出典:YouTube
1998年に北海道・札幌発のヒップホップ・グループ、Tha Blue Herbが自主レーベルからリリースしたデビューアルバム『Stilling, Still Dreaming』は、J ヒップホップ史において非常に重要な位置を占める作品です。
非常に静謐な音響と、都市や郷愁を描くリリカルなスタイルが融合した世界観は、後の国内アンダーグラウンド・ヒップホップに多大な影響を与えました。
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アーティストについて
Tha Blue Herbは1997年に札幌で結成された、Ill-Bosstino(MC)、O.N.O.(プロデューサー)、DJ Dye(ライブDJ)のトリオです。日本のヒップホップをバックパッカー精神とともに進化させた存在であり、「日本の Company Flow」と形容されることもあります。
ラップ、ビート、DJ スキルに加え、レーベル運営も行うDIY精神が活動の根幹です。
アルバムの特徴・個性
『Stilling, Still Dreaming』は、札幌を拠点に活動する彼ららしい重厚で深みのあるリリックと緻密なビートが融合したアルバムです。全編を通して日常や社会、内面の葛藤を鋭く描き出す言葉が、静かな熱を帯びたフロウで紡がれています。
ビートはジャジーでありながらもダークな空気感を持ち、アンダーグラウンド感と詩的な響きを両立しています。各曲が物語のように連なり、アルバム全体で一つの長い旅をしているような没入感があります。リスナーの思考を深く内側へと導く、聴き応えのある作品です。
『Stilling, Still Dreaming』全曲レビュー
1. This ’98
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ジャンル:アブストラクト・ヒップホップ
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特徴:淡いピアノのフレーズと環境ノイズが融合し、「これから始まる旅」の予感を漂わせながらも、視線を内側へ引き込んでいく。Beatsは迷路のように構築され、Ill‑Bosstinoの呟きがその奥でひっそりと響く。
2. Once Upon a Laif in Sapporo
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ジャンル:チルヒップホップ
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特徴:弱めのドラムループに寒空のピアノが切なさを誘い、都市の風景が浮かぶ。歌詞は札幌への愛憎混じった回想としても読め、地元への想いと個人的な夢の軌跡が交差する。
3. ¥
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ジャンル:ダウンテンポ・ヒップホップ
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特徴:タイトル通り「金(¥)」への思考と皮肉をテーマにしたトラック。重心を低く保つビートに微細なノイズとサンプルが挟まれ、タイトルから連想される虚無や瑣末さが強調される。
4. Shock‑Shineの乱 (1 Premise) – Remix
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ジャンル:実験的ビート・ヒップホップ
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特徴:原曲よりも空間が拡張され、ノイズとメタリックな質感が支配的。まるで内部が粉砕されていくかのようなカットアップと反復が、聴覚を揺さぶる。
5. Bossizm
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ジャンル:ダーク・ヒップホップ
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特徴:螺旋的なベースラインと揺れるビートが不安を煽る。タイトル通り「Boss主義」への嘲りと自嘲がリリックに込められ、ヒップホップ内の権威主義を風刺しつつ、自己認識にも振れる複層的な歌詞構造。
6. Stoicizm Prelude (No Time)
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ジャンル:インストゥルメンタル・インタールード
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特徴:リズムを除いたピアノ/パッドで構成され、次曲への橋渡し的役割を果たす。タイトル通り「Stoicism(冷静さ)」へ向けた精神的準備のようでもあり、「時間がない」という焦燥感を匂わせる。
7. Stoicizm
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ジャンル:ミディアム・テンポ・ヒップホップ
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特徴:冷徹なビートともの悲しいメロディが印象的。声色は落ち着いているが言葉の深さは重く、静かな怒りにも似る。音の構築力とリリック解釈がクロスする作品性の高さが光る。
8. 孤憤
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ジャンル:アングラ・ヒップホップ
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特徴:反復する低音と刻まれるノイズが、孤独という内面の荒野を描写。ラップも静かに呻り、"怒り"は内に溜まり溜まって舌先だけで表現される。
9. Coast 2 Coast 2
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ジャンル:ブルースティック・ヒップホップ
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特徴:横断という行為をテーマに据えた曲。ビートは潮騒のような空間音とともに、遠距離移動の旅を描く。サンプリングの使い方が旅情的で、具体と抽象のあいだを揺らす構成はグルーヴよりも情景を重視している。
10. 続・腐蝕
11. ペンと知恵の輪
12. ペンと知恵の輪 (WE LOVE IT MADLY)
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ジャンル:オルタナティブ・ヒップホップ
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特徴:創作/変態的愛情をテーマにしたコミカル&狂気混じりの熱演。ビートは揺れ、フローも軽快で、Ill‑Bosstinoの多面性を提示する遊び心あふれる一曲。
13. あの夜だけが
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ジャンル:ラップバラード
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特徴:柔らかいシンセと控えめなビートに乗せて、過去と情念を辿る語り口が胸を締め付ける。Ill‑Bosstinoの声も切なく、記憶と感情の狭間に漂う余韻が凝縮されている。
14. AME NI MO MAKEZ
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ジャンル:チルアウト・ヒップホップ
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特徴:タイトルは「雨にも負けず」からの引用で、生き抜く力と優しさが混在。サウンドは深く静謐で、曲の終わりと同時に安心感さえ生む。
こんな人におすすめ!
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日本語ラップで“詩的・文学的”な世界を探したい人
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ビートだけでなく“音の風景”として音楽を味わいたい人
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都市の闇、孤独、記憶といったテーマに共鳴する人
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Ill‑Bosstinoの抽象的ラップ表現に興味がある人
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日本のヒップホップの“地下から本質”を知りたい人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
1. Zeebra『Based on a True Story』
日本語ラップ界を切り開いた先駆者Zeebraのセカンド。Tha Blue Herbとは対照的にメジャー志向だが、リリックへの真剣さと都市のリアルな描写は共鳴する。ラップ/トラックの質感も当時の空気を反映。
2. Company Flow『Funcrusher Plus』
ニューヨークのアングラヒップホップ名作。O.N.OやIll‑Bosstinoも影響を公言。抽象的で実験的、言葉と音の距離感を突き詰める姿勢は兄弟分と言える傑作。
3. DJ Krush『Zen』
日本のインストヒップホップの旗手DJ Krushによる作品。環境音やアコースティック楽器のサンプリングで、静と動を描いた音響空間がTha Blue Herbに通じる。
4. Shing02『400』
日英バイリンガルラッパーShing02の名盤。哲学や精神性をテーマにしながら、柔らかいビートに乗せた歌詞はTha Blue Herbと異なるアプローチだが、言葉の深度は相通じる。
5. Ryuichi Sakamoto & DJ Krush『Zero Landmine』
坂本龍一とDJ Krushが戦争や社会問題をテーマに創った一曲。ヒップホップを超えた“社会への問い”という点で、Tha Blue Herbの魂と共鳴する作品。
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まとめ
『Stilling, Still Dreaming』は、日本のヒップホップにおいて詩と音響空間を芸術のように統合した傑作です。静寂とビートの間に、日常と都市、記憶の深淵を感じさせる稀有な作品です。
日本語ラップの豊かな可能性を感じたい方にこそ、心からおすすめしたい一枚です。
