出典:YouTube
北欧エレクトロニック・シーンの中でも、叙情性とメロディセンスで確固たる地位を築いてきたアーティストがいます。ノルウェー出身のプロデューサー、Boom Jinx です。
2015年に発表されたアルバム『No Answers In Luck』は、彼のキャリアの集大成とも言える一枚。プログレッシブ・ハウス/トランスを軸に、エモーショナルで物語性のある楽曲群が並び、“聴かせるダンスミュージック”の理想形を提示しています。
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アーティストについて
Boom JinxことØistein Johan Eideは、ノルウェー出身のプロデューサーです。彼のキャリアは、一般的なDJ出身のプロデューサーとは一線を画します。
もともとは広告音楽や映画、さらには『Need for Speed』シリーズなどのゲームサウンドトラックを手掛けるコンポーザーとしてキャリアを積んできました。そのため、彼の作る楽曲には、単に「踊らせる」ことだけを目的としない、映像的(シネマティック)な情景描写と、数理的なまでに計算された音響設計が宿っています。
Above & Beyondにその才能を見出され、長年レーベルのクオリティ・コントロールを象徴する存在だった彼が、5年以上の歳月をかけて完成させたのが本作です。
アルバムの特徴・個性
本作『No Answers In Luck』を一言で表すなら、「ハイレゾリューションな叙情性」です。
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圧倒的な音響ディテール
1つのスネアの残響、背景で鳴る環境音の断片。これらが幾重にも層を成し、聴くたびに新しい発見があるオーディオファイル(音響マニア)垂涎の仕上がり。 -
北欧の静謐な空気感
太陽の眩しさよりも、月明かりや雪景色を連想させる冷たく澄んだメロディ。これがアルバム全体に一本の糸のような統一感を与えています。 -
ボーカルの楽器化
Meredith CallやJustine Suissaといった実力派を揃えつつ、歌を主役にしすぎない絶妙なミックス。声がシンセサイザーの一部として溶け込む快感。
『No Answers In Luck』全曲レビュー
1. Forethought
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ジャンル:アンビエント/ IDM
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特徴:アルバムの導入を飾る、静謐なアンビエント。複雑にプログラムされたグリッチ・ノイズと、遠くで鳴るピアノの旋律が、リスナーを日常から「Boom Jinxの世界」へと切り離す儀式のような役割を果たす。
2. Bring Me Back Around (with Meredith Call)
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ジャンル:プログレッシブ・ハウス
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特徴:アルバムの実質的な幕開けであり、完璧な構成を持つ1曲。Meredith Callの透明感ある歌声が、軽やかなパーカッションと重なり合い、徐々に色彩を帯びていく。派手なドロップに頼らず、レイヤーを重ねることで高揚感を作る手法は、まさにBoom Jinxの真骨頂と言える。
3. The Dark (Album Edit) (with Meredith Call)
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ジャンル:プログレッシブ・トランス / エレクトロニカ
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特徴:前曲の光から一転、影の部分にスポットを当てた楽曲。重厚なベースラインとうねるようなシンセサイザーが、真夜中のドライブのような孤独と高揚を演出する。アルバムエディットにより、よりタイトでストーリー性を重視した流れが強調されている。
4. Light As a Feather (with Aruna)
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ジャンル:プログレッシブ・ハウス / トランス
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特徴:トランスシーンの歌姫Arunaを迎え、アルバム中最もキャッチーでエネルギッシュな輝きを放つ。羽のように軽いピアノリフから、一気に視界が開けるようなサビへの展開は圧巻。繊細な音作りとフロア向けの躍動感が見事に両立した、本作のハイライトの一つ。
5. Coming Home (Album Edit) (with Meredith Call)
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ジャンル:プログレッシブ・トランス
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特徴:Meredith Callとの三度目の共作。タイトル通り「帰還」を感じさせる安心感と、どこかノスタルジックな旋律が胸を打つ。アルバム中盤に配置されたことで、ここまでの緊張感を解きほぐし、リスナーを深い多幸感(Euphoria)へと導く役割を果たしている。
6. Don’t Let Me Go (with Soundprank & Katrine Stenbekk)
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ジャンル:メロディック・プログレッシブ
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特徴:Soundprankのテクニカルなエッセンスと、Katrine Stenbekkのオーガニックな歌声が融合。デジタルな質感を持ちながらも、歌詞に込められた切実な感情がダイレクトに伝わってくる。複雑なシンセのパッチワークが、楽曲のドラマ性をより強固なものにしている。
7. Running Away (with Soundprank & Janai)
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ジャンル:リキッド・プログレッシブ / ソウルフル
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特徴:Janaiのソウルフルなボーカルをフィーチャーし、少しBPMを落としたグルーヴィーな1曲。都会的な洗練さと、夜を駆け抜けるような疾走感が同居している。緻密なパーカッションの配置が素晴らしく、イヤホンで聴くとそのステレオイメージの広さに驚かされる。
8. We Know (Album Edit) (with Katrine Stenbekk)
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ジャンル:シネマティック・ポップ / エレクトロニック
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特徴:ダンスミュージックの枠を超え、映画のエンディングのような壮大さを持つ。Katrineのボーカルが持つ北欧特有の哀愁が、Boom Jinxの冷ややかなサウンドと完璧に調和している。過剰なビートを削ぎ落としたことで、メロディの美しさが際立っている。
9. Senja (with Soundprank)
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ジャンル:プログレッシブ・ハウス / テック
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特徴:インストゥルメンタル曲。ノルウェーの風光明媚な島「セニャ(Senja)」の名を冠した通り、冷たく澄んだ空気感を音に閉じ込めたような楽曲。数学的でテクニカルなシンセのシーケンスが、自然界の造形美のように整然と鳴り響く。
10. Lunar Arcade
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ジャンル:ブレイクス / エレクトロ
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特徴:4つ打ちのキックから離れ、ブレイクビーツを採用した実験的なナンバー。Boom Jinxのサントラ制作のバックグラウンドが反映されており、レトロフューチャーなゲームサウンドのような遊び心と、最新の音響技術が融合したユニークなトラックとなっている。
11. Half The Man (with Jonathan Mendelsohn)
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ジャンル:ヴォーカル・プログレッシブ
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特徴:数少ない男性ボーカル曲。Jonathan Mendelsohnの力強くも繊細な歌声が、エモーショナルな楽曲の核となっている。アルバム終盤に向け、感情の波を最大化させるようなドラマティックなビルドアップが特徴。
12. Ahead of the Storm (with Justine Suissa)
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ジャンル:アンビエント / ダウンテンポ
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特徴:Justine Suissaを迎え、嵐の後の静寂を描く。ビートはほぼ存在せず、Justineのエンジェル・ボイスとピアノの残響だけが美しく空間を漂う。
13. Forgotten September
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ジャンル:IDM / アンビエント
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特徴:消え入りそうな電子音とノイズが、アルバムが「記憶」へと変わっていく過程を表現している。最後まで一切の手を抜かない、Boom Jinxの美学が凝縮された幕引き。
こんな人におすすめ!
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エモーショナルなトランス/プログレッシブが好きな人
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北欧のインテリジェンスな電子音楽が好きな人
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作業中や夜のドライブに、質の高いBGMを求めている人
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Anjunabeatsの黄金期(2010年代半ば)が好きな人
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メロディ重視のダンスミュージックを探している人
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「スタッター・エディット」の生みの親であるBTによる大作。複雑なプログラミングと、キャッチーなボーカルの見事な融合を堪能できる。 -
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プログレッシブ・ハウスの深い森へ迷い込みたいなら、イスラエルの巨匠Guy J。メロディの情緒と、絶え間なく変化する音のテクスチャーが美しく、本作のような「物語のあるアルバム」を好む層にはたまらないはず。 -
Lane 8 『Rise』
よりシンプルでメロディックなアプローチだが、北欧的な「静寂」の美学を共有している。余白を活かした音作りと感情に訴えかける繊細なフレーズ使いは、本作のチルアウト的な側面を好む人におすすめ。
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