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Isotope 217°『Utonian Automatic』(1999)|シカゴ発・未来派ポストロックの異形マスターピース

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出典:YouTube

1990年代後半、アメリカのシカゴでは音楽の境界線が次々と塗り替えられていました。ロック、ジャズ、エレクトロニカ、ヒップホップ。それらを解体し、全く新しい響きとして再構築する「シカゴ音響派」と呼ばれるムーブメントの渦中に、Isotope 217は存在していました。

アルバム『Utonian Automatic』は、前作『The Unstable Molecule』で提示したポスト・ロック×ジャズのスタイルをさらに抽象化し、タイトルが示す通り「自動的(Automatic)」かつ「理想郷的(Utonian)」な音響空間を作り上げています。

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アーティストについて

Isotope 217°は、当時のシカゴ・アンダーグラウンドを象徴するスーパーユニットです。

  • Jeff Parker:Tortoiseのギタリストであり、現代ジャズの最重要人物。

  • John Herndon:Tortoiseのリズムを支えるドラマー。

  • Dan Bitney:Tortoiseのマルチ奏者。

  • Rob Mazurek:コルネット奏者であり、シカゴ・アンダーグラウンドの核。

  • Matthew Lux:グルーヴの番人であるベーシスト。

彼らの音楽は、ジャズの自由な即興性と、エレクトロニカの冷徹な編集感覚、ヒップホップの重厚なビート感覚が、奇跡的なバランスで同居しています。本作は、その実験的精神が最も純粋な形でパッケージされた一枚です。

アルバムの特徴・個性

『Utonian Automatic』の最大の特徴は、リズムとグルーヴの不安定さです。
拍は存在しますが、常に揺らぎ、意図的にズラされます。そのズレが、独特の浮遊感と緊張感を生み出しています。

また、本作は、

  • ポストロックの構築性

  • ジャズロックの即興的展開

  • ファンク由来の身体性

  • ダブ/エレクトロニカ的空間処理

が高密度で共存しています。結果として、「踊れないのに身体が反応してしまう音楽」という、極めて特殊な聴取体験を生み出しています。

『Utonian Automatic』全曲レビュー

1. LUH

  • ジャンル: アブストラクト・ジャズ / ヒップホップ

  • 特徴: アルバムの冒頭を飾るのは、地を這うような重厚なビートが印象的なトラック。J Dillaを彷彿とさせる「ヨレ」のあるドラムに、不穏なベースラインが絡みつく。Rob Mazurekのコルネットが断片的に響き、ダブ的な残響が空間を埋めていく様は、リスナーを一気に音響派の深淵へと引きずり込む。

2. Audio Champion

  • ジャンル: エクスペリメンタル・ファンク / 音響派

  • 特徴: 複数のリズムが複雑に重なり合いながら、一つの巨大なグルーヴを作り出すスリリングな楽曲である。Jeff Parkerのギターが、打楽器のようにパーカッシブなフレーズを刻み、その間を電子音が縫うように走り抜ける。楽器の生音と合成音が極めて高い次元で融合しており、ヘッドフォンで聴くと音の粒子が立体的に移動する快感を味わえる。

3. New Beyond

  • ジャンル: モダン・ジャズ / ポスト・ロック

  • 特徴: 伝統的なジャズのクインテット編成のような響きを持ちつつ、その構造は完全にポスト・ロック的なアプローチで解体されている。中盤の静寂パートから、徐々に熱量を帯びていくアンサンブルの構築美が見事。

4. Rest For The Wicked

  • ジャンル: アンビエント・ジャズ / ダブ

  • 特徴: どこか「邪悪な安らぎ」を感じさせる静謐な小品。空間を漂うようなギターの音色と、遠くで鳴るコルネットの残響。音数は極限まで絞り込まれ、一音一音の背後にある「沈黙」が主役となっている。

5. Looking After Life on Mars

  • ジャンル: アヴァン・フュージョン / スペース・ジャズ

  • 特徴: 70年代のMiles Davisが持っていたサイケデリックなファンクネスを、現代的な音響技術でアップデートしたような趣がある。予測不能なシンセサイザーのノイズが、楽曲に有機的な揺らぎを与えており、本作の中でも最も実験精神に溢れたトラック。

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6. Solaris

  • ジャンル: シネマティック・ジャズ / 室内楽

  • 特徴: Stanisław LemのSF小説、あるいはAndrei Tarkovskyの映画を連想させる、瞑想的で重層的なナンバー。穏やかな旋律が繰り返される中で、音のレイヤーが少しずつ変化し、聴き手の時間感覚を狂わせていく。ミニマリズムの美学と、ジャズの叙情性が高いレベルで結晶化しており、アルバム終盤に向けた深い沈潜を促す。

7. Real MC’s

  • ジャンル: ジャズ・ファンク / アウトロ

  • 特徴: アルバムの最後を締めくくるのは、意外にもファンキーな手触りを持つ楽曲。リズムは常に変容し続け、楽器同士が会話するように即興を繰り広げる。最後の音が消えた後、リスナーの耳には不思議な達成感と、もう一度最初から聴き直したくなるような中毒性が残る。

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こんな人におすすめ!

  • 実験音楽、音響系が好きな人

  • ジャズとロックの融合に興味がある人

  • エレクトリック・マイルスの混沌としたグルーヴが好きな人

  • ヘッドフォンで「音の立体感」に没入したいオーディオ愛好家

  • 90年代オルタナティブの深部を掘りたい人

同じ系統の楽曲・アルバム5選

1. Tortoise『TNT』

シカゴ音響派を定義した、避けては通れない金字塔。本作のメンバーの多くが参加し、音楽的な遺伝子はほぼ同一だが、『TNT』がよりブラジル音楽やミニマリズムを取り入れた「明るい構築美」を持つのに対し、本作はより「ダークな即興性」に重きを置いている。

2. Chicago Underground Trio『Flamethrower』

Rob Mazurek率いるユニットによる、ジャズとエレクトロニクスの衝突地点。Isotope 217°よりもジャズのインプロヴィゼーションが剥き出しになっており、火花が散るような演奏が楽しめる。

3. Jeff Parker『The New Breed』

Isotope 217のギタリストのソロ作。90年代の音響派の精神を、2010年代のJ Dilla以降のビート感覚で再解釈した歴史的傑作。

4. Makaya McCraven『In the Moment』

現代シカゴ・シーンの最重要ドラマーによる、即興演奏をライブ録音し、それを後からエディット(再構築)して楽曲にする手法をとったアルバム。Isotope 217°が本作で行った「演奏と編集の融合」というコンセプトを、より現代的なビート・シーンの文脈で爆発させた作品。

5. Miles Davis『Bitches Brew』

ジャズを解体し、ロックやファンクのダイナミズムを注入した歴史的怪作。Isotope 217が本作で見せる「多層的なアンサンブル」や「編集による楽曲構築」の最大のルーツ。

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まとめ

『Utonian Automatic』は、人間による生々しい表現(演奏)を、テクノロジーというフィルター(編集)に通すことで生まれる、全く新しい種類の美学を提示した作品です。

リリースから年月が経ち、音楽制作の環境は大きく変わりましたが、彼らがこのアルバムで示した「音に対するストイックなまでの好奇心」は、今もなお聴く者の心を揺さぶります。もし既存のジャンルの枠組みに退屈しているなら、このアルバムを再生してみてください。