出典:YouTube
光り輝くギターの音色と、心の奥底に優しく触れるようなエレクトロニック・サウンド。2021年にリリースされたSan Holo(サン・ホロ)の2ndアルバム『bb u ok?』は、ダンスミュージックという枠組みを超え、聴く者すべてに「大丈夫だよ」と語りかけるような、極めてエモーショナルな傑作です。
パンデミックによる孤独や不安が世界を覆っていた時期に届けられた本作。煌めく星空のような多幸感と、一人部屋で膝を抱えるような切なさが同居した、現代の私たちが最も必要としていた「心のサウンドトラック」でした。
🎧 Amazon Music Unlimitedで『bb u ok?』を聴く
アーティストについて
San Holo ことSander van Dijck は、オランダ出身のプロデューサー、ギタリスト、シンガーソングライターです。ビートメイカーとしてキャリアをスタートし、後に自身のボーカルやギターを取り入れたスタイルへと進化しました。
トラップやフューチャー・ベースといった電子音楽のフォーマットに生々しいギターの旋律を融合させるスタイルは、後に「bitbird」という自らのレーベルを通じて、一つの大きなムーブメントを形成しました。
「stay vibrant(常に鮮やかであれ)」というスローガンを掲げ、常にポジティブで美しいエネルギーを音楽に込め続ける彼は、現代の電子音楽シーンにおいて最も人間味に溢れたアーティストの一人です。
アルバムの特徴・個性
『bb u ok?』は、San Holo というアーティストの「光」と「影」が、全20曲という圧倒的なボリュームで描き出された野心作です。
-
「ポスト・ロック」と「EDM」の完璧な邂逅
歪んだギターのアルペジオやシューゲイザー的な音響が、エレクトロニックなビートとシームレスに混ざり合っています。 -
内省的なメッセージ性
タイトルの『bb u ok?(baby, are you ok?)』が示す通り、自分自身やリスナーへ向けた「問いかけ」が通底するテーマとなっています。 -
「光の粒子」のような音響設計
一音一音がキラキラと輝くような透明感のあるプロダクションは、聴いているだけで心が浄化されるような「ヒーリング効果」すら持っています。
『bb u ok?』全曲レビュー
1. i am thinking of you
-
ジャンル: アンビエント
-
特徴: アルバムの幕開けを飾る、繊細なピアノと環境音が混ざり合うインストゥルメンタル。遠くで鳴るノイズが、誰かの記憶の断片を呼び起こすかのようなノスタルジーを演出し、これから始まる長い旅への心の準備を整えてくれる。
2. IT HURTS!
-
ジャンル: インディー・エレクトロ / エモ・トラップ
-
特徴: san holo らしい煌めくギターリフが主導する楽曲。「痛むんだ」というストレートな感情を吐露しながらも、サウンドはどこまでも美しく、悲しみを光で包み込むようなカタルシスを与えてくれる。
3. new one
-
ジャンル: フューチャー・ベース / ポスト・ロック
-
特徴: 空が大きく開けていくような開放感に満ちたトラック。細かく刻まれたボーカル・チョップと、重厚なシンセサイザーの壁が、リスナーを文字通り「新しい場所」へと連れ去る。
4. bb u ok?
-
ジャンル: インディー・ポップ / エレクトロニカ
-
特徴: アルバムの表題曲。シンプルでありながら、耳から離れないギターのメロディが印象的。誰かに優しく肩を叩かれるような安心感があり、孤独な夜に寄り添ってくれる、本作の魂とも言える一曲。
5. black and white
-
ジャンル: ドリーム・ポップ
-
特徴: 白黒の世界が徐々に色づいていくような、色彩豊かな音響工作が施されている。ささやくような歌声と、柔らかなシンセ・パッドの重なりが、夢見心地な空間を作り出している。
6. i just wanna fucking cry
-
ジャンル: エモ・ポップ / オルタナティブ
-
特徴: 抑えきれない感情を爆発させたタイトルとは裏腹に、非常に繊細なバラードとして展開する。独りではないという連帯感を生み、聴き手の涙を誘う。
7. heal(↑%)
-
ジャンル: アンビエント / ヒーリング
-
特徴: タイトルの通り「癒やし」に特化した小品。上向きの矢印が示すように、沈んだ心をゆっくりと浮上させてくれるような、透明度の高いドローン・サウンドが支配している。
8. lonely in LA
-
ジャンル: インディー・フォーク / エレクトロ
-
特徴: 華やかな都市LAの裏側に潜む孤独を歌う。アコースティック・ギターの温かな音色と、デジタルなリズムのコントラストが、一人でいる時間の豊かさを肯定してくれる。
9. the great clown Pagliacci
-
ジャンル: スポークン・ワード / 実験的音響
-
特徴: 「道化師パリアッチ」の寓話をモチーフにした、演劇的なトラック。表向きは人を笑わせる道化師が、実は誰よりも悲しんでいるという比喩は、アルバム全体の「光と影」のテーマを象徴している。
10. i get lonely around people, too
-
ジャンル: ドリーム・ポップ / シューゲイザー
-
特徴: 「人混みの中にいても孤独を感じる」という現代的な痛みを、深いリバーブに包まれたギターで描く。孤独を否定せず、音響として美しく昇華させる手腕が見事。
11. thoughts and chemicals
-
ジャンル: インディー・ポップ / シンセ・ポップ
-
特徴: 脳内の思考と化学反応が織りなす不安定な精神状態を、浮遊感のあるシンセサイザーで表現している。自身の内面を解剖するような、誠実なソングライティングが光る。
12. MY FAULT
-
ジャンル: エレクトロ・ロック / オルタナ
-
特徴: 自身の過ちを認める、痛みを伴う告白のような楽曲。少し歪んだボーカルと、力強いビートが交錯し、リスナーの感情を激しく揺さぶる。
13. make this moment last
-
ジャンル: プログレッシブ・エレクトロ
-
特徴: 「この瞬間を永遠にしたい」という願いを込めた、壮大なスケールの楽曲。徐々に熱量を帯びていくシンセサイザーの旋律が、リスナーをクライマックスへと導き、生命の躍動を感じさせる。
14. find your way
-
ジャンル: ダンス・ポップ / フューチャー・ベース
-
特徴: 迷いの中にいる人々へ「自分の道を見つけよう」と鼓舞する、ポジティブなエネルギーに満ちたアンセム。煌びやかなサウンドが、聴き手の背中を優しく押してくれる。
15. do you see me?
-
ジャンル: シューゲイザー / エレクトロニカ
-
特徴: 歪んだギターが幾重にも重なり、圧倒的な音の壁を作り出す。ノイズの中にメロディが溶け込んでいく様はまさにデジタル時代のシューゲイザーで、その没入感は凄まじい。
16. FEELS RIGHT
-
ジャンル: インディー・ダンス
-
特徴: 「これでいいんだ」という自己肯定感に満ちた、軽快なビートの楽曲。アルバム後半において、暗いトンネルを抜け出した直後のような爽快感を与えてくれる。
17. ewing street
-
ジャンル: インストゥルメンタル / ローファイ
-
特徴: 特定の場所の空気感を封じ込めたような、親密な小品。ギターのストロークが、誰かの部屋で聴いているような安心感を醸成する。
18. wheels up
-
ジャンル: パワー・ポップ / エレクトロ・ロック
-
特徴: Weezer のRivers Cuomo が参加した、最高にポップなドライブ・ミュージック。突き抜けるような青空を感じさせる旋律が、アルバムを終盤のピークへと押し上げる。
19. you’ve changed, I’ve changed
-
ジャンル: ドリーム・ポップ / インディー
-
特徴: 変化を受け入れることの痛みと希望を歌う。重なり合うアルペジオが、変わりゆく人間関係を繊細に描写し、聴き手に深い余韻を残す。
20. one more day
-
ジャンル: シューゲイザー / アンビエント
-
特徴: 全ての音が光の中に溶けていき、最後はただ純粋な響きだけが残る。長い旅を終え、新しい自分として現実に戻ってくるための、慈愛に満ちた終曲。
こんな人におすすめ!
-
歌詞やメッセージ性を重視する人
-
ギターの音色と電子音楽の融合に魅力を感じる人
-
心に寄り添う音楽を求めている人
-
インディー・ロックやポップが好きな人
-
エモーショナルなEDMが好きな人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
1. Porter Robinson『Nurture』
2021年の同時期にリリースされ、電子音楽の「人間性」への回帰を決定づけた一枚。自然界の音とデジタル・サウンド、内省的な歌詞世界において本作と最も深い共鳴を見せる双璧と言える傑作。
2. American Football『American Football (LP1)』
エモ/ポスト・ロックの伝説的な名盤。san holo が本作で目指した「切ないギターのアルペジオによる感情表現」の原点の一つ。
3. Slowdive『Souvlaki』
シューゲイザーの金字塔。空間を埋め尽くすドリーミーなギターの残響と、そこから立ち上がる美しいメロディは、san holo の音響工作の根底にある美学と直結している。
4. Kasbo『The Making of a Paracosm』
北欧のプロデューサーによる、幻想的でシネマティックなエレクトロニカ。ダンスミュージックとしての機能性を保ちながらも、圧倒的な叙情性と美しいメロディを追求している。
5. Tycho『Awake』
ギター、ベース、ドラムといった生楽器のアンサンブルと、温かなシンセサイザーが見事に調和したインストゥルメンタル・アルバム。光に溢れたサウンドスケープと、心地よい疾走感において、本作の持つ「stay vibrant」な精神と重なる。
この記事で紹介したアルバム
▶ 配信サービスで聴く
🎧 Amazon Music Unlimited
🎧 Apple Music
🎧 Spotify
▶ 作品を買う
まとめ
『bb u ok?』は、EDMという枠を超えて“感情を伝える音楽”として成立した作品です。
派手なドロップではなく、繊細なメロディや歌詞によってリスナーに寄り添うそのスタイルは、多くの人の心に響くでしょう。
もし今、少しだけ心が疲れているのなら。あるいは、言葉にできない孤独を感じているなら。このアルバムの再生ボタンを押してみてください。そこに広がる鮮やかな世界が、あなたの心を優しく力強く照らしてくれるはずです。