出典:YouTube
映画と音楽の関係は常に密接ですが、その中でも「音楽そのものが物語の構造を支配している」作品は決して多くありません。その代表例が、CLIMAXのオリジナル・サウンドトラックです。
本作のサウンドトラックは映画の精神状態そのものを音として再現した異常な完成度を持つコンピレーションです。ハウス、テクノ、エレクトロ、アンビエント、クラシックまでが混在し、聴き手を陶酔と不安の境界へと導きます。
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映画『CLIMAX』について
概要
2018年公開のフランス映画。
監督:Gaspar Noe
主演:Sofia Boutella
本作は、カンヌ国際映画祭の監督週間で最高賞(芸術映画賞)を受賞するなど、世界中に衝撃を与えたダンス・ホラー/スリラー映画です。
実在の事件に着想を得たといわれており、出演者のほとんどが本職のプロダンサーであることも大きな話題となりました。
Gaspar Noe らしい執拗な長回しと、原色を多用した色彩美が特徴です。
あらすじ
1996年、フランス。雪深い山奥の廃校に、22人のダンサーが集まり、合宿最終日の夜に打ち上げのパーティを開く。
大音量の音楽の中で踊り狂う彼らだったが、誰かが飲み物の「サングリア」の中に強力なLSDを混入させたことで事態は一変。
理性が失われ、隠されていた欲望、嫉妬、暴力性が剥き出しになり、楽園だったはずの場所は一晩で地獄の惨劇へと変貌していく……。
アルバムの特徴・個性
このサウンドトラックは、単なる劇伴の域を完全に超えています。
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90年代ハウス/テクノの黄金金字塔
Daft Punk のThomas Bangalter が音楽監修を務めたこともあり、初期のフレンチ・タッチからデトロイト・テクノ、ディスコまで、当時のクラブカルチャーの熱量が凝縮されています。 -
映画の進行とシンクロする選曲
序盤の祝祭的なグルーヴから、後半の不穏で暴力的な音響まで、物語の「バッドトリップ」の深度に合わせて選曲されています。 -
Thomas Bangalter の新曲と未発表曲
Daft Punk ファン垂涎の、Thomas Bangalter によるソロ名義の楽曲が重要な場面で効果的に配置されています。
『CLIMAX』全曲レビュー
1. Supernature - Instrumental Climax Edit / Cerrone
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ジャンル: スペース・ディスコ
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特徴: 映画冒頭の圧倒的なダンスシーンを彩る。70年代ディスコの重鎮Cerrone による楽曲を、本作のためにエディット。不穏なシンセサイザーの旋律と、肉体的な快楽を極限まで高める強靭なビートが、惨劇への華やかな幕開けを告げる。
2. Born to be Alive - Instrumental New Version / Patrick Hernandez
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ジャンル: ディスコ / ポップ
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特徴: 世界的ヒット曲のインスト・バージョン。パーティ序盤の多幸感を象徴する。ヴォーカルを排したことで、よりダンスそのものの躍動感と身体性が強調されている。
3. Pimp up the Volume - USW Radio Edit / M|A|R|R|S
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ジャンル: アシッド・ハウス / サンプリング
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特徴: 80年代後半のクラブシーンを席巻したエポックメイキングな一曲。サンプリングのコラージュが、徐々に混濁し始めるダンサーたちの意識とリンクしていく。反復されるフレーズが、閉鎖空間での興奮を煽る。
4. Superior Race / Dopplereffekt
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ジャンル: エレクトロ / デトロイト・テクノ
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特徴: Gerald Donald 率いるユニットによる、冷徹でミニマルなエレクトロ。感情を排したようなビートが、パーティの熱狂の中に冷たい狂気の影を落とし始める。
5. Solidit - Climax Edit / Chris Carter
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ジャンル: インダストリアル / ノイズ
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特徴: Throbbing Gristle のメンバーによる、執拗なまでの反復とザラついた音像。精神的な圧迫感を加速させる重低音が、閉鎖空間の恐怖を物理的な振動として聴き手に叩きつける。
6. Technic 1200 / Dopplereffekt
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ジャンル: エレクトロ / デトロイト・テクノ
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特徴: 感情を徹底的に排したような冷酷なリズムが特徴。ダンサーたちが疑心暗鬼に陥る様を、冷徹なマシンのリズムで描き出している。
7. Dickmatized / Kiddy Smile
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ジャンル: ヴォーグ / ハウス
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特徴: 現代フランスのボールルーム・シーンを代表するKiddy Smile による楽曲。肉体的な欲望を剥き出しにするリリックと重低音が、映画の官能的な狂気を象徴している。
8. What to do / Thomas Bangalter
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ジャンル: フレンチ・ハウス / ミニマル・テクノ
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特徴: Thomas Bangalter によるソロ名義曲。逃げ場のないループが延々と繰り返される。パニック状態の焦燥感をそのまま音像化したかのような、高い精神的ストレスを伴う名曲。
10. Voices / Neon
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ジャンル: イタロ・ディスコ / シンセ・ポップ
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特徴: 80年代のダークなシンセ・ポップ。タイトル通り「声」が重要なモチーフとなっており、混乱の中で錯乱するダンサーたちの内面の声が具現化したかのような、不気味な叙情性を湛えている。
11. The World’s / Suburban Knights
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ジャンル: デトロイト・テクノ
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特徴: 伝説のJames Pennington による楽曲。地を這うようなダークなベースラインが、映画の不穏さを一気に奈落へと引きずり下ろす。閉鎖空間における精神的な圧迫感を象徴するような重厚なトラック。
12. Windowlicker / Aphex Twin
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ジャンル: IDM / エクスペリメンタル
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特徴: 変態的なリズム構成と歪んだヴォーカル・サンプリングが、悪夢のような映像美に奇妙なエレガンスを添える。美しさと不気味さが同居する本作の象徴的な使用例。
13. Electron / Wild Planet
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ジャンル: デトロイト・テクノ
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特徴: 冷徹に刻まれる4つ打ちのキック。何が起きても止まらない音楽という存在が、救いのない状況をさらに絶望的なものへと変えていく。ストイックなビートが逆に狂気を際立たせる。
14. Tainted Love / Where Did Our Love Go - Extended Version / Soft Cell
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ジャンル: シンセ・ポップ / ニュー・ウェーヴ
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特徴: クラシックなヒット曲のカヴァーを接続したロングバージョン。かつての愛の歌が、この地獄絵図の中で流れることで、崩壊した人間関係への強烈な皮肉として響く。
15. Utopia Me Giorgio / Giorgio Moroder
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ジャンル: 電子音楽 / サイケデリック
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特徴: 映画の終盤、静寂と絶望が訪れる中で響くGiorgio Moroder の楽曲。かつて「未来」を描いたはずの電子音が、惨劇の後の虚無感として響く。美しくも残酷な余韻を残す。
16. Angie - Instrumental Cover / Thibaut Barbillon
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ジャンル: アコースティック / インストゥルメンタル
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特徴: The Rolling Stones の名曲をThibaut Barbillon がカヴァー。嵐が去った後の惨状を映し出すシーンで流れる。情緒的な旋律が、ここでは救いようのない虚しさを強調する。
17. Mad / CoH
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ジャンル: グリッチ / ミニマル
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特徴: Ivan Pavlov によるプロジェクト。壊れた回路のような電子音が、破壊された精神の残骸のように響く。最後まで観客の耳を休ませない、徹底した音響設計が結実した一曲。
18. Trois Gymnopedies (First Movement) / Gary Numan
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ジャンル: アンビエント / 電子音楽
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特徴: Erik Satie の名曲をGary Numan が電子音で解釈したもの。クラシックの静謐さが、電子的な無機質さと融合し、血塗られた一夜の終わりを告げるレクイエムのように響く。
こんな人におすすめ!
- 90年代クラブカルチャー、テクノを愛する人
- Daft Punk のファン
- 音響体験としての映画を求めている人
- 没入感のある音楽体験を求めている人
- テクノ、ハウス、エレクトロが好きな人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
- Gesaffelstein『Aleph』
現代フランスのダーク・テクノの旗手。漆黒の闇を感じさせる質感と鋭利なビートが特徴。本作の後半部分にある「暴力的な陶酔」を好むリスナーに最適。 - The Chemical Brothers 『Dig Your Own Hole』
サイケデリックな陶酔感とロック的な攻撃性が同居している。サンプリングが情報の過密を生み、狂騒感へと至るプロセスが本作と共鳴する。 - LFO『Frequencies』
初期テクノの重要作。脳を揺らすサブベースと無機質なシンセ音は、Dopplereffektらに通ずる「マシンの冷徹さ」を持ち、閉鎖的なトリップ感を補完する。 - Perc『The Power and the Glory』
現代インダストリアル・テクノの極北。耳を削り取るようなノイズと破壊的なリズムは、Chris CarterやCoHが見せる「音による暴力」の延長線上にある。 - Boyz Noize『Oi Oi Oi』
エレクトロ・ハウスのパンキッシュな側面を強調した作品。制御不能なエネルギーの爆発という要素を、よりフロアライクに解釈した衝動的な名盤。
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まとめ
映画『CLIMAX』のサウンドトラックは、単なるベスト盤ではありません。それは、人間がダンスという行為の中でどのようにして理性を手放し、奈落へと落ちていくかを描いた「地獄への航海日誌」です。
トーマ・バンガルテルが編み上げたこのプレイリストは、私たちの耳を麻痺させ、脳を揺さぶり、最後に深い虚無感を残します。映画を観た後でも、観る前でも、この音の洪水に身を任せてみてください。ただし、サングリアの飲み過ぎにはご注意を。