    ポップ、R&B、インディーの要素をミックスした等身大のポップアルバム。
    感情をストレートに表現した歌詞と内省的なサウンドが心に刺さる。
    ソフトなエレクトロポップ好きにおすすめ。

  4. Troye Sivan – 『Bloom』

    ミニマルなビートと美しいメロディが共存するエレクトロポップ作品。

    恋愛や自己探求をテーマにした繊細なリリックが特徴。

    静かに深く感情を動かすサウンドが魅力。

  5. Marshmello – 『“Happier” (with Bastille)』

    アップテンポでポップながらも切なさの漂うヒット曲。
    Bastilleのボーカルが感情の奥行きを加え、聴き手の共感を誘う。
    フェス向けでもあり、日常的なBGMにも合う万能トラック。

リンク

thechainsmokers.com

open.spotify.com

まとめ

『Memories...Do Not Open』は、The Chainsmokers がパーティー・アンセムから一歩踏み込み、個人的な感情や弱さに向き合った作品です。派手なサウンドというより、等身大の葛藤や不安を、メロディアスなエレクトロで表現した点において、新たな音楽的ステージに進んだ意欲作といえます。

EDMにありがちな“即効性”だけでなく、時間をかけてじっくり染み込んでくる楽曲群。ポップミュージックとしての完成度と、ジャンル横断的な音作りの融合を味わいたい人には、ぜひ一度通して聴いてほしい一枚です。