出典:YouTube
2000年代初頭、日本のロックシーンは多様化の真っただ中にありました。UKロック、エモ、オルタナティブ、ポストロックといった影響が混ざり合い、バンド表現はより内省的で物語性のあるものへと進化していきます。
その流れの中で、確固たる存在感を放っていたのが STRAIGHTENER(ストレイテナー) です。
『Lost World’s Anthology』は、彼らのキャリアにおいても重要なアルバムであり、「迷い」「孤独」「再生」をテーマにした濃密な一枚です。
🎧 Amazon Music Unlimitedで『Lost World’s Anthology』を聴く
アーティストについて
STRAIGHTENER(ストレイテナー)は、ホリエアツシ(Vo/Gt/Key)とナカヤマシンペイ(Dr)の2人組として、下北沢を拠点に活動を開始しました。
初期の彼らは、剥き出しの初期衝動をぶつけるパンク・バンドとしての側面が強かったのですが、2003年に日向秀和(Ba)が電撃加入したことで、バンドの運命は劇的に変わります。日向の圧倒的なテクニックとうねるようなベースラインは、ホリエに「ギターを置く自由」や「ピアノを弾く空間」を与えました。
この編成で録音された初のフルアルバムが『LOSTWORLDER』です。この作品によって、ストレイテナーは日本のオルタナティブ・ロックの旗手としての地位を不動のものにしました。
アルバムの特徴・個性
本作はオルタナティブロックを軸にしながらも、曲ごとに異なる質感を持っています。
主な特徴としては、
-
静と動のコントラストが明確な曲構成
-
ピアノやシンセを効果的に用いたアレンジ
-
抑制された感情表現による深い余韻
-
アルバム全体を貫く「彷徨い」のモチーフ
が挙げられます。
派手なフックに頼らず、感情の流れをアルバム単位で描く構築力こそが、『Lost World’s Anthology』最大の魅力です。
『Lost World’s Anthology』全曲レビュー
1. A SONG RUNS THROUGH WORLD
-
ジャンル: ポスト・ロック
-
特徴: ディレイが深くかかったギターが静かに鳴り響く中、心臓の鼓動のようなドラムと、地を這うようなベースが合流していく。一本の旋律が混沌とした世界を貫いていくような、凛とした美しさがある。
2. TRAVELING GARGOYLE
-
ジャンル: オルタナティブ・ロック / ポスト・パンク
-
特徴: STRAIGHTENERという名を一躍全国に知らしめた、メジャーデビュー・シングル。イントロの鋭利なギターリフが鳴った瞬間、空間の温度が数度下がるような緊張感が走る。
3. TOWER
-
ジャンル: ギター・ロック / エモ
-
特徴: 高くそびえ立つ塔を見上げるような、縦への広がりを感じさせる楽曲。シンプルながらも力強いリズムセクションが、楽曲に揺るぎない安定感を与えており、ライブでも非常に映える人気曲。
4. DON’T FOLLOW THE LIGHT
-
ジャンル: ニューウェイヴ / ギター・ロック
-
特徴: どこか冷ややかで都会的な空気感を持った楽曲。浮遊感のあるギターカッティングと、日向の歌うようなベースラインの対比が見事。
5. MAD PIANIST
-
ジャンル: プログレッシブ・ロック / ジャズ・ロック
-
特徴: ホリエアツシが鍵盤を操り、バンドの音楽的拡張性を見せつけた実験作。タイトルの通り、狂気的なピアニストが憑依したかのような、予測不能な展開が続く。
6. 奇跡の街 -RADIO FREAK EDIT
-
ジャンル: ギター・ポップ / オルタナティブ
-
特徴: アルバムの中で一際メロディアスで、切なさが際立つ楽曲。RADIO FREAK EDITとして、よりタイトでラジオから流れてくるような質感を意識したミックスになっており、どこか懐かしさを感じさせる仕上がりとなっている。
7. STAINED ANDROID
-
ジャンル: インダストリアル・ロック / パンク
-
特徴: 金属的なギターサウンドと、無機質なビートが支配するハードな一曲。感情を抑制したようなボーカルが中盤でエモーショナルに爆発し、まさに「汚れ(Stained)」を抱えたアンドロイドの苦悩を表現しているかのよう。
8. FREEZEING
-
ジャンル: ポスト・パンク / ダンス・ロック
-
特徴: タイトル通り、すべてが凍りつくような冷徹な世界を描いた楽曲。しかし、サウンド自体は非常にタイトで踊れるグルーヴを持っており、そのギャップが中毒性を生んでいる。
9. DJ ROLL -VIDEO ADDICT EDIT
-
ジャンル:オルタナティブ・ロック
-
特徴: 粗削りなギターサウンドと、前のめりなビート。ビデオ中毒(VIDEO ADDICT)という現代的なテーマを、初期衝動そのままのサウンドで叩きつける。
10. MAGIC WORDS
-
ジャンル: ピアノ・バラード / バラード
-
特徴: 激しい爆音の世界を通り抜けた後に訪れる、深い静寂。ホリエアツシの透き通るようなボーカルが、「魔法の言葉」を届ける。荒廃した世界(LOSTWORLD)の果てに、微かな光を見出すような、感動的なフィナーレ。
こんな人におすすめ!
-
2000年代の日本ロックが好きな人
-
3ピースバンドの限界を極めたアンサンブルに興味がある人
-
都会的、幻想的、SF的な世界観を持つ音楽に没入したい人
-
Number GirlやRadioheadのような、冷徹さと熱量を併せ持つバンドが好きな人
-
感情の余白を大切にする音楽が好きな人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
1. NUMBER GIRL『SAPPUKEI』
日本のオルタナティブ・ロックを語る上で避けて通れない金字塔。STRAIGHTENERが持つ「鋭利なギター」と「殺伐とした都市風景」のルーツはここにあると言っても過言ではない。
2. The Velvet Teen『Out of the Open Sea』
ホリエアツシが最も影響を受けたバンドの一つ。3ピースという形態でどこまで美しいメロディと複雑な構成を両立できるかを提示した名盤。
3. ART-SCHOOL『LOVE/HATE』
同時期に活動し、共にシーンを牽引した盟友による傑作。STRAIGHTENERが「外の世界(都市や銀河)」を描くのに対し、ART-SCHOOLは「内の世界(心の傷や絶望)」をノイズに託した。
4. ASIAN KUNG-FU GENERATION『君繋ファイブエム』
2000年代のギター・ロック・ブームを爆発させた歴史的作品。文学的な歌詞と焦燥感に溢れたボーカルは、『LOSTWORLDER』の持つ切実さと高い親和性を持っている。
5. Muse『Showbiz』
クラシックの要素やドラマチックな展開を盛り込み、圧倒的な音壁を構築するMuseのデビュー作。STRAIGHTENERが中盤の楽曲で見せる「劇的な構成」や「ピアノを活かした重厚感」のルーツを辿る上で、非常に興味深い一枚。
この記事で紹介したアルバム
▶ 配信サービスで聴く
🎧 Amazon Music Unlimited
🎧 Apple Music
🎧 Spotify
▶ 作品を買う
まとめ
STRAIGHTENERの『Lost World’s Anthology』は、3人という最小限のピースで、どこまで遠くの世界を描けるかに挑んだ記念碑的な作品です。
リリースから年月が経ち、現在は4人編成としてより円熟した音楽を鳴らす彼らですが、このアルバムに封じ込められた「青い火花」のような輝きは、今なお色褪せることはありません。都市の孤独を、銀河の幻想を、私たちが失ってしまった大切な何かを、このアルバムは音の粒子となって届けてくれます。