雑食音楽遍歴

徒然なるままに あの頃好きだった曲、今も聴いている曲を紹介します

Moderat『Moderat』(2009)|繊細なグリッチから重戦車級のビートへ

YouTubeサムネイル

出典:YouTube

ベルリンのエレクトロニック・ミュージック・シーンが生んだ、21世紀最高のコラボレーション。Modeselektor の破壊的なビートと、Apparat の叙情的な音響が見事に融合したユニットModerat 。

そのセルフタイトルのデビューアルバム『Moderat』は、重厚なビート、繊細な電子音、エモーショナルなメロディを融合させたサウンドで、当時のエレクトロニックミュージックの新しい可能性を提示しました。

クラブでも自宅でも楽しめる完成度の高いアルバムとして、今でも高く評価されています。

 🎧 Amazon Music Unlimitedで『Moderat』を聴く

アーティストについて

Moderat(モデラート)は、ドイツ・ベルリンを拠点とする3人組ユニットです。

メンバーは、ベース・ミュージックやヒップホップを飲み込んだ野性的なエレクトロを奏でるGernot Bronsert とSebastian Szary からなるデュオModeselektor と、繊細でエモーショナルなエレクトロニカの旗手として知られるSascha Ring ことApparat 。

2002年に最初のEPを発表したものの、互いの活動が多忙を極め、本格的なアルバム制作には至りませんでした。

しかし2009年、ついにリリースされた本作において、彼らは「肉体的なビート」と「内省的なメロディ」という、相反する要素を一つの完璧な生命体として結実させたのです。Thom Yorke が彼らの大ファンであることを公言していることからも、その音楽性の高さが窺えます。

アルバムの特徴・個性

ベルリンの伝説的レーベルBPitch Control から放たれた本作には、以下のような際立った個性があります。

  • 「静」と「動」の完璧な融合
    Apparat が持つ繊細なテクスチャーと、Modeselektor が得意とするフロアを破壊するような重低音が、奇跡的なバランスで同居しています。

  • ダブステップへのベルリン的回答
    当時、ロンドンを中心に爆発していたダブ・ステップの流れを汲みつつも、よりミニマルで洗練されたベルリン流のダーク・エレクトロニカへと昇華させています。

  • ボーカル・トラックの美しさ
    インストゥルメンタル主体のダンス・ミュージックでありながら、Sascha Ring  の儚げな歌声が加わることで、スタジアム・ロックにも通じる壮大な叙情性を獲得しています。

『Moderat』全曲レビュー

1. A New Error

  • ジャンル: プログレッシブ・エレクトロニカ / IDM

  • 特徴: 反復される重厚なピアノのようなシンセ・リフが、徐々に熱を帯びていく展開は圧巻。一見シンプルに見えるが、緻密に計算された音響工作がリスナーを深いトランス状態へと誘う。

youtu.be

2. Rusty Nails

  • ジャンル: グリッチ・ポップ / ダウンテンポ

  • 特徴: 細かく刻まれたグリッチ・ノイズと、憂いを帯びたメロディが、冬のベルリンを思わせるような冷たくも温かい空間を構築している。中盤から加わるノイジーなベースはModeselektor による「毒」の注入であり、美しさの中に危うさを共存させている。

youtu.be

3. Seamonkey

  • ジャンル: IDM / ミニマル・テクノ

  • 特徴: 初期のIDMへのリスペクトを感じさせる、テクニカルなビート・プログラミングが光る。水中を漂うような浮遊感のあるシンセ・パッドと、対照的に硬質なスネアの質感が面白い。

4. Slow Match (feat. Paul St. Hilaire)

  • ジャンル: ダブ / ダウンテンポ

  • 特徴: 地を這うような深いサブベースと、ミニマルに刻まれるギターのカッティング。煙が立ち込めるようなディープな音響の中で、レゲエ/ダブの精神性がベルリンのテクノ・マナーで再構築されている。

5. 3 Minutes Of

  • ジャンル: アンビエント / サウンドスケープ

  • 特徴: 脈動するようなパルス音と、遠くで鳴り響くドローンが、聴き手の意識を内側へと向かわせる。嵐の前の静けさを感じさせる、非常に映画的なサウンドデザインがなされている。

6. Nasty Silence

  • ジャンル: ダーク・エレクトロ / IDM

  • 特徴: Modeselektor が得意とする、ヒップホップ以降の鈍いリズム感が強調されており、そこにApparat の細やかなテクスチャーが絡み合う。中盤のブレイクで見せる無音の使い方が、楽曲の緊張感を極限まで高めている。

7. Sick with It (feat. Dellé)

  • ジャンル: ダブ・ステップ / ダンスホール

  • 特徴: 当時のロンドンのダブステップ・シーンへの回答とも言える、強烈なワブルベースと乾いたスネアが炸裂する。しかし、ベルリン特有のクールな質感が保たれており、単なるフロア・ボムに終わらない品格がある。

8. Porc #1

  • ジャンル: ミニマル・テクノ / ダンス・パンク

  • 特徴: 中毒性の高いベースラインが楽曲を牽引する。Modeselektor のルーツであるレイヴ・カルチャーの香りが漂いつつも、Apparat による音響の磨き上げによって、非常に洗練された「踊れるインテリジェンス・ロック」のような佇まいを見せている。

9. Porc #2

  • ジャンル: ダーク・アンビエント / ドローン

  • 特徴: 前曲のモチーフを引き継ぎつつ、それを暗闇の深淵へと沈めたような構成。重苦しい空気感の中に、微かな光のようなシンセサイザーが差し込む。Modeselektor が描く「夜のベルリン」の裏側を表現したかのような、内省的なトラック。

10. Les Grandes Marches

  • ジャンル: プログレッシブ・テクノ

  • 特徴: 行進曲のような規則正しいリズムが刻まれる中、多層的なシンセサイザーが徐々に壁のように迫ってくる。静かな怒りや希望を感じさせる、感情の振れ幅が非常に大きい一曲。

youtu.be

11. Berlin

  • ジャンル: アブストラクト・ヒップホップ / ダブ

  • 特徴: ゆったりとしたヒップホップ的なビートに、深いリバーブがかけられた音像が重なる。どこかノスタルジックで、変わり続ける都市の寂寥感を切り取ったような、叙情的なトラック。

12. No. 22

  • ジャンル: ミニマル・テクノ / エレクトロ

  • 特徴: 淡々と刻まれるビートの上に、Apparat 流の美しいコード感が乗る。派手さはないが、聴き込むほどにその音響の深みに引き込まれる、玄人好みの仕上がり。

13. Out of Sight

  • ジャンル: エレクトロニカ / ダウンテンポ

  • 特徴: 視界から消えていくような、儚いメロディが主役の楽曲。細かなノイズ成分がメロディと溶け合い、独自の情緒を生み出している。アルバムのメインパートを締めくくるに相応しい、穏やかな終焉を感じさせる構成。

14. Beatswaysick

  • ジャンル: IDM / グリッチ

  • 特徴: 「BeatsWayAnyWay」と「Sick with It」の要素を解体・再構築したような実験的トラック。Modeselektor の野性的なリズムセンスが全開で、予測不能な音の飛び出しが耳を刺激する。彼らのコラボレーションの本質である「音遊び」が極まった一曲。

15. Rusty Nails (Shackleton Remix)

  • ジャンル: エクスペリメンタル・ダブ / トライバル

  • 特徴: 原曲の情緒を完全に解体し、呪術的なパーカッションと重低音の渦へと変貌させている。アルバムの最後にこのリミックスが置かれることで、作品全体のサイケデリックな余韻がより一層深いものとなる。

🎧 Amazon Music Unlimitedで聴く

こんな人におすすめ!

  • ベルリンの電子音楽シーンに興味がある人

  • 夜にじっくり聴ける電子音楽を探している人

  • 重低音と繊細なメロディのコントラストに痺れたい人

  • ポスト・ダブステップ系の音楽が好きな人 

  • 音響デザインやプログラミングの緻密さを堪能したい人

同じ系統の楽曲・アルバム5選

1. Apparat『Walls』

Moderat の片翼、Sascha Ring のソロ代表作。本作に繋がるエモーショナルなボーカルと、グリッチの効いた美しい音響工作が既に完成されている。Moderat を「静」の側面からより深く掘り下げたいリスナーにとって、避けては通れない必聴盤。

2. Modeselektor『Happy Birthday!』

Moderat のもう一つの顔、Modeselektor による傑作。Thom Yorke をフィーチャーした楽曲も収録されており、彼らの持つ「野性味溢れるビート」と「ジャンルレスな遊び心」が全開。Moderat の「動」のエネルギーの源泉を知るために最適な一枚。

3. Jon Hopkins『Immunity』

繊細なピアノの旋律と、インダストリアルなテクノ・ビートを高次元で融合させた名盤。Moderat に近い「踊れる叙情」を持っており、緻密な音響構築とダイナミックな展開は、本作のファンであれば間違いなく没入できるはず。

4. Bicep『Bicep』

90年代のエレクトロやハウスを現代的なプロダクションで蘇らせたデュオのデビュー作。メロディアスなシンセリードを多用し、感情に訴えかけるダンス・ミュージックという共通の美学を持っている。

5. Burial『Untrue』

ダブ・ステップというジャンルを、内省的で孤独な「夜の音楽」へと変容させた金字塔。ロンドンの霧が立ち込めるようなサウンドだが、重厚なベースと切ないサンプリングの使い方は、Moderat の持つ「ダークな叙情性」と強く共鳴する部分がある。

この記事で紹介したアルバム

▶ 配信サービスで聴く

🎧 Amazon Music Unlimited

amzn.to

🎧 Apple Music

🎧 Spotify

open.spotify.com

作品を買う

💿 AmazonでCD/レコードを見る 

まとめ

『Moderat』は、エレクトロニカとクラブミュージックの魅力を融合した2000年代電子音楽の重要作品です。

繊細なサウンドデザイン、重厚なビート、エモーショナルなメロディ。これらが組み合わさることで、単なるダンスミュージックを超えたアルバム体験を生み出しています。

電子音楽が好きな人はもちろん、メロディアスなサウンドスケープを楽しみたいリスナーにもぜひ聴いてほしい一枚です。