出典:YouTube
ジャズの概念を根底から覆し、常に時代の先端を走り続けてきた鍵盤の魔術師、Herbie Hancock(ハービー・ハンコック)。
彼の膨大なディスコグラフィの中で、1969年にリリースされた『Fat Albert Rotunda』は、ジャズ・ファンクというジャンルが産声を上げた瞬間の熱量を封じ込めた、極めて重要なターニングポイントと言える作品です。
テレビ番組用音楽として制作された背景を持ちながらも、後のジャズファンク/フュージョン隆盛を予見する革新性を備えています。
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アーティストについて
Herbie Hancock は、1940年シカゴ生まれ。7歳でピアノを始め、11歳でモーツァルトのピアノ協奏曲をシカゴ交響楽団と共演したという神童エピソードを持つ天才ピアニストです。
1963年、Miles Davis の「黄金のクインテット」に抜擢され、モダン・ジャズの最前線で活躍。しかし、彼の真の凄みは、ジャズの伝統をリスペクトしつつもロック、ソウル、ファンク、後のヒップホップに至るまであらゆるジャンルを飲み込んでいく貪欲な実験精神にあります。
アコースティック・ピアノの名手でありながら、フェンダー・ローズ(電気ピアノ)やシンセサイザーをいち早く導入し、『Head Hunters』や『Future Shock』といった歴史的傑作を次々と発表。グラミー賞を14回受賞するなど、文字通り「リビング・レジェンド」として今なお現役で活動を続けています。
アルバムの特徴・個性
『Fat Albert Rotunda』は、ジャズの知性とファンクの身体性が融合した先駆的アルバムです。
特徴は以下の通りです。
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エレクトリック・ピアノ(フェンダー・ローズ)の積極的使用
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太くうねるベースライン
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温かみのあるホーンアレンジ
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ソウル/R&B的リズム感
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親しみやすいメロディ構造
難解さよりも“グルーヴ”を優先した姿勢が本作の最大の革新です。
『Fat Albert Rotunda』全曲レビュー
1. Wiggle-Waggle
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ジャンル: ジャズ・ファンク
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特徴: アルバムの幕開けを飾る、これ以上ないほどファンキーなキラーチューン。分厚いホーンセクションのイントロから、粘り気のあるリズム隊のグルーヴが炸裂する。ハービーの弾くフェンダー・ローズは、時に打楽器のように力強く、時に流麗にフロアを揺らす。1960年代末期のR&B的な泥臭さを持ちつつも、緻密に構成されたホーン・アレンジがジャズとしての矜持を感じさせる名曲。
2. Fat Mama
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ジャンル: ソウル・ジャズ / ファンク
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特徴: どっしりとしたスローテンポのビートに乗せて、ユーモラスで愛嬌のあるメロディが展開される。曲名通り、ふくよかで包容力のあるサウンド・デザインが印象的。ハービーのピアノ・ソロはブルース・フィーリングに溢れており、後の『Head Hunters』で見せる鋭利なファンクネスの原型が、ここではよりリラックスした形で表現されている。
3. Tell Me a Bedtime Story
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ジャンル: モーダル・ジャズ / フュージョン
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特徴: ファンキーな前2曲から一転、ハービーのメロディメーカーとしての才能が爆発した至高のバラード。電気ピアノの柔らかい音色が、タイトル通り「ベッドタイム・ストーリー(寝る前の読み聞かせ)」のような幻想的な世界観を完璧に演出している。
4. Oh! Oh! Here He Comes
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ジャンル: ジャズ・ロック
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特徴: 軽快なテンポで進む、疾走感のあるナンバー。Joe Henderson のテナー・サックスが縦横無尽に駆け巡り、即興演奏の醍醐味を味わえる。リズム隊のタイトなコンビネーションが光り、ジャズ的な緊張感とロック的な高揚感が同居している。後半に向かって熱量を帯びていくアンサンブルは圧巻。
5. Jessica
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ジャンル: コンテンポラリー・ジャズ
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特徴: 静謐で内省的な美しさを持つ楽曲。アコースティック・ピアノを主体とした構成で、マイルス・クインテット時代の叙情性を引き継いでいる。空間を活かした音の配置、一音一音に込められた繊細なタッチ。アルバム全体の動的なエネルギーの中で、唯一「静」を強調したこの曲が、作品全体の深みを一層際立たせている。
6. Fat Albert Rotunda
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ジャンル: ジャズ・ファンク / R&B
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特徴: 跳ねるようなビートと、キャッチーなホーン・リフが耳に残る。TV番組のテーマ曲的な親しみやすさを持ちつつ、ソロパートでは高度なジャズの語法が惜しみなく投入されている。
7. Lil' Brother
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ジャンル: ハード・バップ・ファンク
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特徴: アルバムを締めくくるのは、熱気溢れるアップテンポなナンバー。ハード・バップの力強さとファンクの躍動感が合体したようなサウンドで、全パートが激しく火花を散らす。
こんな人におすすめ!
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ジャズ・ファンクのルーツを知りたい人
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フェンダー・ローズ(電気ピアノ)の温かくもサイケな音が好きな人
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グルーヴ重視のジャズが好きな人
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ドライブや作業中に、心地よいグルーヴでテンションを上げたい人
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ブラックミュージックの進化を追いたい人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
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The Crusaders『1』
Jazz Crusadersから改名し、よりポップでファンキーな路線へとシフトした直後の一作。トロンボーンとサックスを主体とした厚みのあるフロントラインは、本作のホーン・アレンジと共通する「華やかさ」を持っており、70年代クロスオーバー・フュージョンの雛形を作り上げた傑作。 -
Grant Green『Alive!』
同じく1970年前後のジャズ・ファンクを象徴するライブ盤。ギタリストのGrant Green による、泥臭くもキレのあるグルーヴは、Herbie Hancockの目指した「踊れるジャズ」と共通する哲学を持っている。 -
The Meters『Look-Ka Py Py』
ニューオーリンズ・ファンクの至宝。ジャズ的な即興要素は少ないが、その強烈なバックビートとタイトなアンサンブルは、本作の「Wiggle-Waggle」などのリズム解釈に多大な影響を与えている。 -
Donald Byrd『Ethiopian Knights』
ブルーノート・レコードがファンク路線に大きく舵を切った時期の傑作。重厚なビートと洗練されたホーン・アレンジの融合は、本作が提示したジャズ・ファンクの完成形の一つと言える。 -
Freddie Hubbard『Red Clay』
本作にも参加しているトランペッターの代表作。ソウルフルなメロディとジャズの高度な即興が交差するサウンドは、70年代クロスオーバー・ジャズの幕開けを告げるよう。
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まとめ
『Fat Albert Rotunda』は、ジャズがファンクへと歩み寄った歴史的瞬間を記録する一枚です。
知性とグルーヴが自然に結びついた本作は、後のフュージョン/クロスオーバーの源流として今なお重要な意味を持ちます。
ジャズの進化を体感したい方に、ぜひ聴いていただきたい名盤です。