出典:YouTube
2000年8月にリリースされた『Art Official Intelligence: Mosaic Thump』は、De La Soulの第5作目となるスタジオ・アルバムで、「AOI」シリーズの第1弾として発表されました。前作『Stakes Is High』(1996年)での深刻さから一転、この作品では一種の祝祭感と成熟を兼ね備えたサウンドへと舵を切りました。多くのゲストやデイヴィッド・ファンを巻き込んだ構成で、再びチャートに返り咲き、グラミーにもノミネートされるなど評価も高かったです。
音楽的には、Conscious/Boom-Bap系のヒップホップとしてスタイルが確立されており、知的かつポジティブなリリックとグルーヴを融合したアルバムとして広く認識されています。
- アーティストについて
- アルバムの特徴・個性
- 『Art Official Intelligence: Mosaic Thump』全曲レビュー
- こんな人におすすめ!
- 同じ系統の楽曲・アルバム5選
- リンク
- まとめ
アーティストについて
De La Soul(Posdnuos、Trugoy the Dove、Maseo)は1988年、NY郊外アミティヴィルで結成されたヒップホップグループ。デビューの『3 Feet High and Rising』(1989年)でジャンルに革新をもたらし、サンプリングの大胆な使い方とユーモア混じりのリリックで“デイジー・エイジ”を代表。以来、『Stakes Is High』では商業主義に対する批判を展開し、オルタナティブ・ヒップホップの地位を確立。メンバー3人それぞれが独特の視点を持ち、時に詩的に、時に社会的に言葉を紡ぐスタイルが聞き手を引きつけ続けています。
アルバムの特徴・個性
このアルバムの最大の特徴は、タイトルにも示されているように、「人工知能(Art Official Intelligence)」と「人間の創造性(Mosaic Thump)」の融合というコンセプトです。
これまでのアルバムでもサンプリングに長けていた彼らですが、本作では、The RootsやA Tribe Called Questといった同世代のグループと共鳴するように、生演奏を重視したオーガニックなサウンドへと舵を切っています。豪華なゲスト陣が参加しているのも特徴で、チャカ・カーン、バスタ・ライムス、レッドマン、コモン、Xzibit、B-Realなど、ヒップホップ、R&B、ファンク界のトップアーティストたちが集結し、アルバムに奥行きと多様性をもたらしています。
生楽器のグルーヴと、De La Soulの持ち味である巧みなラップ、そしてユーモアと社会批判が入り混じったリリックが織りなす「モザイク」のようなサウンドは、リスナーを飽きさせません。このアルバムは、2000年代のオルタナティブ・ヒップホップの方向性を決定づける、重要なマイルストーンの一つと言えるでしょう。
『Art Official Intelligence: Mosaic Thump』全曲レビュー
1. Spitkicker.com/Say R.
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ジャンル:ヒップホップ/オープニングイントロ
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特徴:ウェブサイトへの“ログイン”を思わせるインターフェース的イントロで、軽快なスクラッチを散りばめながら聴き手を“Mosaic Thump”の世界へ誘導する役割を果たす。
2. U Can Do (Life)
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ジャンル:ポジティブヒップホップ
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特徴:Supa Dave Westによるフックの効いたソウルビートに乗せて、人生への前向きなメッセージが炸裂。「人生は自分次第だ」という主題を、キャッチーなコーラスと鮮やかなフロウで力強く伝える一曲。
3. My Writes
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ジャンル:ポッセカット/ウエストコースト風
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特徴:ウエストコーストの勢いあるビートがベースとなり、Posdnuos、Xzibit、TashとJ-Roによるマイクパス戦が熱を帯びる即興性の高い楽曲。特にXzibitとの相性がよく、J-Roの一部バースはやや浮いているという評価がある。
4. Oooh / Ghost Weed Skit 01
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ジャンル:クラブヒップホップ
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特徴:Lalo Schifrin「エンター・ザ・ドラゴン」テーマをサンプリングした重厚なビートに、Redmanが「Oooh!」とフックを連発。軽快でありながらエネルギッシュなクラブ志向のトラックで、ウィザード・オブ・オズをモチーフにしたMVも話題になった。
5. Thru Ya City
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ジャンル:ストリートチューン
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特徴:Lovin’ Spoonful「Summer in the City」を引用したドーナツビートが心地良く、都会を走り抜ける風景を浮き彫りにする。J Dillaの暖かみある質感と、Dave(Trugoy)が描く郷愁が交差する楽曲。
6. I.C. Y'all
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ジャンル:クラブヒップホップ/アグレッシブ
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特徴:Rockwilderによるグルーヴィなビートに乗せて、Busta Rhymesがシャウトし、De La Soulが攻撃的かつユーモアを交えたリリックを展開。ビート、エネルギー共にクラブ仕様でパーティにも最適なトラック。
7. View
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ジャンル:リラックス・ヒップホップ
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特徴:チルアウトなジャズ要素を取り入れつつ、自らの思想や視点を言葉にするナラティブ。「街を俯瞰する景色」的イメージが浮かぶ、アルバム中盤の落ち着きどころ 。
8. Interluden
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ジャンル:インタールード
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特徴:短めの繋ぎ的小曲。無意味に見えながらも次トラックへの軽やかな橋渡し的機能に徹しており、アルバム構成を意識させるプロダクションが凝っている。
9. Set the Mood / Ghost Weed Skit 02
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ジャンル:ソウル・ヒップホップ
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特徴:IndeedのバースとGhost Weedスキットを絡めながら、Slick Rickネタを引用するなど往年のOld Schoolへの敬意が滲む。情緒とユーモアのハイブリッド。
10. All Good?
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ジャンル:ソウル・ヒップホップ
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特徴:Chaka Khanがフックを務め、「All good?」という問いかけを通じて、業界や人間関係の裏側を探るテーマ性を引き出す。豪華な歌声がトラックに厚みと優雅さを与えるヒップホップバラード。
11. Declaration
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ジャンル:ハードコア・ヒップホップ
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特徴:トラックは硬質なブレイクビート。 歌詞ではヒップホップの現状に苦言を呈し、“売り物”ではないアートへの誇りを宣言するDe La Soulらしい社会批判が響く。
12. Squat!
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ジャンル:クラシカル・ヒップホップ
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特徴:Beastie Boysを迎えたOld Schoolフレーバー全開のジャム。Cold Crush Brosを意識したマイクパスが印象的で、“80sヒップホップ回帰”のスタンスを明快に示した意欲作。
13. Words from the Chief Rocker
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ジャンル:クラシカル・ヒップホップ
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特徴:伝説的MC Busy Beeによる“詩的なスキット”が続く逸曲。Old School MC文化の象徴として、次なる展開への“儀式”的役割を担う。
14. With Me / Ghost Weed Skit 03
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ジャンル:メランコリックヒップホップ
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特徴:Marvin Gaye「After the Dance」をサンプリングした深いビートに乗せ、Posによる恋愛感情を詩的に描写。胸に染みるリリカルなトーンが心地良い 。
15. Copa (Cabanga)
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ジャンル:ラテンソウル/クラブチューン
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特徴:Supa Dave Westによるラテン風グルーヴトラック。本作でもっとも軽快で、パーティ感を引き継ぐ。早朝クラブの余韻やドリンク片手向けの一曲。
16. Foolin'
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ジャンル:ストリートヒップホップ
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特徴:重厚なビートに乗せ、裏切りや不正をテーマにしたサイレンスなトラック。De La Soulらしい社会的視点と自身のリリックによる考察が織り交ぜられている。
17. The Art of Getting Jumped
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ジャンル:ストーリーテリング
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特徴:PosとDaveがクラブで暴力に巻き込まれない術を語る“苦言チューン”。ユーモアとリアルが混ざり、黒人の都市生活を軽く描写しつつ、安全策をラップする社会派的メッセージトラック。
18. U Don’t Wanna B.D.S.
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ジャンル:ハードコアヒップホップ
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特徴:MaseoのラップとFreddie Foxxxの過激なアドリブが炸裂するトラック。偽物ギャングスタへの批判とラップゲームにおける真偽の追求をテーマにし、強烈なエンディングを飾る。
こんな人におすすめ!
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ヒップホップの“Old School愛”と“新世代グルーヴ”を両方楽しみたい人
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De La Soulの独特なリリシズムやユーモアを通しで味わいたい人
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多彩な客演アーティストの共演を堪能したい人
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社会観とパーティチューンのバランスを計算されたヒップホップに惹かれる人
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Trilogy構想の第一章としての“集合的頌歌”を楽しんでみたい人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
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A Tribe Called Quest -『The Love Movement』
‘Native Tongues’の伝統を継承しつつ、ソウルフルでリラックスしたグルーヴを展開する作品。多彩な客演とヒップホップ文化への愛を溢れさせ、聴けばわかる“知性あるパーティ”の完成形。
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The Roots -『Things Fall Apart』
生演奏主体のビートと鋭い社会観が融合し、ジャズやソウルとヒップホップの融合美を感じさせる作品。メッセージ性と音楽性を両立した完成度が高い。
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Common -『Like Water for Chocolate』
ヒップホップに朗詩的な感性とロマンを吹き込み、ポエトリーなリリックとオーガニックなサウンドの融合が美しい。知的かつ歌心あるアルバム。
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Mos Def & Talib Kweli -『Black Star』
2人のMCによるリリックの掛け合い、その中に含む社会観とユーモア、サウンドの風格は、De La Soulと同様に“啓発的ヒップホップ”の代表作。
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Common -『Be』
“ポジティヴ志向の自己肯定メッセージ”を主軸にし、ヒップホップの伝統的グルーヴと共感歌詞を高次元で融合。De La Soulのように“A-sideにポジティブさ、B-sideに社会の問いかけ”を持つ構造。
リンク
まとめ
『Art Official Intelligence: Mosaic Thump』は、De La Soulのキャリアにおける重要な転換点であり、ゲストとの自然な融合と知的なリリックで、「正統派ヒップホップ」の一つの完成系を成したアルバムです。Conscious Rapの深化とヒップホップカルチャーへのリスペクトが見事に融合し、聴く人にポジティブなエネルギーを届けてくれます。イノベーションと伝統が両立した稀有な作品として、今なお色あせない普遍性を持った名盤です。