雑食音楽偏歴

徒然なるままに あの頃好きだった曲、今も聴いている曲を紹介します

The Mad Capsule Markets『OSC‑DIS』(1999)

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出典:YouTube

日本が誇るハイブリッド・バンド、The Mad Capsule Markets(マッドカプセルマーケッツ)が1999年にリリースした『OSC‑DIS(Oscillator In Distortion)』は、デジタルハードコア、インダストリアルメタル、ラップコア、ポップパンクといった多ジャンルを狂騒的に融合させた異色作です。日本国内のみならず、2001年に海外でもリリースされたことで、グローバルな評価を得ました。

当時の音楽シーンでは前例のない攻撃的で高速なサウンドが特徴で、ハードコア好きも、テクノ/エレクトロ好きも虜にしたこの作品は、まさに“狂気のダンスパーティー”。初めて聴いた瞬間、血流が跳ね上がるような衝撃があり、いまでも色褪せることのない刺激を与え続けています。

アーティストについて

The Mad Capsule Marketsは、ボーカルのKyono、ベース兼プログラミングのTakeshi Ueda、ドラムのMotokatsu Miyagamiによって構成され、1980年代末から活動。もとはパンク/スカバンドとして出発しましたが、『Mix‑ism』や『Park』などでエレクトロやラップコアを取り入れ、1997年の『Digidogheadlock』でデジタル・ハードコア寄りに転換しました。

この『OSC‑DIS』で彼らは完成形に到達。日本のクラウドノイズと欧米のメタル、パンク、エレクトロが融合した独自スタイルを確立し、Tony Hawk’s Pro Skater 3に収録された“Pulse”は海外でも高い評価を受けました

アルバムの特徴・個性

『OSC‑DIS』は、The Mad Capsule Marketsのテクノ、ハードコア、ミクスチャーサウンドが最も明確に表れたアルバムです。エレクトロニカの冷たさとパンクの激情、メタルのアグレッシブさが同居しており、1曲ごとに攻撃性と電子的遊び心が交錯しています。アルバム全体を通して、ジャンルの境界を超えたサウンド実験が行われており、聴き手を常に予想外の音像へと引き込む構成になっています。多様な音楽要素が融合しているため、リスナーは毎回新しい発見を楽しむことができ、アルバムを通して聴くたびに新鮮な驚きと刺激を受けられます。

『OSC‑DIS』全曲レビュー

1. Tribe

  • ジャンル:デジタル・ハードコア/インダストリアル・メタル

  • 特徴:アルバム冒頭から圧倒的なノイズとリズムの洪水が押し寄せ、中途半端な音楽経験では衝撃を与える仕掛けがある。プログラムされたスピード感あるハイハットバスドラムに、金属的に歪んだベースが絡む。Kyonoのシャウトはネイティブアメリカン的な“呪術”にも似て、サンプル+照準を合わせたリードシンセが背筋を凍らせる。ギターは極力抑えられ、全てが“打撃”と“電子”の対峙に集中している。

2. Out/Definition

  • ジャンル:ラップコア/インダストリアル

  • 特徴:Kyonoの言語的な切迫感がビートと融合し、まるで電脳アイコンが吠えるかのよう。ブレイクビート由来のリズムが随所で緩急をつけ、サンプリングノイズとの対比が強烈な緊張感を作る。Uedaのエレクトロベースが軸となる一方、ドラムのバウンスはまるで壊れかけたマシンのようにギリギリを攻めている。

3. Pulse

  • ジャンル:ロック/ラップコア

  • 特徴:キャッチーなメロディとグルー ビーなサビが、Mad Capsuleらしからぬポップ性を放つ。グルーヴするリズムにKyonoのシャウト系フローが噛み合い、サビでは「お前を呼ぶPulse」が反芻されることで一体感を生む。Tony Hawk’s Pro Skater収録で海外のリスナーにも広まり、バンドの国際認知を後押しした名曲。

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4. Multiplies

  • ジャンル:エレクトロ・パンク/サーフコア

  • 特徴:Kyonoはパンク的なリリックを高速で叫び、Uedaのベースは暴走しながらもグルーヴを失わない。プログラムキックはピクセル単位で切り刻まれ、全体の印象として「速く、尖って、踊れる」。ライブの起爆剤として多用されている。

5. Mob Track

  • ジャンル:インダストリアル・ドラムンベース

  • 特徴:ビートの密度が濃く、ベース+キックだけで全体の暴力性を構築する。逆回転ノイズが随所に埋め込まれ、恐怖感すら喚起するサウンド設計。ギターの代わりに電子音がリードを担い、冷たく電子的な暴力の連鎖を演出。疾走感と絶望の狭間を行く展開が、ドラムンベースのヒリヒリした良さを巧みに取り込んでいる。

6. All the Time in Sunny Beach

  • ジャンル:サーフメタル/インダストリアル

  • 特徴:イントロでは陽光を連想させる爽やかなサーフギターが登場し、安心させてからの急な破壊が効果的。ギターは高揚を生み、サビではノイズと叫び声に変貌するドラマ性が秀逸。

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7. Island

  • ジャンル:ポップ・パンク/ハードコア

  • 特徴:軽快なポップパンクのリズムで始まり、Kyonoは歌とシャウトの間でブレンドされた表現を披露。Aメロは陽気、サビでは現実的に破壊的なリズムチェンジが入るので、リスナーの感情を強引に揺さぶる。ギターはポップ風のカッティングとリードで緩急つけ、Uedaのベースだけは常に暴れている。

8. Restart!

  • ジャンル:スラッシュ・メタル/デジタル・ハードコア

  • 特徴:スラッシュ特有のぶった切るようなリズムで極短時間にインパクトを与える。二重録音のギターリフが乱舞し、ビートはトリプルキック的に突き刺さる。歌詞も「Restart!」(再起動)というポジティブ感を含みながら破壊的。

9. Jag

  • ジャンル:スラッシュ・コア/ノイズ・ロック

  • 特徴:ノイズに近いほど激しいギターとベースの噛み合いが、リズムの迷路を構築。Kyonoはロウヴォーンで絶叫系のシャウトを交錯し、サビではメロディラインを短く撃ち込む。ベースは混沌の底で鳴り続け、ドラムは乱反射するようなブレイクとビートの二相構造。

10. Step Into Yourself

  • ジャンル:サイバー・パンク/ジャングル・メタル

  • 特徴:プログラムドキックとシャッフルするハイハットに、ジャングルビートのリズム性が加わる変則構造。歌詞は「自分に踏み込め」と内省を促すが、音は外傷的な鋭さを携えている。そのコントラストが心を抉る表現として機能。サビでは電子的クリーン音が入り、テンションの振れ幅が非常に大きい。

11. Good Girl (Dedicated to bride 20 years after)

  • ジャンル:ポップ・パンク/ハードコア

  • 特徴:比較的明るくポップなギターリフが特徴的。シャウト系ではあるがメロディを保ち、裏でうねるベースとキックがバランスを保つ。感情のリアリティと激しさの両立が見事。

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12. MIDI Surf

  • ジャンル:フューチャー・パンク/デジタル・ハードコア

  • 特徴:ノイズ的クラッシュから始まり、サーフギターの音色とプログラムキックが混ざり合う。Kyonoのラップシーンやノイズエフェクトも再び登場し、アルバム全体の総決算を飾るには相応しい爆発力と整合性を持っている。

同じ系統の楽曲・アルバム5選

  1. Rage Against The MachineRage Against The Machine
    パンク的エネルギーとラップを融合したハードロックアルバム。政治的メッセージとアグレッシブな演奏が特徴。

  2. Nine Inch Nails『The Downward Spiral』
    インダストリアル・ロックの金字塔。電子音とギターの融合が『OSC‑DIS』と通じる前衛的なサウンドを持つ。

  3. The Prodigy『The Fat of the Land』
    ビッグビートを基軸にした電子音楽。攻撃的なリズムとロック的ギターを融合させた点が共通している。

  4. Ministry『Psalm 69』
    インダストリアルメタルの代表作。重厚なギターリフと電子的ノイズを組み合わせる手法が『OSC‑DIS』に通じる。

  5. Fear Factory『Demanufacture』
    メタルとインダストリアルを融合させた作品。機械的なリズムと重厚なギターがアルバム全体を支配している。

こんな人におすすめ!

  • メタル、パンク、エレクトロが入り混じった音を好む人

  • テンポの急激な変化や実験性の高い楽曲を楽しめる人

  • Tony Hawk’s Pro Skaterなどゲーム音楽に興味がある人

  • 英語と日本語のバイリンガルリリックに惹かれる人

  • サーフ/ポップパンクのメロディと激しい音の同居に興味がある人

リンク

www.jvcmusic.co.jp

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まとめ

『OSC‑DIS』は、ジャンルを貫く軸がないほどに破壊的でありながら、その中に強烈な構造とメロディ性を持つ奇跡的作品です。Mad Capsule Marketsの音楽的到達点として、日本のロック/エレクトロの可能性を世界へ突きつけた一枚と言えます。轟音の中にほのかなポップネスを秘め、そのギャップこそがこのアルバムの強烈な個性。刺激と混乱と高揚を同時に味わいたい人には、まさにうってつけの作品です。