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Troye Sivan『Bloom』(2018)|繊細さと官能が共存するポップ・アルバムの到達点

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出典:YouTube

『Bloom』は、大きな音で主張するアルバムではありません。しかし、その静けさの中には、強い決意と解放感が宿っています。

Troye Sivanはこの作品で、「自分自身を語ること」がそのままポップになることを証明しました。繊細でありながら官能的、内向的でありながら開かれている——『Bloom』は、現代ポップの成熟を象徴する一枚です。

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アーティストについて

 Troye Sivanは、まさに21世紀型のキャリアを歩んできたアーティストです。

南アフリカ共和国に生まれ、オーストラリアのパースで育った彼は、YouTubeでの動画投稿を通じて世界中に熱狂的なファンを獲得しました。2013年に自身がゲイであることをカミングアウトし、その誠実な姿勢は多くの若者の指標となりました。

2015年のデビュー作『Blue Neighbourhood』で「クィアな若者の憂鬱」を美しく描き出した彼は、続く本作『Bloom』において、その憂鬱さえも光り輝くポップ・アンセムへと昇華させました。繊細なハスキーボイス、類まれなるファッションセンス、時代の空気を鋭く捉えるソングライティング能力。彼は今、ポップ・ミュージックにおける「新しいスタンダード」を象徴する存在となっています。

アルバムの特徴・個性

『Bloom』は、前作のドリーム・ポップ的な質感を継承しつつも、より力強く、より官能的なサウンドへと進化しています。

  • 80年代ポップスへの現代的なオマージュ

Ariel RechtshaidやMax Martinのチームをプロデューサーに迎えた本作は、80年代のきらびやかなシンセ・ポップの要素を、2018年のミニマリズムで研ぎ澄ませたような音像が特徴です。

  • 「開花(Bloom)」という多義的なテーマ

タイトルの「Bloom」には、花が開くような美しさだけでなく、初体験や自己の解放といった官能的なニュアンスも込められています。恥じらいを捨て、自身の欲望をポジティブに肯定する歌詞は、多くのリスナーに勇気を与えました。

  • 計算し尽くされたヴォーカル・プロダクション

彼の歌声は、決してパワフルに叫び上げるスタイルではありません。しかし、耳元で囁くようなウィスパー・ヴォイスから、多重録音された美しいコーラスまで、その「質感」のコントロールは芸術的です。音の余白を活かした配置が、彼の声をより際立たせています。

『Bloom』全曲レビュー

1. Seventeen

  • ジャンル: ドリーム・ポップ / シンセ・ポップ

  • 特徴: アルバムの幕開けを飾る、ノスタルジックで少し危うい雰囲気を持つミドルテンポな楽曲。控えめなビートと幻想的なシンセのレイヤーが、記憶の霧の中を歩くような感覚を与え、少年の無垢な好奇心と、そこに潜む孤独を鮮明に描き出している。

2. My My My!

  • ジャンル: エレクトロ・ポップ / ダンス・ポップ

  • 特徴: 本作のリードシングルであり、アーティストとしての覚醒を告げる祝祭的なアンセム。爆発するようなシンセ・スタブと、解放感に満ちたリズムは、恋に落ちた瞬間のアドレナリンをそのまま音にしたかのよう。

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3. The Good Side

  • ジャンル: フォーク・ポップ / アコースティック

  • 特徴: 別れを経験した際、先に立ち直り、新しい世界へと進んでしまった自分側の「良い側面」について歌った、残酷なまでに誠実なバラード。アコースティック・ギターのアルペジオと、中盤から加わるきらびやかな電子音の対比が美しい。

4. Bloom

  • ジャンル: シンセ・ポップ / 80sオマージュ

  • 特徴: 80年代のポップ・アイコンたちが持っていたような、華やかでドラマチックなプロダクションが全開。一見すると純真な花の開花を歌っているようだが、そのリリックには極めて官能的で隠喩的なクィア・セクシュアリティが込められている。

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5. Postcard (feat. Gordi)

  • ジャンル: ピアノ・バラード

  • 特徴: オーストラリアのシンガー、Gordiをゲストに迎えた、心震えるピアノ・バラード。二人の歌声が重なる瞬間のエモーションは、アルバムの中でも随一。

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6. Dance To This (feat. Ariana Grande)

  • ジャンル: R&B / チル・ポップ

  • 特徴: 世界的歌姫Ariana Grandeとの夢のコラボレーション。抑制されたビートと、二人の囁くようなヴォーカルの掛け合いは、官能的でありながらも非常にリラックスした空気感を醸し出している。

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7. Plum

  • ジャンル: ポップ・ロック / シンセ・ポップ

  • 特徴: 軽快なギターのカッティングとアップテンポなビートが、歌詞の切なさと相反して爽快な聴き心地を生んでいる。夏の終わりのような、甘酸っぱくも苦い余韻を残す秀逸なポップ・ソング。

8. What A Heavenly Way To Die

  • ジャンル: ドリーム・ポップ / チル・アウト

  • 特徴: The Smithの名曲「There Is a Light That Never Goes Out」の有名な歌詞へのオマージュ。深いリバーブに包まれたサウンドは、まさに「天国のような」心地よさを提供し、リスナーを深い多幸感で包み込む。

9. Lucky Strike

  • ジャンル: エレクトロ・ポップ / ダンス

  • 特徴: 中毒性のあるベースラインと、 Troye Sivanの遊び心あふれるヴォーカル・デリバリーが魅力的。若さゆえの盲目的な愛と、ほとばしる欲望を、カラフルなサウンド・プロダクションで見事に描き出している。

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10. Animal

  • ジャンル: アンビエント・ポップ / 壮大なバラード

  • 特徴: 愛する人の前で、理性ではなく「動物(Animal)」としての本能に身を委ねる愛の深さを描いている。徐々に音の層が厚くなり、クライマックスで爆発するような展開は、一本の映画を観終えたような深い感動を与える。

こんな人におすすめ!

  • 洗練されたモダン・ポップが好きな人

  • クィアな視点から描かれた誠実なラブストーリーに触れたい人

  • 80年代シンセ・ポップの美学を、2020年代の感性で楽しみたい人

  • 音の隙間や質感を大切にするアーティストが好きな人

  • 夜のドライブや、一人の時間に浸るためのBGMを探している人

同じ系統の楽曲・アルバム5選

1. Lorde『Melodrama』

 Troye Sivanと親交の深いLordeによる、ポップ・ミュージックの歴史を変えた傑作。一晩のパーティーを通じて若者の孤独と情熱を描く構成は、『Bloom』に通じる高い物語性を持っている。

2. Lany『Lany』

ロサンゼルスを拠点とするバンドのデビュー作。80年代のシンセ・ポップやR&Bを現代のチルな感性で解釈したサウンドは、『Bloom』と非常に近い質感を持っている。

3. Carly Rae Jepsen『E•MO•TION』

80年代ポップスへのオマージュを最高純度で結晶化させた一枚。 Troye Sivanが本作で見せた「華やかなシンセ・サウンド」の現代における教科書とも言える作品。

4. MUNA『About U』

クィアなアイデンティティを公言する3人組バンドによるデビュー作。ダークなシンセ・ポップを基調としながら、コミュニティへの愛と解放を歌う姿勢は、 Troye Sivanと志を同じくしている。

5. Years & Years『Palo Santo』

同じくクィア・アイコンとして活躍するOlly Alexander率いるユニットの2ndアルバム。本作と同年にリリースされ、SF的な世界観を通じてセクシュアリティや欲望を肯定するテーマを掲げている。

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まとめ

Troye Sivanの『Bloom』は、単なるポップ・アルバムの枠を超え、一つの文化的なマイルストーンとなりました。

自身のアイデンティティを誇りを持って「開花」させ、それを極上のメロディと洗練されたサウンドで包み込んだ本作は、すべての「自分らしくありたい」と願う人々へのラブレターです。

美しさに圧倒され、誠実さに涙し、そして最後には愛の力を信じたくなる。そんな魔法のような36分間を、ぜひあなた自身の耳で体験してください。