出典:YouTube
現代のR&Bシーンにおいて、これほどまでに「匿名性」と「洗練」を武器に、聴く者の心を一瞬で奪うユニットがいたでしょうか。ロサンゼルスを拠点とする謎多きデュオ、Emotional Oranges(エモーショナル・オレンジズ)。
彼らが2019年に放った『The Juice Vol. II』は、前作で提示した「レトロ・モダンなR&B」というスタイルをさらに研ぎ澄ませ、夜の街をドライブするかのような極上のグルーヴを詰め込んだ傑作です。
🎧 Amazon Music Unlimitedで『The Juice Vol.Ⅱ』を聴く
アーティストについて
Emotional Orangesは、Azad “A” RightとVali “V” PorterからなるアメリカのR&B/ポップ・デュオです。 二人は匿名性を保つことで、音楽そのものへの集中を誘う戦略を取り、メンバー像よりも“サウンドの空気感”が注目される稀有な存在となりました。
彼らはR&Bを基点にしながらも、ポップ、ネオソウル、エレクトロニカまで横断したサウンドを提示しています。
『The Juice Vol. II』は、2019年11月にリリースされており、前作『The Juice Vol. I』からわずか半年後の発表でした。続けざまに質の高い楽曲を提示することで、リスナーの関心を維持しつつ、彼らの音楽性の広がりを示す作品となっています。
アルバムの特徴・個性
『The Juice Vol. II』は、彼らの快進撃を決定づけた一枚です。
- 完璧なツインボーカルの調和
男性ボーカルのシルキーな歌声と、女性ボーカルのドライで都会的な歌声。この二人が時には寄り添い、時には突き放すように歌い繋ぐことで、一曲の中に映画のようなドラマ性が生まれています。
- 90年代へのオマージュと洗練
J Dillaを彷彿とさせるヨレたビートや、初期Jamiroquaiのような軽やかなベースライン。過去の名盤へのリスペクトを感じさせつつも、最新の音響設計によって極めてモダンなサウンドに仕上がっています。
- 「夜」をテーマにした一貫性
どの曲も、深夜の高速道路や、薄暗いラウンジの照明が似合うムードを湛えています。アルバムを通して聴くことで、一つの長い「夜の物語」を体験しているような没入感を味わえます。
『The Juice Vol.Ⅱ』全曲レビュー
1. Don’t Be Lazy
-
ジャンル: ネオ・ソウル / アーバン・ファンク
-
特徴: ミニマルなビートの上で、二人のボーカルが絡み合い、リスナーを一気に彼らの世界観へと引き摺り込む。シンプルながらも洗練されたベースラインが、都会的な夜の始まりを予感させる。
2. Just Like You
-
ジャンル: コンテンポラリー R&B
-
特徴: シンセサイザーのレイヤーが美しい、ドリーミーな一曲。リズムの抜き差しが絶妙で、聴き手の意識を心地よく揺さぶる。
3. Your Best Friend Is A Hater
-
ジャンル: オルタナティブ R&B
-
特徴: 皮肉の効いたタイトルとは裏腹に、サウンドは極めてメロウ。90年代のR&Bが持っていた「溜め」の効いたビート感を現代的にアップデートしており、二人の絶妙な距離感のボーカル・ワークが最も堪能できるトラックの一つ。
4. Iconic
-
ジャンル: ニュージャックスウィング風 R&B / ポップ
-
特徴: 本作の中でも一際キャッチーな輝きを放つアンセム。どこか懐かしい跳ねるようなリズムと、現代的なエフェクト処理が融合している。
5. West Coast Love
-
ジャンル: ヒップホップ・ソウル / G-ファンク(モダン)
-
特徴: タイトルの通り、西海岸の乾いた風を感じさせるような一曲。G-ファンクへのリスペクトを感じさせるシンセ音の使い方が秀逸であり、そこに彼ら特有のメロウな感覚が混ざり合うことで、2010年代末のLAを象徴するサウンドに仕上がっている。
6. Not Worth It
-
ジャンル: トラップ・R&B / エレクトロ
-
特徴: 少しダークで、攻撃的な側面を見せる楽曲。鋭いハイハットと沈み込むようなベースが、これまでのメロウな流れに程よい緊張感を与える。
7. Sundays
-
ジャンル: ダウンテンポ / チル・アウト
-
特徴: 嵐の後の静けさのような、穏やかで内省的な楽曲。日曜日の朝の気だるさと、少しの寂しさを音像化したようなサウンド。
8. Heal My Desires
-
ジャンル: オルタナティブ R&B
-
特徴: アルバムを締めくくる、深い残響に包まれたエモーショナルな楽曲。夜が明けていく直前の、青白い光を想起させるような完璧なエンディング。
こんな人におすすめ!
-
モダンR&B/ネオソウルが好きな人
-
RhyeやThe Internetのような、洗練されたミニマルなアンサンブルが好きな人
-
夜のドライブや深夜のリスニングに最適なBGMを探している人
-
80s〜90sポップ感の現代的解釈が好きな人
-
男女デュオのハーモニーを楽しみたい人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
1. The Internet『Hive Mind』
現代LAのメロウ・グルーヴを象徴するバンドによる傑作。Emotional Orangesが持つ「隙間の美学」や「ファンキーなベースライン」のルーツの一つと言えるサウンドで、オーガニックな演奏と都会的なセンスの融合において、本作と完璧な親和性を持つ。
2. Majid Jordan『The Space Between』
Emotional Orangesに通じる「夜」「匿名性」「洗練されたシンセサウンド」という要素を極めて高いレベルで体現している。よりエレクトロニックなR&Bを求めるリスナーに最適。
3. Sabrina Claudio『About Time』
官能的でシルキーな歌声を持つ歌姫によるミックステープ。深夜のリスニングに特化した、甘美なメロディを堪能できる一枚。
4. SiR『Chasing Summer』
TDE所属の実力派R&Bシンガー。西海岸の空気感を纏ったメロウなビートと、確かな歌唱力による「大人のR&B」を展開している。
5. VanJess『Silk Canvas』
ナイジェリア出身の姉妹デュオ。90年代R&Bへの深い愛情と、現代的なハウス、ファンクの融合という点において、Emotional Orangesと志を同じくする。
この記事で紹介したアルバム
▶ 配信サービスで聴く
🎧 Amazon Music Unlimited
🎧 Apple Music
🎧 Spotify
▶ 作品を買う
まとめ
『The Juice Vol. II』は、Emotional Orangesが持つモダンR&Bとしての洗練性とポップな親しみやすさを、非常にコンパクトな形で提示した作品です。
ミックステープという形式でありながら、1曲ごとの完成度は高く、アルバム全体としても統一されたムードをしっかりと保っています。
ネオソウル由来の滑らかなボーカル、80s〜90sを思わせるシンセの質感、現代的なビート感覚が自然に溶け合い、聴くシチュエーションを選ばない心地よさを生み出しています。
BGMとしても、じっくり聴く作品としても成立するバランス感覚は、Emotional Orangesならではの強みと言えるでしょう。