出典:YouTube
「音楽的狂気」という言葉があるなら、それを最も美しく体現してきたのがSquarepusherです。彼の作品を聴くと、電子音がまるで生き物のようにうねり、ドラムが脈打ち、ベースが叫ぶのを感じます。中でも『Burningn’n Tree』は、Squarepusherという存在の原初的衝動を最も生々しく記録したアルバムです。
ジャズとドラムンベース、ブレイクコアとフュージョン、スピリチュアルと機械音。
一見相反する要素を強引に融合させながら、Tom Jenkinsonの独自の世界観が完成していく過程がここに刻まれています。
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アーティストについて
Squarepusher(スクエアプッシャー)は、イギリス出身のエレクトロニック・ミュージシャン/ベーシスト、Tom Jenkinsonのソロプロジェクトです。
彼はもともとジャズ・ベースをバックグラウンドに持ち、その卓越した演奏力と音楽理論の知識を電子音楽に応用した異才です。
1990年代中盤、Aphex TwinやAutechreらが属するWarp Recordsから登場し、「インテリジェント・ドラムンベース(IDM)」の中核を担いました。ただし、彼の音楽は単なるIDMではなく、肉体的なジャズ・インプロヴィゼーションと電子的なプログラミングが奇跡的に同居している点で、他のアーティストとは一線を画しています。
『Burningn’n Tree』は、Squarepusherが“生の衝動”を最もストレートに吐き出した作品です。テクノロジーを超えた、音の暴走と詩情の共存がここにあります。
アルバムの特徴・個性
このアルバムは、Squarepusherの初期EP『Conumber EP』『Alroy Road Tracks』などをまとめたコンピレーションでありながら、実質的には一つのストーリーのように構成されています。
全編を通して感じるのは、「制御不能な熱量」です。現代の彼が見せる知的な構築美よりも、若き日の彼が持っていた爆発的なエネルギーと音楽的暴力性が前面に出ています。ビートは暴走し、ベースは疾走し、メロディは常に壊れる寸前。しかしその混沌の中に、どこかジャズ的な自由と遊び心があるのです。
また、アルバム全体の録音がローファイで、粗削りな質感を持っているのも特徴です。最新機材や完璧なミキシングではなく、「音の発明そのもの」に重点を置いている。つまり、『Burningn’n Tree』はSquarepusherの「音楽的DNA」が剥き出しのまま聴ける貴重な記録なのです。
『Burningn’n Tree』全曲レビュー
1
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ジャンル:ドラムンベース/エクスペリメンタル・ジャズ
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特徴:アルバムの幕開けを飾るにふさわしい、暴力的なブレイクビーツが炸裂する。変拍子が複雑に絡み合い、リズムそのものが意思を持って暴れているかのよう。フレットレス・ベースの奔流が音楽的理性を保ちつつ、混沌を美へと昇華させる。
2
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特徴:メロウなコード進行の上に複雑なビートが重なり、Squarepusherの“音の対比”が明確に現れている。滑らかなベースと不規則なリズムがせめぎ合い、まるで未来都市のセッションを覗き見るような感覚を与える。
3
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ジャンル:エレクトロ・ファンク/ブレイクビーツ
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特徴:流麗なシンセリードとタイトなドラムが印象的。暴力的な音圧の中にも哀愁を感じさせ、後の名曲「My Red Hot Car」などへの布石となるメロディ志向が垣間見える。
4
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ジャンル:ドラムンベース/アヴァン・ジャズ
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特徴:生演奏のようなベース即興とプログラミングの冷徹さが融合している。音の断片が絡み合いながら、有機的に呼吸するようなトラック。緊張と解放のバランスが極めて高い。
5
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特徴:ベースが主導するリズム構築が素晴らしく、音のレイヤーが段階的に変化していく。中盤のブレイクではアナログシンセがうねり、まるでライブ即興をそのまま録音したかのような熱量がある。
6
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特徴:タイトル通り、筋肉質なビートが炸裂する肉体的トラック。スピード感と破壊力が圧倒的で、Squarepusherのドラム・プログラミングが極限まで突き詰められている。
7
8
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ジャンル:テクノ/アシッド・ブレイクス
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特徴:リズムの加速と減速が自在に操られ、まるで音が重力を無視しているよう。トランス的な陶酔感とSquarepusherらしい複雑な構造が共存する。
9
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ジャンル:エレクトロニック・ジャズ
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特徴:アルバム中でも最もメロディックな曲。美しいベースラインが中心となり、電子音が周囲を包み込む。ジャズ的な構成とエモーショナルな旋律が共存しており、感情の深みを感じさせる。
10
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ジャンル:ドラムンベース/ノイズ
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特徴:テンポチェンジとノイズが不規則に炸裂する実験的トラック。タイトル通り、未知の生命体が音として襲来するかのような異様な緊張感を持つ。
11
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ジャンル:アンビエント・ジャズ
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特徴:アルバム終盤の静寂を担うトラック。穏やかなコード進行が混沌の後に訪れる救済のように響く。Squarepusherの音楽における“瞑想的側面”が顕著に現れる一曲。
12
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ジャンル:ジャズ・ブレイクス/フュージョン
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特徴:タイトル曲にして、アルバム全体のテーマを象徴する存在。燃え上がるような即興ベースと破壊的なリズムが交錯し、まるでサウンドが自己燃焼しているような壮絶なラストを迎える。
こんな人におすすめ!
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Aphex TwinやAutechreの刺激的な電子音に惹かれる人
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ジャズとエレクトロニカの融合に興味がある人
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ベースプレイやリズム理論に魅せられる音楽家志向の人
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「混沌の中の秩序」を感じたい実験音楽ファン
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精緻なプログラミングよりも“衝動”を重視するタイプのリスナー
同じ系統の楽曲・アルバム5選
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Aphex Twin『Come to Daddy』
暴力的なブレイクビーツとサウンドデザインの変態性が『Burningn’n Tree』と共鳴している。Aphex Twinの破壊衝動がSquarepusherの肉体性と交わる稀有な瞬間。 -
Venetian Snares『 Rossz Csillag Alatt Született』
クラシックとブレイクコアを融合した異端の傑作。Squarepusher同様、理性と狂気のバランスを極限まで押し上げている。 -
Flying Lotus『Los Angeles』
ビート・ミュージックの文脈における“ポスト・Squarepusher”の代表作。ジャズ的即興と電子的構築を見事に融合させている。 -
Amon Tobin『Bricolage』
サンプルの細密な構築とジャズへの愛情が融合したアルバム。Squarepusherのリズム構造と近い精神性を持つ。 -
Clark『 Body Riddle』
電子音を有機的に操るアプローチで、Squarepusherのカオス理論を継承している。構造的でありながら生々しい躍動感が共通している。
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まとめ
『Burningn’n Tree』は、Squarepusherという音楽生命体の**“原点であり原風景”**です。
ここには、テクノロジーよりも人間的な衝動、知性よりも感情が詰まっています。
ドラムンベースの速度とジャズの即興性を融合させたこのアルバムは、音楽史の中でも特異な位置に立っています。
混沌としたサウンドの中に一瞬見える「秩序の閃き」こそ、Squarepusherが20年以上にわたって追い求めてきたテーマなのです。
『Burningn’n Tree』は、聴くたびに新しい音が現れ、聴くたびに理解を拒む。
だからこそ、これはただのアルバムではなく、**「音の哲学書」**なのです。
