雑食音楽偏歴

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COALTAR OF THE DEEPERS『No Thank You』(2001)

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出典:YouTube

2001年5月23日、東京のオルタナティブ・ロック/シューゲイザー・バンド、Coaltar of the Deepers が放ったアルバム『No Thank You』は、彼らのキャリアにおいて“転換点”と呼べる作品です。

メタル的な轟音、ドリームポップ的な浮遊、電子音の介入、そしてポップ的メロディ―それらが入り混じり、聴き手を一筋縄ではいかない音の旅へと誘います。
この作品は、シューゲイザーという枠を超えて、ノイズ、メタル、エレクトロニカ、フォークといった多ジャンルを融合する“変異的ポップ”として今なお再評価されています。

アーティストについて

COALTAR OF THE DEEPERS(略称 COTD)は、1991年に東京で結成されたオルタナティブ・ロック/シューゲイザーバンドです。
バンドの中心人物である NARASAKI(Vo/Gt)を軸に、シューゲイザー的なギター・反響音世界を基盤にしながらも、ヘヴィメタル、電子音、ネオアコースティック、ボサノヴァなど多様な音楽要素を取り込み続けてきました。
『No Thank You』は、彼らのディスコグラフィーの中で、“もっともジャンルを解放し、音の境界を侵食した”作品とされており、バンドの音楽的成熟と実験性が融合した一枚です。

アルバムの特徴・個性

『No Thank You』の最大の特徴は、シューゲイザー的な轟音と反復美が、ポップ・ソングとして解体・再構築されている点にあります。
ドリーミーなヴォーカル、エレクトロニックなリズム、メタル的ブレイク、静謐なインタールード――それらが交錯して、聴く者を異化された音のループへといざないます。
また、曲ごとにメロディのポップ性もきちんと保持しており、轟音の中にも“耳に残るフック”が存在します。これは、実験的音楽とポップスの橋渡しを試みたバンドとしてのCOTDならではの設計です。
さらに、録音・アレンジ面でも電子音/ノイズの導入が進んでおり、シューゲイザーオルタナティブ・ロックの伝統に対する“反逆と再構築”を音響レベルで体現しています。
総じて言えば、このアルバムは「轟音によってポップが揺らぎ、ポップによって轟音が解きほぐされる」――そんな構造をもつ作品であり、ジャンル横断的でありながらまとまりを失わない強さがあるのです。

『No Thank You』全曲レビュー

1. It Dawns Before

  • ジャンル:シューゲイザー/ドリームポップ
  • 特徴:幕開けを飾るイントロダクション的ナンバー。ギターのリヴァーブが空間を描き、静かな序幕として機能する。淡く浮遊するメロディが、これから始まる音の旅を予感させる。

2. Good Morning

  • ジャンル:オルタナティブ・ロック/ギターポップ
  • 特徴:明るいイントロから疾走を開始。ヴォーカルが前面に出ており、シューゲイザーの影を少し残しつつポップス寄りの展開に。朝の光が差し込むような爽快感がある一方で、ギターの壁がバックグラウンドで鳴り響く。

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3. Joy Ride

  • ジャンル:ノイズロック/シューゲイザー
  • 特徴:タイトル通り疾走感を持ったトラック。ギターとドラムのアタック感が強く、ボリュームが上がるにつれて音の密度が増していく。ポップな要素を残しつつ“快楽と轟音”が共存する。

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4. Star Love

  • ジャンル:メタル/シューゲイザー
  • 特徴:ディストーションが一段と強くなり、ヘヴィなギター・ベースが轟く。歌メロはドリーミーだが、音響が破裂寸前のエネルギーを保持しており、聴き手を集中させる一曲。

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5. 15 Knots

  • ジャンル:エレクトロニカ・インタールード
  • 特徴:0:54という短さのインタールード的楽曲。エレクトロのリズムと環境音が融合しており、アルバムの構造的“呼吸”を作る。静と動の境界として重要なトラック。

6. Giant

  • ジャンル:ギターロック/オルタナティブ
  • 特徴:ストレートなリフとメロディが際立つ。轟音は控えめで、その分“歌ものロック”としての質感が強い。ポップさと演奏力がバランスよく混在している。

7. Jet Set

  • ジャンル:エレクトロ・ロック/ギターポップ
  • 特徴:軽快なビートとギターが切り替わりながら進む。タイトルの“Jet Set=時代を駆ける”というイメージ通り、洗練された都市的サウンドが背景にある。

8. The Systems Made of Greed (Don’t Bet Our Tax Ver.)

  • ジャンル:ノイズ/オルタナティブ・メタル
  • 特徴:政治的・反骨的なテーマを匂わせるタイトルとともに、音響も鋭利。重低音とノイズが増幅され、歌は曖昧ながら強い主張を持つ。暗部の深さが際立つ。

9. Hibernate

  • ジャンル:ポストロック・アンビエント
  • 特徴:2分23秒という比較的短いトラックだが、音の余白が多く含まれており、静けさが支配する。轟音の直後に配置され、聴き手を一度“休息”させる役割を果たす。

10. The End of Summer

  • ジャンル:ドリームポップ/シューゲイザー
  • 特徴:5分53秒というアルバム中長めの曲。夏の終わり=移ろいをテーマに、霞んだ歌声とギターのフィードバックが交錯。郷愁と切なさを帯びた名曲。

11. No Thank You

  • ジャンル:オルタナティブ・ロック/メロディック
  • 特徴:アルバムタイトル曲。歌メロが比較的明瞭で、ポップな印象を強く持つ。とはいえ背景にはギターの壁とノイズが存在し、コルトアーの“ポップな轟音”を象徴する。

12. Dreamman

13. Deepers’re Sleeping

  • ジャンル:インストゥルメンタルアンビエント
  • 特徴:2分01秒。タイトル通り“深部が眠る”というイメージを音で表した静かなトラック。アルバムの構造上、後半の転換点として配置されている。

14. Mexico (Ver.N)

  • ジャンル:ノイズ・ロック/エレクトロ
  • 特徴:異国情緒と破壊性が共存する一曲。ノイズギターと電子音が高速で交錯し、聴き手に“旅=迷子”の感覚を与える。

15. 春の行人坂

  • ジャンル:ドリームポップ/ジャパニーズ・オルタナティヴ
  • 特徴:和の響きを帯びたメロディと歌詞が印象的。ギターは控えめだが、ヴォーカルと鍵盤が前面に出ており、春の坂道を歩くようなゆっくりとした移動感がある。

16. Sue Is Fine

  • ジャンル:ギターロック/メロディック・ポップ
  • 特徴:4分00秒。アルバムの締めにふさわしい明快でキャッチーな曲。ギターのリフもメロディも“解放”を感じさせ、轟音と静寂の旅を終える満足感を与えてくれる。

こんな人におすすめ!

シューゲイザー/ドリームポップ/轟音ギターロックが好きな人

・ノイズ、エレクトロニカ、メタル要素を含んだ“境界音楽”に惹かれる人

・邦楽でありながら、海外オルタナティヴの質感を求める人

・轟音・静寂・メロディというコントラストを楽しみたい人

・2000年代初頭の日本ロックにおける実験的動きを掘り返したい人

同じ系統の楽曲・アルバム5選

  1. My Bloody Valentine -『Loveless
    シューゲイザーという概念を確立した金字塔。圧倒的な轟音ギターと浮遊するヴォーカルが交差し、音の物質感そのものを変えてしまった。『No Thank You』における轟音と甘美な旋律の共存は、この作品の延長線上にある。

  2. Slowdive -『Souvlaki』
    幻想的なリヴァーブとメロディの美しさを極限まで追求した作品。ドリームポップ的な静寂の中に深い情感を宿しており、『No Thank You』の“儚くも美しい残響”のルーツを辿ることができる。

  3. Deftones -『White Pony』
    オルタナティヴ・メタルとドリーミーな音像を融合させた傑作。重厚なギターと浮遊感の共存という意味で、COTDのヘヴィでアンビエントな側面に極めて近い。特に「Digital Bath」などは『No Thank You』と精神的に通じる。

  4. Mew -『 Frengers』
    デンマーク発のポスト・ロックオルタナティブ・ポップ作品。美しいメロディ、複雑な構成、轟音と透明感の両立など、COTDの“実験的ポップ”と共鳴する。轟音の裏に繊細な感情を秘めた構築美が特徴。

  5. A Sunny Day in Glasgow -『Ashes Grammar』
    新世代シューゲイザーの代表的作品。男女混声ヴォーカル、細分化された曲構成、アンビエントとポップの曖昧な境界。『No Thank You』同様、音が“溶け合う感覚”を体現している。現代的なドリームポップの進化形。

リンク

coaltarofthedeepers.bandcamp.com

open.spotify.com

まとめ

『No Thank You』は、轟音と静寂、メロディとノイズ、ポップと実験それぞれを“隣り合わせに聴く”ことの可能性を示した作品であります。
COALTAR OF THE DEEPERSは、シューゲイザーというジャンルの枠の中にとどまらず、金属的ヘヴィネス、電子的リズム、ドリーミーな歌声を導入し、日本のオルタナティヴ・ロックにおいて唯一無二の立ち位置を築きました。
このアルバムを通して「音楽とは何を壁として、何を突破として鳴らすのか」という問いを体感できるでしょう。