出典:YouTube
Hailu Mergia(ハイル・メルギア)は、エチオピア音楽の伝説的キーボーディストであり、長らくワシントンD.C.でタクシードライバーとして働きながらも音楽活動を続けてきた稀有な存在です。2010年代に入って再評価が進むと、彼の過去作は世界中のジャズファン/ワールドミュージック・ファンから絶賛を浴び、71歳でリリースされた本作『Lala Belu』(2018)はまさに“奇跡の復活作”として大きな話題となりました。
この作品は、エチオピアの伝統音階とジャズ、ファンク、アンビエント的な浮遊感が溶け合い、長い時間を経てなお衰えるどころか深みを増したメルギアの音楽性を味わえるアルバムです。
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アーティストについて
Hailu Mergiaは1970年代にエチオピアの名門バンド「Walias Band」のキーボーディストとして活躍し、アディス・アベバのクラブシーンを支えた重要人物です。独特の“エチオピア音階(テズェータなど)”をベースにした鍵盤の旋律は、哀愁と温かさをあわせ持ち、唯一無二の世界を作り上げています。
80年代にアメリカへ移住後、音楽活動は細々としたものになりましたが、彼の過去作が再発され評価が高まると状況が一変。世界的フェスへの出演やワールドツアーなど、まさに“遅すぎる再デビュー”を果たすことになりました。
アルバムの特徴・個性
『Lala Belu』は、復活を遂げたHailu Mergiaが提示する現在形のエチオ・ジャズです。伝統とモダンの絶妙なバランス、そしてミニマルで静かなのにどこか熱いグルーヴが全編に漂っています。
特に特徴的なのは以下の点です。
・鍵盤の旋律が語りかけるように歌う
シンセ、エレピ、アコーディオンなどを自在に操り、音数を絞りながらも情緒をたっぷり含んだ演奏を展開します。
・ミニマルだが感覚的に豊かなアンサンブル
ドラムとベースを含むトリオ編成が中心で、過剰に盛り上がることなく、淡々と進む中に“深い音のうねり”が宿っています。
・ワールド/アンビエント/ジャズが溶け合う境界のない音楽性
ジャンルに縛られない自由な演奏が、聴き手に広大な風景を思い起こさせます。
・70歳を超えたアーティストの“枯れた味”ではなく、むしろ鋭さが光る現役感
粗削りさはなく、流れるようなタッチと無駄のないフレーズが音楽への愛と経験値を感じさせます。
『Lala Belu』全曲レビュー
1. Tizita
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ジャンル:エチオ・ジャズ/アンビエント
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特徴:エチオピアの伝統的な哀愁音階“テズェータ”をモチーフに、アコーディオンの響きがしっとりと広がるオープニング。ドラムとベースの動きは控えめで、まるで記憶の底を探るような深い情緒を生み出している。
2. Addis Nat
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ジャンル:エチオピアン・ファンク
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特徴:軽快なリズムに乗って鍵盤がスリリングに走る、ファンキーで疾走感のある曲。短いフレーズの反復がトランス的な高揚感を生み、都市の喧騒を思わせるエネルギーに満ちている。
3. Gum Gum
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ジャンル:エチオ・グルーヴ/ジャズ
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特徴:ゆるやかに揺れるベースラインの上で、メロディが穏やかに浮かんでは沈む曲。控えめなメロディの反復が聴き手に余白を与え、心地よい瞑想感をもたらす。
4. Anchihoye Lene
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ジャンル:エチオ・ジャズ/ワールド・フュージョン
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特徴:倍音豊かなエレピのフレーズがリズミカルに躍動し、伝統的なエチオピアの雰囲気とモダンなジャズの質感が自然に溶け合う楽曲。ドラムの抑制されたタッチが、独特の浮遊感と緊張感の両方を生み出している。
5. Lala Belu
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特徴:アルバムのハイライトともいえる表題曲であり、緩やかなメロディラインが広がり、まるで地平線を見つめるような包容力を持つ。演奏はミニマルながら陰影が深く、繊細な音の配置によって独自の世界観を形作っている。
6. Yefikir Engurguro
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ジャンル:エチオ・フォーク/ジャズ
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特徴:民族的フレーズを交えながら、軽やかで温かい雰囲気を醸す楽曲。アコーディオンの音色が牧歌的で、風景描写的な広がりを持つ。
7. Yefikir Akalu
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ジャンル:エチオピアン・ジャズ/アフロ・グルーヴ
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特徴:締めくくりにふさわしい明るさとリズム感があり、メロディが軽快に踊る楽曲。ドラムとベースの絡みはシンプルだが、絶妙な呼吸感があり、長い旅路を終えて帰郷するような解放感を感じさせる。
こんな人におすすめ!
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エチオピア音楽やワールドミュージックに興味がある人
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ピアノやアコーディオン主体の静かなジャズが好きな人
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ミニマルでアンビエント寄りの“静かに熱い”グルーヴを求める人
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伝統音楽×モダンなアレンジの融合が好きな人
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作業用にも鑑賞用にも向く“心地よい音”を探している人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
1. Mulatu Astatke『Ethio Jazz』
エチオ・ジャズの父と称されるアーティストによる代表作であり、伝統音階とジャズの融合が本作と深く共鳴する。重厚なグルーヴと哀愁のメロディが魅力であり、『Lala Belu』の源流を知る上でも重要な一枚。
2. Getatchew Mekurya『Negus of Ethiopian Sax』
フリージャズ的な爆発力とエチオピアン音階が大胆に融合した作品。Hailu Mergiaの静謐なアプローチとは対照的ながら、民族的な深さを共有している。
3. Debo Band『Debo Band』
エチオピア音楽をバンド形式でダイナミックに再構築したアルバム。モダンな編集感覚と伝統音階の相乗が強く、ワールドジャズとしての広がりが魅力。
4. Tinariwen『Amassakoul』
マリ出身の砂漠ブルース・バンドによる名作。音階やリズムは異なるが、ミニマルな反復と深い感情表現という点で『Lala Belu』と精神的な共通点がある。
5. Ethio Stars / Tukul Band『The Very Best of Ethiopiques』
エチオピック・シリーズの中でも特に人気の高い一枚であり、エチオピア音楽の伝統とモダンなアレンジのバランスが秀逸。本作の背景となる文化的文脈をさらに理解できる。
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まとめ
『Lala Belu』は、70代で復活を遂げたHailu Mergiaが新たな到達点として提示した、静かで奥深いエチオ・ジャズ作品です。アコーディオンやエレピで紡がれる独特の旋律は、時間の経過と共に成熟した音楽家の人生そのものを映しており、伝統音楽の枠を超えた普遍的な魅力を感じさせます。
エチオピア音楽初心者にとっても、ワールド/ジャズ/アンビエント好きにとっても受け入れやすく、長く聴き続けられる傑作です。
