出典:YouTube
もし、Quentin Tarantinoが60年代のパリでスパイ映画を撮影し、その劇伴を現代のサイケデリック・職人たちに依頼したなら――。その答えこそが、Unlovedの音楽です。
本作『Guilty of Love』は、聴く者を瞬時に現実から切り離し、煙の充満した地下のジャズクラブや、濡れたアスファルトが光る真夜中のハイウェイへと連れ去ります。そこにあるのは、かつてのポップ・ミュージックが持っていた純粋な煌めきではなく、それを一度粉々に砕き、毒と影を混ぜ合わせたような「大人のためのファンタジー」です。
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アーティストについて
Unlovedは、DJ・プロデューサーのDavid Holmes、映画監督で映像作品も手掛けるKeefus Ciancia、シンガー・ソングライターのJade Vincentという、異色の経歴を持つ3名によって結成されました。
彼らはもともと映画音楽、実験的ジャズ、レトロソウルなど異なる分野のバックグラウンドを持っており、その融合によって誕生したのがUnloved特有のサウンドです。
2010年代以降の音楽シーンにおいて、レトロ回帰は珍しくなくなりました。しかしUnlovedのアプローチは、単なる60’s音楽の模倣ではなく、フィルムノワールから直接血を流し込むかのような映画的・儀式的な演出によって、独自の世界観を築いていることが特徴です。
Jadeの妖艶で湿ったボーカルも、グループの世界観を象徴しています。彼女は弱さと強さ、色気と影、不安と希望、光と闇を同時に抱え込んだ声質を持ち、Unlovedの音像に命を吹き込む存在です。
アルバムの特徴・個性
本作は、以下の要素が奇跡的なバランスで融合しています。
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「音の壁」の再解釈: フィル・スペクターが発明した重厚なサウンドを、あえて「不穏な方向」へと進化させています。
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フレンチ・イェイェとガレージ・ロック: Serge Gainsbourg 的なエロティシズムと、初期ガレージ・ロックの粗野な質感が同居しています。
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徹底したリバーブ処理: 深い残響が、過去の記憶を覗き見しているような浮遊感と、どこか死の気配さえ感じさせる退廃的な美しさを生んでいます。
『Guilty of Love』全曲レビュー
1. Guilty of Love
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ジャンル: シネマティック・ポップ/サイケデリック・ソウル
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特徴: 地の底を這うような重厚なベースラインと、執拗に繰り返されるストリングスの旋律が、聴き手を逃げ場のない「愛の罪」の意識へと引きずり込む。Jadeのボーカルは、ささやきと叫びの中間を行き来し、聴き手の鼓膜を官能的に揺さぶる。
2. After Dinner
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ジャンル: ノワール・ジャズ/エクスペリメンタル
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特徴: 晩餐が終わった後の、冷え切った空気感をそのまま音にしたような楽曲。不穏なパーカッションと、時折挿入される不協和音的なピアノの音が、会話の途切れたテーブルの緊張感を演出する。
3. Damned
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ジャンル: ゴシック・ブルース/サイケデリック
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特徴: 深いリバーブに包まれたギターの音色が、夜の闇に溶けていくような感覚を覚えさせる。後半に向けて徐々に厚みを増す音響は、絶望の中にある種のカタルシスを見出そうとする魂の叫びのように響く。
4. Cry Baby Cry
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ジャンル: ガールズグループ・ポップ/ガレージ・ロック
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特徴: 60年代のガールズグループの定石を踏まえつつ、そこに現代の凶暴なガレージ・ロックの要素を注入した楽曲。ポップなメロディラインとは対照的に、サウンドの質感は極めてザラついており、Jadeの「Cry, baby, cry」という突き放すような歌唱が、残酷な美しさを際立たせている。
5. When a Woman Is Around
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ジャンル: スパイ・ポップ/ネオ・ノワール
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特徴:スパイ映画の追跡劇を思わせる軽快かつ不穏なリズムと、キャッチーなフックが完璧な調和を見せる。女性の持つ神秘性と危険性を音楽で体現したような、有無を言わせぬクールな説得力が宿っている。
6. Xpectations
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ジャンル: ポスト・パンク/サイケデリック・ファンク
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特徴: タイトなドラムビートと、神経質なシンセサイザーの音が交錯する、アルバムの中では比較的ドライな質感を持つ一曲。期待と失望の狭間で揺れる感情を、反復されるリズムで表現している。
7. This Is the Time
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ジャンル: バロック・ポップ/ドリーム・ポップ
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特徴: オルガンの厳かな調べから始まり、徐々に壮大な音の伽藍を組み上げていくような構成。聖歌のような神聖さと、サイケデリックな陶酔感が同居しており、アルバム後半へ向けての精神的な転換点となっている。
8. The Ground
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ジャンル: ダウンテンポ/フォークトロニカ
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特徴: 足元を確かめるような、泥臭くも繊細なアコースティックな響きが特徴。空間を埋め尽くす音像の中で、あえて隙間を意識した配置がなされており、Jade のボーカルの細かな息遣いまでが鮮明に伝わってくる。
9. I Could Tell You But I’d Have to Kill
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ジャンル: スパイ・スリラー/アヴァン・ポップ
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特徴: 秘密を共有することの危険性を、蛇が這い回るようなベースラインと、尖ったパーカッションで表現している。耳元で囁かれるようなボーカルは、誘惑と脅迫の境界線を曖昧にさせ、聴き手を当惑させる。
10. We Are Unloved
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ジャンル: アンビエント/スポークン・ワード
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特徴: ノイズの断片や断続的なリズムが、意識の混濁を表現している。自分たちは「愛されない者」であるという冷徹な自己認識が、逆説的に本作の持つ深い悲哀の根源を明らかにしている。
11. Silvery Moon
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ジャンル: サイケデリック・ワルツ/ドリーム・ポップ
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特徴: 銀色の月明かりに照らされた、死の舞踏を思わせるワルツ。美しくも壊れそうなメロディは、初期のPink Floydのようなサイケデリアを彷彿とさせる。
12. Forever Unloved
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ジャンル: シンフォニック・ノワール/エピローグ
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特徴:これまでのすべての要素が重なり合い、圧倒的な音圧となって押し寄せる。愛されない運命を「Forever(永遠)」と断定する潔い幕切れは、映画のエンディングロールが終わった後のような、長く冷たい余韻を残す。
こんな人におすすめ!
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Lana Del Reyのシネマティックな退廃美に魅了されている人
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映画音楽・ドラマ性のある作品が好きな人
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おしゃれでダークな音を探している人
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60’sロマンティックポップが刺さる人
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アナログレコードのような温かくもザラついた質感の音像を愛する人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
1. Broadcast『Haha Sound』
60年代のライブラリー・ミュージックやサイケデリック・ポップを、電子音とミニマリズムで解体・再構築した傑作。Unlovedが持つ「過去を覗き見るような異様さ」の先駆的な存在であり、無機質な美しさが共通している。
2. Serge Gainsbourg『Histoire de Melody Nelson』
フランスの至宝による、官能と冷笑が入り混じったコンセプト・アルバム。重厚なベースラインと壮大なストリングス、そして囁くような歌唱という本作のフォーマットは、Unlovedの音楽的DNAに深く刻まれている。
3. Mazzy Star『Among My Swan』
Hope Sandovalの倦怠感あふれる歌声と、夢心地のサイケデリック・ギターが織りなすサウンドは、Unlovedの「静」の側面と共鳴する。どちらも「出口のない夜」に聴くべき音楽であり、孤独を美しさに変える魔力を持っている。
4. Nancy Sinatra & Lee Hazlewood『Nancy & Lee』
「カウボーイ・サイケデリア」の極致。一見ポップだが、その裏に潜む深いリバーブと不穏な影は、Unlovedが最も直接的にオマージュを捧げた対象の一つ。
5. Goldfrapp『Felt Mountain』
エレクトロニックな質感を保ちつつ、60年代の映画音楽やヨーロピアン・キャバレーの雰囲気を大胆に導入したデビュー作。Allison Goldfrappの変幻自在なボーカルと、壮大な音響設計は、Unlovedのシネマティックなアプローチを予見していたと言える。
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まとめ
『Guilty of Love』は、Unlovedというアーティストの核心が詰まったデビュー作です。
60年代映画音楽の手触り、ダークで妖艶なボーカル、ロマンチックな旋律、そして荒涼とした陰影。聴けば聴くほどに深まる中毒性を持ち、あなたの音楽コレクションに確かな爪痕を残します。
このアルバムは、ただのインディーポップではなく、“芸術的な退廃と美が交差する儀式的作品”と呼べる名盤です。ぜひ夜に、ひとりで、静かな場所で聴いてみてください。