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『Exit Planet Dust』は、The Chemical Brothersが90年代UKダンス・シーンにおいて大きな一歩を刻んだデビュー・アルバムで、彼らの“Big Beatサウンド”が初めてアルバム形態で形となった作品です。クラブ向けのブレイクビーツにサイケデリックな要素を加えたダイナミックな構成は、当時の若者文化と完璧にリンクしました。
アーティストについて
The Chemical Brothers(Tom Rowlands & Ed Simons)は、もともと「The Dust Brothers」という名義で活動していましたが、法的問題から改名。エレクトロ、ビッグビート、アシッドハウスなどを横断する音楽性で、90年代中盤に大きな影響力を持つ存在となりました。彼らのサウンドは、ヒップホップのブレイクにハウスやテクノ的感覚を融合し、ロック的衝動を備えるなど、常に先進的でありながら親しみやすいグルーヴを持つことが特徴です。
アルバムの特徴・個性
『Exit Planet Dust』はThe Chemical Brothersの初期の実験精神とエネルギーが詰まった作品です。ダンスフロアを意識しつつも、ロック的なエッジやサイケデリックなサウンドスケープを織り交ぜることで、単なるクラブアルバムの枠を超えています。特に、アナログ的な温かみのあるサンプリングと大胆なリズム構成が印象的で、ビッグビートの金字塔として今なお色あせません。
『Exit Planet Dust』全曲レビュー
1. Leave Home
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ジャンル:ビッグ・ビート、エレクトロニカ
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特徴:鋭いビートとサンプルの組み合わせによるアグレッシブなイントロダクション。冒頭からパワフルに攻め立て、踊らずにはいられないエネルギーを持つ。
2. In Dust We Trust
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ジャンル:ビッグ・ビート、エレクトロニカ
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特徴:ダークで重厚なリズムに、断片的なボイスサンプルが不穏な空気を作り出す。ミステリアスなトラックで、アルバムの深みを増している。
3. Song to the Siren
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ジャンル:ビッグ・ビート、エレクトロニカ
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特徴:ドラマティックなメロディと幻想的なヴォーカルが印象的。アルバムの中でも特に感情豊かな曲。
4. Three Little Birdies Down Beats
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ジャンル:ビッグ・ビート、エレクトロニカ
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特徴:軽快なリズムとキャッチーなフレーズが印象的。シンプルながら耳に残る魅力的なトラック。
5. Fuck Up Beats
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ジャンル:ビッグ・ビート、エレクトロニカ
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特徴:荒々しいビートとサンプリングの断片が絡み合い、強烈なノイズ感とエネルギーを放つ攻撃的なトラック。聴く者を挑発するような過激なサウンドデザインが印象的で、アルバムの中盤でのアクセントとなっている。
6. Chemical Beats
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ジャンル:ビッグビート、テクノ
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特徴:歪みの効いたギターリフとファットなドラムビートが融合した、緊張感溢れるトラック。サイケデリックなエフェクトが散りばめられ、ヘビーながらもグルーヴィーな展開を見せている。ライブでの定番曲としても知られている。
7. Chico’s Groove
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ジャンル:ビッグ・ビート、ハウス
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特徴:ダンサブルで軽快なリズムが心地よく、ジャジーなサンプル使いが特徴的。比較的明るくポップな雰囲気で、アルバムの中で一息つけるトラックとなっている。フロア向けの洗練されたビートが耳を引く。
8. One Too Many Mornings
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ジャンル:ビッグ・ビート、ダウンテンポ
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特徴:穏やかで落ち着いたトーンの曲。繊細なメロディと柔らかいシンセサイザーの音色が、夜明けの静けさや物思いにふけるような感覚を呼び起こす。アルバムの中でのクールダウン的役割を果たす。
9. Life Is Sweet
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ジャンル:ビッグ・ビート、エレクトロニカ
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特徴:チャーミングな女性ボーカルサンプルと重厚なビートの融合が印象的。サイケデリックなギターと豊かな層のシンセが曲に奥行きを与え、ポップさと実験性を両立している。アルバムの中でも人気の高いナンバー。
10. Playground For A Wedgeless Firm
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ジャンル:ビッグ・ビート、エレクトロニカ
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特徴:ミニマルでスペーシーなサウンドが特徴的なインストゥルメンタル。ビートは抑え気味ながらも緻密に構成されており、全体的に幻想的なムードを醸し出している。アルバムの中盤における静謐なブレイクとして機能する。
11. Alive Alone
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ジャンル:ビッグ・ビート、エレクトロニカ
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特徴:ドラマチックな展開と迫力あるビートが融合。ざらついた質感のシンセと激しいリズムが緊張感を持続させ、アルバムのラストを力強く締めくくる。印象的なサンプル使いも聴きどころの一つ。
こんな人におすすめ!
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クラブ/バンド両方の音楽を楽しむ好奇心旺盛な人
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重厚なビートにサイケデリックな音響が好きな人
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電子音楽の初期60~90年代の歴史と繋がりを探る人
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ダンスと瞑想の両面を一枚のアルバムに求めている人
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ビッグビートやロックの革新性に興味がある人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
1. Fatboy Slim –『Better Living Through Chemistry』
ω 「The Best Remain The Same」や「Going Out of My Head」などのヒット曲を収録。ユーモアとファンクをビッグ・ビートに昇華し、商業ベースでも成功。The Chemical Brothersよりもキャッチーでポップ、しかしビートのパワーは負けていません。
2. The Prodigy –『Music for the Jilted Generation』
レイブやハードコアのエッジを残しつつ、より構築的なサウンドに進化。政治性や怒りの感情をサウンドに込めつつも、The Chemical Brothersに近い破壊力とテンションがあります。90年代後半のビッグ・ビート以降、電子音楽の新たな可能性を示した作品。
3. Leftfield –『Leftism』
レゲエ、ダブ、アンビエント、エレクトロ、ハウスを融合した革新的な作品。重厚なビートと空間の広がりは、Chemical Brothersにも通じるものがあり、エモーショナルな構成が特に秀逸。電子音楽のレベル感を深めたバンド的名盤。
4. Underworld –『Dubnobasswithmyheadman』
アンビエントとテクノの融合により新しいダンスミュージックを提示。プログレッシブな展開と神秘的な歌詞が特長。ダンスフロアと精神の深さの交差点を体現する点で、Chemical Brothersのアプローチと共鳴しています。
5. Crystal Method –『Vegas』
米国発ビッグ・ビート、エレクトロの代表作。映画『マトリックス』でも採用された重厚なサウンドは、Europeanエレクトロに対抗するアメリカンムーブメント。粗さとグルーヴが混在し、Chemical Brothers好きの耳にも刺さる作品です。
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まとめ
『Exit Planet Dust』は、電子音楽の一つの頂点であり、ビッグ・ビートというジャンルの生誕を象徴する記念碑的なアルバムです。日常と非日常を往還する音響の魅力、クラブだけでなく家庭のスピーカーでも機能する普遍性、そして次世代に影響を与え続ける“音の設計”。1995年当時の発火点そのままに、今もなお多くの人々を惹きつけています。ぜひ一度、音の旅へ出かけてみてください。