出典:YouTube
1997年にリリースされたDaft Punkのデビュー・アルバム『Homework』は、フレンチ・ハウスの歴史を決定的に塗り替えた作品です。当時、ハウス・ミュージックはシカゴやデトロイトを中心に発展していましたが、このアルバムはフランスから全世界に向けて新たな潮流を生み出しました。シンプルかつ反復的なリズム、アシッドなベースライン、サンプルを駆使した荒削りで大胆な音作り。それらが一体となり、クラブミュージックの枠を超えた普遍的な魅力を放っています。
リリースから四半世紀以上が経った今でも、その影響力は絶大であり、エレクトロニック・ミュージックにおける一つの「教科書」として君臨し続けています。
アーティストについて
Daft Punkは、トーマ・バンガルテル(Thomas Bangalter)とギ=マニュエル・ド・オメン=クリスト(Guy-Manuel de Homem-Christo)によるフランスのデュオです。結成は1993年。最初はロックバンドとして活動していましたが、ダンス・ミュージックに傾倒し、やがてサンプラーとドラムマシンを駆使したハウス・ミュージックの制作に没頭します。
彼らの特徴は「シンプルさを突き詰めた反復の快楽」と「機械的でありながら温かみのあるサウンドデザイン」です。後の『Discovery』や『Random Access Memories』で見られるポップで洗練された方向性とは異なり、『Homework』では若さゆえの粗削りさ、ストリート感覚、そしてアンダーグラウンド的な実験精神が強く打ち出されています。
アルバムの特徴・個性
『Homework』の個性は、何よりも「クラブの現場感覚」をそのままパッケージした点にあります。トラックの多くは極めてミニマルであり、サンプルのループや歪んだビートを延々と繰り返す構成が中心です。しかし、その反復の中で微細に変化する音色やリズムが聴き手の意識をトランス状態に導きます。
また、このアルバムは「ローファイな質感」と「DIY精神」に満ちています。当時の機材は決してハイエンドではなく、むしろ自宅のスタジオ(まさに“Homework”)で制作されたラフな音作りが逆に新鮮でした。このアプローチは後に「フレンチ・タッチ」と呼ばれるサウンドの礎となり、ヨーロッパ発のハウスを世界へ押し上げたのです。
『Homework』全曲レビュー
1. Daftendirekt
- ジャンル:フレンチ・ハウス/ディープ・ハウス
- 特徴:アルバムの幕開けを告げる短いトラック。繰り返される声ネタと無骨なビートが、これから始まるサウンドの世界への招待状となっている。
2. Wdpk 83.7 FM
- ジャンル:スキット/ブレイクビート
- 特徴:架空のラジオ局を模したスキット。Daft Punkの遊び心とユーモアが反映され、作品全体にストリート感覚を与えている。
3. Revolution 909
- ジャンル:テクノ/ハウス
- 特徴:警察によるレイブ弾圧を皮肉ったイントロから始まり、典型的なローランドTR-909のビートが全編を支配する。社会的メッセージを込めつつも、フロアを揺らす強靭なハウストラック。
4. Da Funk
- ジャンル:エレクトロファンク/ビッグビート
- 特徴:本作最大のヒット曲。歪んだシンセベースがループし続けるだけの構造ながら、その中毒性は計り知れない。MVの映像美と相まって、Daft Punkの名を世界に広めた一曲。youtu.be
5. Phoenix
- ジャンル:フィルターハウス
- 特徴:煌めくようなシンセのリフとメロディックな展開を持つ楽曲である。粗削りな中にも美しい旋律を感じさせ、アルバムの中で異彩を放つ存在。
6. Fresh
- ジャンル:ディスコハウス
- 特徴:波の音から始まり、爽快で清涼感あふれるシンセが展開する。アルバムの中でもっとも柔らかく、リラックスしたムードを持つ楽曲。
- youtu.be
7. Around the World
8. Rollin' & Scratchin'
9. Teachers
- ジャンル:ミニマルハウス/トリビュート
- 特徴:彼らに影響を与えたアーティストの名前を羅列するトラックである。まさに「音楽的ルーツの公開宣言」とも言えるユニークな作品。
10. High Fidelity
11. Rock'n Roll
- ジャンル:ノイズエレクトロ
- 特徴:過激なフィードバック音と無慈悲なループが延々と続く、挑戦的なトラックである。聴く人を選ぶが、Daft Punkの大胆さが最も現れた瞬間。
12. Oh Yeah
- ジャンル:ダブハウス
- 特徴:サンプリングされた「Oh Yeah」の声が繰り返されるだけのシンプルな構成である。だが、その反復が持つ中毒性は強烈で、クラブでの使用に特化している。
13. Burnin'
- ジャンル:ファンキーハウス/ディスコ
- 特徴:灼熱のようなシンセリフと執拗なループが続き、フロアを熱狂させる楽曲である。ライブ映えするアグレッシブなサウンドが特徴。
14. Indo Silver Club
- ジャンル:サンプリング・ハウス
- 特徴:サンプリングを大胆に組み合わせ、ファンキーなグルーヴを展開する。ユーモアと遊び心に溢れたトラック。
15. Alive
- ジャンル:エレクトロテクノ
- 特徴:シンプルながらエネルギッシュなビートが展開する。後のライブ・アルバム『Alive』のタイトルにもなり、Daft Punkの活動を象徴するトラック。
16. Funk Ad
こんな人におすすめ!
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エレクトロニック・ミュージックの原点を体験したい人
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クラブ・ミュージックに興味を持ち始めたばかりの人
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繰り返しの中に美を見出すミニマル・ミュージック好きな人
-
90年代の音楽シーンを掘り下げたい人
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ヒップホップやディスコに通じるグルーヴを求める人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
- Cassius -『1999』
フレンチ・ハウス黎明期を代表する作品。Daft Punkと同じくループ主体のミニマルなハウスを展開し、ファンキーな質感が魅力。 - Basement Jaxx -『Remedy』
イギリス発のハウスデュオによる名盤。ファンクやラテンを取り込んだ雑多なエネルギーが、『Homework』の荒削りな勢いと共鳴する。 - Motorbass -『Pansoul』
フレンチ・タッチのもう一つの起点。ディープでグルーヴィなハウスが展開され、Daft Punkとのシーン的つながりも深い。 - The Chemical Brothers -『Dig Your Own Hole』
同時期のUKビッグビートを代表するアルバム。攻撃的なサウンドデザインは『Rollin’ & Scratchin’』と共通項を持つ。 - Justice -『†(Cross)』
Daft Punk直系の後継者として登場したフランスのデュオによる作品。歪んだベースと過剰なエネルギーが、『Homework』の進化系を提示している。
リンク
まとめ
『Homework』は、クラブの現場感覚とDIY精神をそのまま封じ込めたアルバムです。Daft Punkの後期作品のような華やかさはありませんが、そのラフさと実験性こそが本作の最大の魅力です。90年代後半のエレクトロニック・ミュージックを牽引し、以降のシーンを方向づけた意義は計り知れません。
このアルバムを聴くことは、単なる音楽鑑賞ではなく、クラブカルチャーそのものの歴史を体感することに他なりません。今もなお新鮮さを失わないこの作品は、まさに「時代を超えるHomework」と言えるでしょう。