出典:YouTube
2017年、ロンドンを拠点に活動する電子音楽プロデューサー Larry Cadge によるフルアルバム『Me, Myself and Larry』が発表されました。
クラブ・ハウスからテックハウスへと進化を続けるUKのシーンにおいて、この作品は“自己探求”をテーマに掲げ、ビートの奥に静かな思索を浮かび上がらせる作品です。タイトルにある「自分自身」を示す言葉通り、音で描かれた“内なる旅路”として聴き手を誘います。
アーティストについて
Larry Cadgeは、ロンドン拠点のDJ/プロデューサーであり、レーベル「Smiley Fingers」を主宰しています。
2010年代以降、テックハウス/テックニックハウス/ハウスのシーンで着実に活動を積み重ね、ディープでロフト感のあるサウンドを展開してきました。
本作『Me, Myself and Larry』は、その蓄積を経て“アルバム”というフォーマットで提示された、Larryにとってのひとつの到達点と言えるでしょう。
アルバムの特徴・個性
このアルバムの特徴は以下の3点です。
-
テック/ハウス基調にして、メロディック/内省的な側面を持つ:
クラブで機能するビートと、リスニングでも心地よく響くメロディ性が共存しています。 -
タイトルの通り「自己(Me, Myself)」の視点:
トラック名・構成・音の空気感に“自分を見つめる”ニュアンスが漂っています。「Leave Behind」「Reflective」など、曲名からもそのモードが読み取れます。 -
モダンなハウスサウンドのなかに“余白”がある:
音数が多くなく、リズム/ベースライン/シンセの重なりにゆとりがあり、空間性が生まれています。この余白が“深掘り”を可能にしている点が、本作の魅力です。
ジャンル的にはテックハウス/ハウス(Tech House/House)を軸に、メロディックハウスやディープハウスのエッセンスも取り込んでおり、クラブ・リスニングのいずれにも目配せした構成です。
『Me, Myself and Larry』全曲レビュー
1. Intro
-
ジャンル:テックハウス/アンビエント・イントロ
-
特徴: 静かなパッドと軽いビートが空間を震わせながら始まる導入トラック。余白をたっぷりと取りながら、アルバムのテーマ「自分との対話」が音として立ち上がる。
2. Funkin’ always
-
ジャンル:テックハウス/ファンキーハウス
-
特徴: タイトル通り“ファンク”の影響が濃い。ベースラインが跳ね、ギルドされたシンセがグルーヴを形作る。クラブ感と“遊び”を兼ね備えたトラックであり、アルバム中盤に向けてテンションを上げる役割を担っている。
3. Me, Myself and Larry
-
ジャンル:メロディックハウス/ハウス
-
特徴: アルバムタイトル曲。メロディが印象的で、Larry自身の“自己”を音にしたような構造を持つ。ビートに寄り添うヴォーカルサンプルや空間的なリバーブが、自己反省的なムードを醸し出している。
4. Weathered
-
ジャンル:ディープハウス/テックハウス
-
特徴: やや落ち着いたテンポと、湿った雰囲気のシンセが印象的。“風化した”と訳せるタイトルが示すように、時間の経過や重みを感じる音像。リズムは安定的だが、余韻に揺らぎがある。
5. Visionnaire
-
ジャンル:ハウス/プログレッシブハウス
-
特徴: 「ビジョンを持つ者」という意味を帯びたこの曲は、未来志向のシンセリフと力強いドラムが特徴。展開がややドラマティックで、ビートの上昇感とともに“次のステージへ進む”感触がある。
6. Andiamo
-
ジャンル:テックハウス/ハウス
-
特徴: イタリア語で「行こう」という意味のタイトルが示すように、足を動かさずにはいられないドライヴ感のあるトラック。ハウスらしい4つ打ちを基盤に、シンセやパーカッションがアクセントとなっている。
7. Restless
-
ジャンル:テックハウス/ミニマルハウス
-
特徴: 「落ち着きがない」という意味を持つタイトルどおり、細かく刻まれるハットやベースが揺れ動く。ビートは跳ねず、むしろ揺れ続けることで“ざわめき”を音にしている。
8. Leave Behind
-
ジャンル:ハウス/メロディックハウス
-
特徴: 過去を“置いていく”というテーマがうかがえる。メロディが比較的明確で、他曲よりもポップな要素がある。クラブでもリスニングでも機能しうるバランスの取れた楽曲。
9. Reflective
-
ジャンル:アンビエント・ハウス/ディープハウス
-
特徴: タイトル通り“反省的”なムード。ビートは控えめで、シンセパッドと軽いリズムが静かに揺れる。夜中一人で聴くと、音に包まれて考えごとをしたくなるような静けさがある。
10. Here I Am
-
ジャンル:ハウス/テックハウス
-
特徴: 立ち上がりを感じさせるトラック。「ここにいる」という宣言とも取れるタイトル。ビートは安定し、メロディも明瞭。アルバム終盤の“再起動”を象徴するような構成。
11. Lost in Love
-
ジャンル:ダウンテンポ/ハウス・ラウンジ
-
特徴: アルバムのラストを飾る短めのトラック。タイトルどおり“愛に迷う”ような情感を微細に描いている。ビートは控えめで、余韻として音が残るラストシーンのような曲。
こんな人におすすめ!
-
ハウス/テックハウスのフォーマットをベースに、音の質感や余白を重視した作品を探している人
-
クラブ向けの音楽だけでなく、自宅でじっくり聴ける“グルーヴ+内省”を求める人
-
UKハウスシーンの近年の動向を掘り下げたい人、特にロンドン発のプロデューサーに興味がある人
-
夜中や早朝の静かな時間に合わせて、音楽で気持ちを整理したい人
-
ビートがしっかりしていながらも、メロディや雰囲気に重きを置いたハウス作品を好む人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
-
Christian Löffler - 『Mare』
ドイツ発のエレクトロニカ/ハウス作。メロディとグルーヴ、余白のバランスが絶妙。 -
Black Loops - 『Becoming Real』
ロンドンのハウスプロデューサーによる作品。ファンク要素とメロディックハウスの融合が特徴。 -
Peggy Gou - 『Moment』
韓国発のDJによる作品。テックハウスのビート感とメロディ性を併せ持ち、クラブからリスニングへも対応。 -
Yaya - 『Maher Be Like』
ギリシャ出身のプロデューサーによるハウス/ディープハウス作。余裕あるリズムと感情豊かなメロディが響く。 -
Folamour - 『Always』
フレンチ・ハウスの流れをくむ作品。ファンク、ディスコ、ハウスがミックスされ、“踊れるけど聴ける”スタイル。
リンク
まとめ
『Me, Myself and Larry』は、クラブミュージックであるハウス/テックハウスのフォーマットを背景に、“自己”を見つめるための音の旅を構築した作品です。
ビートで体を揺らしながらも、メロディや余韻で心を揺さぶる──その二面性がこのアルバムの魅力。
「音で自分と向き合う」ことを可能にしてくれる作品として、ハウス好きのみならずリスナー全般に届くべき1枚です。