雑食音楽偏歴

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Nuyorican Soul『Nuyorican Soul』(1997)

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出典:YouTube

1997年にリリースされた Nuyorican Soul のセルフタイトル・アルバムは、音楽界におけるジャンルの垣根を軽々と飛び越えた、ある種の“音楽的結婚式”のような一枚です。プロデューサーの Little Louie Vega と Kenny "Dope" Gonzalez(通称 Masters at Work)が率いるこのプロジェクトには、George Benson、Tito Puente、Roy Ayers、India、Jocelyn Brown など、ソウルやジャズ、ラテン界のレジェンドたちが多数参加し、ダンス・ミュージックにおける“本物”の演奏と洗練を見事に融合させています。これにより、クラブ的なグルーヴとライブ・ミュージックの温度感が調和した、唯一無二の奇跡的作品に仕上がっています。

アーティストについて

Nuyorican Soul は、長年ハウスおよびガラージュを牽引してきたプロデューサーデュオ、Masters at Work(Little Louie Vega & Kenny "Dope" Gonzalez)が、ニューヨークのプエルトリコ系コミュニティの文化背景を踏まえ、ラテン音楽、ソウル、ジャズとダンスを融合した音楽を追求するために立ち上げた“ゆるやかなコレクティブ”です。このアルバムでは、生演奏を大量に取り入れた充実したアンサンブルが起用され、ハウスミュージックにリアルな厚みと感情の深みをもたらしています。

アルバムの特徴・個性

本作は、ラテン、ソウル、ジャズ、ディスコ、ハウスを瑞々しく織り交ぜたジャンル混合の傑作であり、Nuyorican=ニューヨークとプエルトリコを結ぶ文化的コードが明確に表現されています。

アルバム全体には 生楽器の温かみとグルーヴ が息づいており、ダンサーだけでなく、ジャズやソウル、ラテンに親しむリスナーにとっても聴き応えがある内容です。また、オリジナル曲とレジェンドのカバーがバランスよく配置されており、音楽のルーツとその継承を楽しむ構成になっています。

『Nuyorican Soul』全曲レビュー

1. Nuyorican Soul (Intro)

  • ジャンル:イントロダクション的ミニトラック

  • 特徴:アルバムの舞台を静かに開く導入パートである。演奏とサンプルが溶け合う中で、「これから始まる祝祭」の気配をひそやかに予感させる。

2. I Am the Black Gold of the Sun

  • ジャンル:ソウル/ディスコ/ラテン

  • 特徴:Rotary Connection の名曲を Jockey Brownの壮大な歌唱と豪華な生バンドで再解釈したカバー。感情の起伏とグルーヴが豊かで、まさに“魂の金”を讃えるごとき祝祭的な完成度。

3. It’s Alright, I Feel It!

  • ジャンル:ディスコ/ファンク/ハウス

  • 特徴:Jocelyn Brown の強烈なボーカルが空気を切り裂くように歌い、ハウスビートとファンクグルーヴが混ざった豪華なダンスチューン。UKダンスチャートで No.1 を記録するなど、クラブ文化にも強く訴えかけた一曲。

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4. Maw Latin Blues

  • ジャンル:ラテン・ジャズ/ブギー

  • 特徴:Tito Puente をはじめとする豪華ラテンパーカッション陣がリードするトラック。ブルースとラテンの融合が鮮やかで、アルバムの多様性に深みを加える一曲。

5. Gotta New Life

  • ジャンル:ジャズ/ソウル

  • 特徴:Jocelyn Brown と Lisa Fischer によるスキャットが印象的な、ジャズ寄りのスムースなトラック。希望と解放感を歌う温かな空気に包まれている。

6. Nautilus (Mawtilus)

  • ジャンル:ジャズ・ファンク/クラシックのリメイク

  • 特徴:Bob James の「Nautilus」を Masters at Work 独自の解釈で再構築したトラック。Vince Montana のストリングアレンジなどが加わり、オリジナルへの尊敬が感じられるグルーヴが光る。

7. Taita Caneme

  • ジャンル:ラテン・ジャズ・ピアノ

  • 特徴:Eddie Palmieri によるピアノソロが生み出す豊かなグルーヴと感情の機微が際立つ。静かで深みのあるトラック。

8. Habriendo El Dominante

  • ジャンル:ラテン・ジャズ・パーカッシブ

  • 特徴:パーカッションとピアノが対話するような構成。躍動感に溢れつつもエレガントなグルーヴが心地よい。

9. Roy’s Scat

10. Sweet Tears

  • ジャンル:ディスコ/ソウル/ラテン

  • 特徴:India と Roy Ayers のデュエットがファンキーでソウルフルに響きわたる、ダンスフロアにも映える一曲。Salsoul 的雰囲気と現代プロダクションの融合が見事。

11. Runaway

  • ジャンル:ディスコ/ラテン・ソウル

  • 特徴:Loleatta Holloway のクラシックディスコをラテンタッチで蘇らせたカバー。India の豊かなボーカルとスタリングのライブ感が秀逸で、クラブでも強く支持された。

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12. Shoshana

  • ジャンル: ラテンジャズ、フュージョン

  • 特徴:ジャズ・フュージョンのしなやかさとラテン的なリズムの情熱を併せ持つ一曲。冒頭から漂うスモーキーな空気感がリスナーを一気に都会のジャズクラブに誘い込み、繊細な鍵盤の旋律が印象的に響き渡る。

13. Jazzy Jeff’s Theme

  • ジャンル: ジャズファンク、アシッドジャズ

  • 特徴:DJ Jazzy Jeffが関わったこのトラックは、タイトル通りジャジーなファンク・グルーヴに満ちている。スクラッチサンプラーを駆使したターンテーブリズムの技術が前面に出されており、クラブカルチャーを強く意識した作りとなっている。

14. You Can Do It (Baby)

  • ジャンル: ソウル、ジャズ、クラブジャズ

  • 特徴:アルバムのラストを飾る本楽曲は、Masters at Workとジャズ界の巨匠George Bensonのコラボレーションによる名曲。ゆったりとしたテンポとジャズギターの美しいフレーズ、グルーヴィーなベースライン、アーバンなパーカッションのリズムが織り成す、極めて贅沢なアレンジが特徴。

こんな人におすすめ!

  • ラテン、ソウル、ジャズをルーツとしたダンス/クラブミュージックに興味がある人

  • 本物の演奏とダンスサウンドの融合を楽しみたい人

  • Masters at Work やアシッドジャズなど、90年代エレクトロ黎明の作品が好きな人

  • ダンスミュージックなのにリスニング作品としても優れたアルバムを探している人

  • クラシックカバーや豪華ゲスト演奏に触れて音楽の歴史的繋がりを感じたい人

同じ系統の楽曲・アルバム5選

  1. Incognito – 『Tribes, Vibes + Scribes』
    UKアシッドジャズを代表するバンド、Incognitoの1992年リリースのアルバム。ジャズ、ファンク、ソウルをブレンドした洗練されたサウンドと、複数のボーカリストが織りなすハーモニーは、Nuyorican Soulの音楽性とも深く共鳴する。

  2. Latin Jazz Quintet – 『Best of Latin Jazz』
    ラテン・ジャズの基礎を堪能できる名曲集。Nuyorican Soul の中期にあるラテンジャズ的要素の源流を理解するうえで役立つ一枚。

  3. Roy Ayers – 『Stoned Soul Picnic』
    ヴィブラフォン奏者 Roy Ayersソウルジャズの代表作。レジェンド自身が参加したトラックと比較すると、その御業の深さが改めて味わえる。

  4. Loleatta Holloway with Salsoul Orchestra – 『Runaway』
    Nuyorican Soul がカバーしたディスコクラシックのオリジナル。オリジナルとカバーの対比で楽しめる作品。

  5. George Benson – 『Breezin’』
    George Bensonの代表作であり、ジャズとポップの橋渡しをした名盤。ギターの音楽性が『You Can Do It (Baby)』と共振する作品。

リンク

www.discogs.com

open.spotify.com

まとめ

『Nuyorican Soul』は、ジャンルを超越した音楽愛にあふれた傑作であり、Masters at Work のプロデューサーセンスと豪華ゲストによって構成された“ダンスと音楽史の交差点”のようなアルバムです。ラテンやソウル、ジャズの伝統に敬意を払いながら、ハウスとクラブへの情熱を注ぎ込み、21世紀に向けた未来を着実に描いた音の祝祭であると言えます。

再発見の価値がある唯一無二のアルバムとして、幅広い音楽愛好家に響く名盤だと自信を持っておすすめします。