出典:YouTube
US3の代表作『Hand on the Torch』(1993)は、ジャズとヒップホップの融合が本格的に市民権を得始めた時代に、サンプリングと生演奏のバランスを高次元で実現した名盤です。
本作はBlue Noteの音源を公式にサンプリングして制作された初のアルバムとして知られ、リリースから30年以上が経った現在でも“ジャズラップ”というジャンルを語るうえで避けて通れない存在です。
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アーティストについて
US3(アスリー)は、イギリス・ロンドンを拠点に活動するプロデューサー集団で、中心人物はGeoff WilkinsonとMel Simpsonです。ヒップホップのビート感とジャズの豊かな音楽性を結びつけたサウンドが特徴で、Blue Note Recordsと契約したことで、一流ジャズ音源のサンプリングが可能になった歴史的背景を持ちます。
特に『Hand on the Torch』発表後、彼らはジャズラップの代表格として世界的に認知され、当時の“アシッドジャズ”“トリップホップ”ムーブメントとも共鳴しました。ミュージシャンシップとクラブカルチャーの感性を併せ持つ点がUS3の魅力です。
アルバムの特徴・個性
『Hand on the Torch』は、Blue Note音源を核にしたサンプリングと、生演奏のグルーヴを融合している点が大きな特徴です。ジャズの持つ流麗なフレーズと、90年代ヒップホップの太いビートが組み合わさることで、軽やかさと重厚さが高い次元で共存しています。
また、サンプリング感がありながらも、不自然なコラージュ感がなく、一枚の作品としての“流れ”が強く意識されています。クラブで機能する曲からリスニング用の曲まで幅広く、ジャズ初心者が入門として聴くにも最適なバランスの良さがあります。
『Hand on the Torch』全曲レビュー
1. Cantaloop (Flip Fantasia)
・ジャンル:ジャズ・ヒップホップ/アシッド・ジャズ
・特徴:Herbie Hancock「Cantaloupe Island」のフレーズを大胆に引用した本作の代表曲。跳ねるエレピと太いビートが印象的で、ラップの小気味良さも相まってジャズとヒップホップの理想的融合を実現している。
2. I Got It Goin’ On
・ジャンル:ジャズ・ヒップホップ
・特徴:ベースラインが前面に出たグルーヴィな一曲。サックスのフレーズとラップの掛け合いが軽妙で、クラブでの機能性が高い。
3. Different Rhythms Different People
・ジャンル:インタールード/ジャズ
・特徴:短い尺ながら、民族的なリズムとジャズサンプリングを組み合わせた実験的な雰囲気を持つ。アルバムの音世界を繋ぐ役割を果たしている。
4. It’s Like That
・ジャンル:ジャズ・ヒップホップ
・特徴:渋いホーンセクションが特徴で、サンプリングを巧みに繋ぎながらラッパーのフロウを引き立てる構造。洗練された都会的空気感が漂う。
5. Just Another Brother
・ジャンル:ジャズ・ヒップホップ
・特徴:メランコリックなサックスラインが印象的で、リリックとトラックが深く結びついたナンバー。US3の叙情的側面がよく表れている。
6. Cruisin’
・ジャンル:アシッド・ジャズ
・特徴:ゆったりとしたグルーヴで、夜のドライブが似合うスムースな質感が魅力。生演奏とサンプリングの境界が曖昧になるほど自然な仕上がり。
7. I Go To Work
・ジャンル:ジャズ・ヒップホップ
・特徴:タイトなビートと鋭さのあるホーンサンプルで構成されたグルーヴ主導の楽曲。ラップは小気味良く、全体として腰の据わったストリート感が強い仕上がり。
8. Tukka Yoot’s Riddim
・ジャンル:ジャズ×レゲエ/リズム融合
・特徴:レゲエの刻みとジャズのフレーズが自然に同居する、アルバムでも特異な存在の曲。跳ねるビートが心地よく、ジャズラップの枠を越えた多文化的ミクスチャー性を感じられる。
9. Knowledge Of Self
・ジャンル:ジャズ・ヒップホップ
・特徴:リリックがより思想的で、深いメッセージ性を帯びた曲。サックスの柔らかいフレーズが精神性のあるラップを支え、落ち着いたが強い存在感を放つ。
10. Lazy Day
・ジャンル:ジャズ・ヒップホップ
・特徴:ゆったりとしたテンポと柔らかな鍵盤の響きが、タイトル通りの“怠惰な午後”を描写する曲。耳当たりが良く、アルバムの中でも特にリラックス感を提供する。
11. Eleven Long Years
・ジャンル:ジャズ・ヒップホップ
・特徴:泥臭さを含んだビートとソウル感の強いホーンが響く、情感豊かな楽曲。リズムの重心が低く、ストーリーテリングの深さが際立つ。
12. Make Tracks
・ジャンル:アシッド・ジャズ
・特徴:爽快なビートと軽やかなメロディが特徴。アルバム全体の流れに明るさとスピード感を与える役割を果たしている。
13. The Darkside
・ジャンル:ダークジャズ/ヒップホップ
・特徴:重低音と不穏なサンプリングが組み合わさった陰影深いトラック。終盤に配置されることでアルバムをドラマチックに締める効果を持つ。
こんな人におすすめ!
・ジャズとヒップホップの融合が好きな人
・アシッドジャズ、トリップホップ周辺を聴く人
・Blue Note作品の“現代的な聴き方”を探している人
・リラックスしつつもグルーヴを感じたい人
・サンプリングの魅力を深掘りしたい人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
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Guru『Jazzmatazz, Vol.1』
ジャズミュージシャンの生演奏をヒップホップと融合した記念碑的作品。US3と並び“ジャズラップの原点”として語られる一枚。 -
A Tribe Called Quest『The Low End Theory』
低音中心のビートとジャズサンプリングを軸にした名盤。US3が築いた音像の源流といえるスタイルを確立した作品。 -
St Germain『Boulevard』
ハウスとジャズを融合したフレンチ・エレクトロニカの草分け的存在。『Hand on the Torch』と同じく都会的で洗練された空気を持つ。 -
The Herbaliser『Blow Your Headphones』
ヒップホップとジャズ、ファンクを高いレベルでミックスした作品。Ninja Tune勢らしい鋭いプロダクションが魅力。 -
DJ Cam『Substances』
トリップホップとジャズを融合した暗めの空気感を持つ作品。US3が明るい方向へ進んだのに対し、こちらは夜の深い時間帯に溶け込む音像を提示している。
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まとめ
US3『Hand on the Torch』は、ジャズとヒップホップの境界を軽々と飛び越え、今聴いても新鮮に響くエポックメイキングな名盤です。
Blue Note音源の豊かな質感と、ヒップホップのビートの力強さが見事に融合し、ジャズラップの入門にも最適な作品です。全曲通して完成度が高く、30年経った現在でも多くの音楽ファンを魅了し続けています。
これからジャズラップを掘り下げたい人にも、当時のクラブカルチャーを振り返りたい人にも強くおすすめできる一枚です。
