出典:YouTube
Ian Pooley は90年代以降のハウスミュージックを語るうえで欠かせない存在です。テクノを基盤にしながら、ブラジル音楽やラテンパーカッション、ジャズ、ソウルなどを柔軟に取り込み、温度感のあるハウスを作り続けてきました。
『Since Then』は2000年にリリースされた彼の代表作で、クラブミュージックの枠を越えて“リスニング・ハウス”としても評価が高い作品です。特にブラジリアン・ハウスの礎を築いた作品として語られることが多く、当時のダンスミュージックシーンに新たな色彩を持ち込んだ重要作でもあります。
本作はクラブ向けの強めのグルーヴから、自宅でのチルアウトに寄り添う柔らかな音像まで幅広く、Ian Pooleyの音楽家としての多面性を堪能できるアルバムになっています。
🎧 Amazon Music Unlimitedで『Since Then』を聴く
アーティストについて
Ian Pooley(本名:Ian Pinnekamp)はドイツ出身のプロデューサー/DJです。
90年代前半はテクノシーンで活躍し、後にハウスへと傾倒。ディープでメロディアス、そして“ウォーム”と評される独特の音像を形成していきました。
彼が特徴的なのは、生演奏的な質感やブラジル音楽の要素を積極的に取り入れている点です。ブラジルの名門レーベル Far Out Recordings と親交を深めたことで、シーンでも珍しい“本格ブラジリアン・ハウス”を生み出すようになり、その流れは『Since Then』でピークに達しました。
アルバムの特徴・個性
『Since Then』は、ハウスミュージックを軸にしつつも、クラブユースとリスニングの両立を高い次元で実現している作品です。ブラジル音楽のリズム、アコースティックギターの響き、ジャズ的コード、ドイツらしいミニマルな構造が混ざり合い、軽やかでありながら奥深い音像を作り出しています。
アルバム全体を通してメロディ感が強く、エレクトロニックミュージックでありながら、暖かさや生感が前面に出ている点が際立っています。また、テンションをキープするクラブトラックだけでなく、ボーカルトラックやチルアウト系の楽曲も配置されているため、流れに起伏と彩りがあるところも本作の魅力です。
『Since Then』全曲レビュー
1. Coração Tambor (Intro)
- ジャンル:ブラジリアン・エレクトロニカ / ダウンテンポ
- 特徴:短いイントロだが、アルバムの世界観を一気に提示する導入。打楽器の温かい質感とささやくようなメロディが空間を満たし、ブラジル的なリズムフィーリングが早くも顔を出す。
2. Venasque
- ジャンル:ディープハウス / ミニマルハウス
- 特徴:スムースな4つ打ちにミニマルなコードが重なり、洗練された空気を作り出す楽曲。過剰な展開を排したトラック構造は深く、クラブの奥で静かに揺れるような感覚を誘う。
3. Since Then
- ジャンル:ディープハウス / ブラジリアン・ハウス
- 特徴:アコースティックギターの軽やかなストローク、柔らかなシンセ、跳ねるリズムなどが有機的に溶け合っている。落ち着いているのに高揚するという、彼が得意とする“ウォームなグルーヴ”の典型例。
4. Bay of Plenty
- ジャンル:ラウンジ・ハウス / チルハウス
- 特徴:南国の海を思わせる開放的な曲調で、シンセの広がりと柔らかいパーカッションがリラクゼーションをもたらす。クラブトラックというよりは、ビーチやサンセットに合う“リスニング・ハウス”寄りの楽曲。
5. Coração Tambor
- ジャンル:ブラジリアン・ハウス
- 特徴:アルバムの中核を担うブラジル色の強いトラック。生のパーカッションがリズムの表情を豊かにし、サンバ的要素とハウスグルーヴが見事に融合している。暖色の音像と跳ねるビートは高揚感をもたらし、ダンスフロアでも映えるエネルギーを持っている。
6. Balmes
- ジャンル:ラテンハウス / ディープハウス
- 特徴:スペイン語圏のストリートの空気を纏っており、ギターのフレーズが前面に出るラテン色の強い楽曲。ビートはタイトだが、メロディは非常に軽やかで、風通しの良いサウンドデザインが印象的。
7. Visions
- ジャンル:ボーカル・ディープハウス / プログレッシブ・ハウス
- 特徴:Kirsty Hawkshawの透明感あるボーカルが神秘的で、アルバムの中でもひときわポップな楽曲。空間系のシンセとメロディアスなコード進行がドラマ性を与え、ダンスフロアでも映える構成となっている。アコースティックとエレクトロニックの間を浮遊する絶妙なバランスが魅力。
8. Spicy Snapper
- ジャンル:ディープハウス / フィルターハウス
- 特徴:フィルター処理されたサンプルが躍動し、グルーヴのスムースさとファンキーさが共存している。反復するベースラインと細やかなハイハットが推進力を生み、混ざり合う音色がダイナミック。
9. Menino Brincadeira
- ジャンル:ブラジリアン・ハウス / ボサノバ・ハウス
- 特徴:ボーカルにブラジルデュオ Rosanna & Zélia を迎え、ボサノバ的なメロディラインを取り入れた温かな楽曲。アコースティックギターが主役となり、優雅で微笑ましいムードを形成している。ハウスのビートとブラジル音楽の融合が最も“歌もの”として成功している一曲。
10. 900 Degrees
- ジャンル:フィルターハウス / ファンキー・ハウス
- 特徴:Pooley の代表曲として知られ、跳ねるようなフィルタリングとファンキーなベースが強烈な中毒性を生むクラブアンセム。ディスコ的なサンプルの使い方が巧みで、展開の高揚感が非常に強い。
11. Sundowner
- ジャンル:チルアウト / ダウンテンポ
- 特徴:一日の終わりを思わせるタイトル通り、柔らかいアンビエンスとゆったりしたビートが心をほぐす。サンセットハウス的な情緒に満ちており、クラブの喧騒から離れて深呼吸するようなポジションの曲。
12. Cloud Patterns
-
ジャンル:アンビエント / チルアウト
-
特徴:最後を締めくくる、美しいアンビエントトラック。雲の流れを表現するように、シンセの揺らぎが穏やかに続き、物語の余韻を長く残す。
こんな人におすすめ!
・ブラジリアン・ハウスやラテン色のあるダンスミュージックが好きな人
・クラブミュージックでも“温かさ”や“メロディ”を重視する人
・ディープハウスの柔らかい質感が好みの人
・カフェや自宅リスニングにも合うエレクトロニックを求めている人
・ハウス初心者にも聴きやすいアルバムを探している人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
-
Miguel Migs『Colorful You』
西海岸ハウスの代表作で、ソウルやラウンジの感覚を取り入れた温かいディープハウスが詰まった作品。Ian Pooley同様、メロウでグルーヴィな音作りが魅力。 -
Thievery Corporation『The Mirror Conspiracy』
ラウンジ、ボサノバ、ダブを取り込んだエレクトロニカの名盤。ブラジル音楽との親和性が高く、『Since Then』の優雅なムードと共振する。 -
Ananda Project『Release』
ボーカルを用いたソウルフルなディープハウスの金字塔。リスニング性の高さとクラブのグルーヴを両立させており、Pooley作品と美意識が近い。 -
Jazzanova『In Between』
ブラジル、ジャズ、エレクトロニカが融合した作品で、音楽的厚みと精密なビートメイクが魅力。ブラジリアンテイストのあるハウスが好きなリスナーに最適。 -
Osunlade『Paradigm』
スピリチュアルなディープハウスを確立した名盤で、自然音や民族要素を取り入れた有機的なトラックが並ぶ。暖かさや生感を重視するPooleyファンに刺さる作品。
この記事で紹介したアルバム
▶ 配信サービスで聴く
🎧 Amazon Music Unlimited
🎧 Apple Music
🎧 Spotify
▶ 作品を買う
まとめ
『Since Then』は、Ian Pooleyが持つ“温度感のあるハウス”の魅力を最も豊かに味わえる作品です。
クラブで機能するビートを持ちながら、ブラジル音楽の情緒やチルアウトの穏やかさも含んでいるため、幅広いシーンで愛され続けています。とりわけ、のびやかで有機的な音作りは、2000年代以降のハウスシーンに大きな影響を与えました。
ダンスミュージック初心者にも聴きやすく、同時に玄人も深く楽しめる完成度の高いアルバムです。Ian Pooleyの魅力を知るには最適の一枚と言えるでしょう。