出典:YouTube
2007年という年は、エレクトロニック・ミュージックが再び「攻撃性」を取り戻した年でもありました。その象徴的存在が、フランス出身のデュオJusticeによるデビューアルバム『†(Cross)』です。
本作は、クラブミュージックとロックの境界を大胆に破壊し、歪んだシンセと過剰なコンプレッションを武器に、世界中のリスナーへ強烈なインパクトを与えました。エレクトロ・ハウスという枠を超え、2000年代ダンスミュージックの価値観そのものを塗り替えた作品として、今なお語り継がれています。
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アーティストについて
Justiceは、Gaspard AugéとXavier de Rosnayによるフランスのエレクトロニック・デュオです。Daft Punk以降のフレンチ・エレクトロの系譜に連なりながらも、彼らは洗練よりも暴力的な音圧とロック的美学を選びました。
MySpace時代に注目を集め、シングル「Waters of Nazareth」で一気にシーンの中心へ躍り出たJusticeは、『†』において“踊れる音楽”と“殴られるような音楽”を同時に成立させるという、前例のない表現に到達します。
アルバム『†(クロス)』の特徴・個性
このアルバムは、一種のポップ・アートとしての完成度を誇ります。
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「歪み」の美学
通常のダンスミュージックではタブーとされるような、スピーカーが割れる寸前の過激なディストーション(歪み)が全編を支配しています。 -
カトリック的イメージ
アルバムタイトルやアートワークに象徴される、荘厳でゴシックな雰囲気。バロック音楽のような緻密な構成が随所に見られます。 -
多層的なサウンド
スラップベースのファンキーなノリ、シンセサイザーの暴力的な響き、そしてキャッチーなメロディ。これらが複雑に絡み合うことで、中毒性の高いサウンドが生まれています。 -
オペラのようなドラマ性
1曲目から最後まで、まるで一本の映画やオペラを鑑賞しているかのような、起伏の激しいドラマチックな展開が特徴です。
『†(クロス)』全曲レビュー
1. Genesis
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ジャンル: シンフォニック・エレクトロ / インダストリアル
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特徴: 地鳴りのようなベース音と荘厳なファンファーレから始まる、完璧なオープニング。ゴジラが街を破壊しながら行進するような、圧倒的な威圧感とスケール感を持つ。これから始まる「Justiceの世界」への入場を告げる、ドラマチックな一曲。
2. Let There Be Light
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ジャンル: フレンチ・エレクトロ / ニュー・ディスコ
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特徴: 執拗に繰り返される不穏なシンセのフレーズが、徐々にリスナーの精神を侵食していく。中盤からのファンキーなベースラインとの対比が鮮やかで、冷徹さと熱狂が同居するJusticeらしい一曲に仕上がっている。
3. D.A.N.C.E.
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ジャンル: ディスコ・ポップ
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特徴: Michael Jacksonへのオマージュが散りばめられた歌詞と、少年合唱団のキュートなボーカルが融合。過激なサウンドが並ぶ中、この曲のポップネスは一服の清涼剤であり、同時に彼らのメロディセンスの高さを証明している。
4. Newjack
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ジャンル: カットアップ・ハウス
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特徴: The Brothers Johnsonの楽曲を極限まで細切れにし、高速でパズルのように組み直したトラック。目まぐるしく変化する音の断片が、脳内の快楽物質を直接刺激する。サンプリング・ミュージックの醍醐味が詰まった楽曲。
5. Phantom
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ジャンル: ホラー・ハウス / エレクトロ
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特徴: イタリアのプログレ・バンド、Goblin をサンプリング。追いかけられるような焦燥感と、どこかユーモラスな不気味さが同居。ダンスフロアを悪夢のような熱狂に叩き落とす。
6. Phantom Pt. II
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ジャンル: プログレッシブ・エレクトロ
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特徴: 前曲のモチーフを引き継ぎつつ、よりドラマチックで多層的な展開を見せる。スラップベースの炸裂と、スタジアム・ロックのようなスケール感が融合。中盤の叙情的なパートから再び爆発する展開は、まさに圧巻。
7. Valentine
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ジャンル: シンセ・ポップ / アンビエント
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特徴: 激しい連撃の後に訪れる、短くも美しいインターリュード(間奏曲)。バロック音楽のような気品を感じさせる旋律が、シンセサイザーの柔らかな音色で奏でられる。アルバム全体の緩急をつける上で、重要な役割を果たしている。
8. Tthhee Ppaarrttyy
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ジャンル: エレクトロ・ラップ
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特徴: フィメール・ラッパーのUFFIEをフィーチャー。パーティーの喧騒と気だるさを表現したような彼女のラップが、無機質でパンキッシュなトラックに乗る。Ed Bangerレーベルらしい、ストリートの遊び心に満ちた一曲。
9. DVNO
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ジャンル: ニュー・ディスコ / ファンク
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特徴: キャッチーなサビと、80年代を彷彿とさせる煌びやかなサウンドが特徴。しかし、その裏ではJustice特有の「重いベース」がしっかりと鳴り響いており、芯の強さを感じさせる。
10. Stress
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ジャンル: インダストリアル / ホラー
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特徴: タイトル通り、聴く者に究極のストレスを与えるほど攻撃的な楽曲。執拗な不協和音のループと、加速するビートが精神を追い詰める。暴力的なまでのエネルギーが凝縮された、エレクトロ史上屈指の「劇薬」。
11. Waters of Nazareth
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ジャンル: ヘヴィメタル・エレクトロ
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特徴: Justiceの名を世に知らしめた衝撃のデビューシングル。ディストーションが効きすぎたパイプオルガンのような音が、耳を劈くように鳴り響く。ダンスミュージックにメタルの快感を取り込んだ、革命的なトラック。
12. One Minute to Midnight
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ジャンル: フレンチ・ハウス
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特徴: 激動のアルバムを締めくくる、夜の終わりを感じさせる楽曲。哀愁漂う旋律と、タイトなリズムが心地よい。大嵐が去った後のような、静かな高揚感を残して「十字架」の物語は幕を閉じる。
こんな人におすすめ!
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ロックとダンスミュージックの融合が好きな人
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Daft Punk以降のフレンチ・エレクトロを深掘りしたい人
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アドレナリンが全開になる音楽を聴きたい人
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音圧の強いエレクトロを求めている人
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2000年代クラブカルチャーを知りたい人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
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Daft Punk『Discovery』
フレンチ・エレクトロの頂点。切なさと多幸感が同居する、全音楽好き必聴のアルバム。 -
SebastiAn『Total』
Justiceと同じEd Banger所属の天才。Justiceよりもさらに過激で暴力的なカットアップ手法が特徴。 -
Digitalism『Idealism』
ドイツ出身のデュオ。ロックとエレクトロの融合という点では共通しているが、よりニュー・ウェイヴ的で疾走感のあるサウンドが魅力。 -
The Chemical Brothers『Surrender』
サイケデリックでダイナミックなダンスミュージックの傑作。Justiceのようなドラマチックな構成や、巨大な音の壁を作る手法において、大きな影響を与えた先達と言える。 -
Simian Mobile Disco『Attack Decay Sustain Release』
アナログ機材を駆使した、生々しく太いサウンドが特徴。Justiceが持つ「フィジカルな強さ」や、ミニマルながらも力強いグルーヴを愛する人なら、間違いなくハマる一作。
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まとめ
『†(Cross)』は、エレクトロニック・ミュージックを「安全なダンス音楽」から解放したアルバムです。
歪み、過剰、暴力性を肯定しながらも、ポップなフックを忘れないその姿勢は、以降のEDMやフェス文化にも大きな影響を与えました。
2000年代を語るうえで、決して避けて通れない衝撃作です。