出典:YouTube
2020年代に入り、クラブミュージックは再び“聴く音楽”としての側面を強めています。その中でも、ひときわ異彩を放つ存在がDjRUM(ドラム)です。
最新作『Under Tangled Silence』は、ジャングル、テクノ、クラシック、アンビエントを横断しながら、極めて個人的で深い音響体験を提示するアルバムとなっています。
断片化された記憶や感情を音として再構築したような、没入型のリスニング体験が広がります。
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アーティストについて
DjRUM ことFelix Manuel は、ロンドンを拠点に活動するプロデューサーです。
彼の最大の特徴は、圧倒的な「越境性」にあります。ジャズ、クラシック、テクノ、ジャングル、ダブステップ……。これら相反する要素を、ターンテーブリストとしての卓越したスキルと、アカデミックな作曲能力で見事に融合させます。
現代の「音の彫刻家」とも呼べる唯一無二のアーティストです。
アルバムの特徴・個性
本作は、タイトルが示す通り「絡まり合った沈黙の下」にある感情や風景を描き出しています。
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静動の極端なコントラスト
息を呑むようなピアノの旋律や環境音による「静」のセクションから、突如として超高速のブレイクビーツが襲いかかる「動」への転換。 -
シネマティックな物語性
1曲の中でリズムが解体され、再構築される様子は、まるで一本の映画を観ているような没入感を与えます。 -
驚異的なサウンドデザイン
全ての音の粒が立っており、ヘッドフォンで聴くと、耳元で何かが蠢いているような生々しい音響体験を味わえます。
『Under Tangled Silence』全曲レビュー
1. A Tune for Us
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ジャンル:モダン・クラシカル / アンビエント
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特徴:祈りのような静謐さに満ちている曲。柔らかなシンセのレイヤーと、遠くで鳴り響くピアノが、リスナーの意識を深い場所へと導く。
2. Waxcap
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ジャンル:IDM / エクスペリメンタル
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特徴:微細なグリッチ音と、有機的なパーカッションが交錯するトラック。キノコの名を冠したこの曲は、土の下で菌糸が広がるような、静かだが生命力に溢れた動きを感じさせる。
3. Unweaving
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ジャンル:レフトフィールド・テクノ
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特徴:タイトルの通り、既存のリズムを「解きほぐしていく」ような構成が圧巻。規則的なビートが鳴り始めたかと思うと、突如として無音や変則的なエディットが挿入され、聴き手の予測を鮮やかに裏切る。数学的な緻密さと、肉体的なグルーヴが同居する傑作だ。
4. L’Ancienne
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ジャンル:ネオ・クラシカル / ダブ
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特徴:古風な弦楽器の響きを、現代的なダブのフィルターで加工した一曲。どこか遠い過去の記憶を呼び起こすようなノスタルジーがありつつも、サブベースの響きは極めて現代的である。時代を跨ぐような不思議な感覚に陥るトラック。
5. Hold
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ジャンル:アンビエント・ガラージ
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特徴:ヴォーカルの断片がソウルフルに漂い、切なさを加速させる。2ステップ的なリズムの予感を感じさせながらも、あえて本格的なビートを抑制することで、「宙吊り(Hold)」の状態を表現している。その寸止めの美学が、聴き手の感情を強く揺さぶる。
6. Galaxy In Silence
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ジャンル:スペース・ジャングル / ブレイクコア
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特徴:アルバム中最もダイナミックな一曲。静寂の宇宙(Galaxy)に、突如として超高速のアーメン・ブレイクが銀河の衝突のように鳴り響く。激しいリズムの渦の中でも、背景のアンビエント・パッドが気高さを失わない様は、まさにDjRUMの真骨頂と言える。
7. Reprise
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ジャンル:モダン・クラシカル / ピアノ
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特徴:前曲の狂騒を鎮めるように置かれた、静かなピアノ曲。嵐が去った後の静けさの中で、主題が形を変えて繰り返される。この短いインターバルがあることで、アルバム後半への没入感がさらに高まる重要なピースとなっている。
8. Three Foxes Chasing Each Other
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ジャンル:ジャズ・エクスペリメンタル / IDM
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特徴:3匹の狐が追いかけっこをしているような、軽快かつ複雑なリズムが特徴。ウッドベースのような音色と、トリッキーなシンバルワークがジャズ的な即興性を演出している。遊び心と高度なプログラミングが完璧に融合した、非常にテクニカルなトラック。
9. Let Me
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ジャンル:エモーショナル・ブレイクス
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特徴:悲痛な叫びのようなヴォーカル・サンプリングが、激しいビートの上を泳ぐ。本作の中でも特に「情念」が強く出た楽曲であり、聴く者の胸を締め付ける。闇の中から光を求めるような、力強いエネルギーに満ち溢れている。
10. Out Of Dust
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ジャンル:ハーフステップ / テクノ
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特徴:塵の中から立ち上がるような、低重心のグルーヴ。無機質なインダストリアル・サウンドが、徐々に温度を帯びていく展開に引き込まれる。終盤に向けて音の密度が増していき、圧倒的な音圧で空間を支配する様は圧巻の一言。
11. Sycamore
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ジャンル:モダン・クラシカル / アウトロ
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特徴:アルバムを締めくくるのは、大樹(シカモア)のように包容力のある美しい旋律。全てのカオスを浄化し、静かな終焉へと導く。最後に残るのは、深い沈黙と、長い旅を終えた後のような清々しい余韻。
こんな人におすすめ!
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作業用ではなく“じっくり聴く音楽”を求めている人
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サウンドデザインの極致に触れたい人
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シネマティックな没入感を重視する人
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「静寂」と「破壊」のコントラストを楽しみたい人
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音響や空間表現に興味がある人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
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Floating Points『Crush』
ジャズの素養と電子音楽を高度に融合させた点において、DjRUMと最も共鳴するアーティストの一人。即興性と緻密なプログラミングが同居している。 -
Amon Tobin『Bricolage』
サンプリング・アートの極致。ジャズやブラジル音楽を解体し、ドラムンベースのフォーマットに落とし込むその手法は、DjRUMの先駆者的存在と言える。 -
Andy Stott『Faith in Strangers』
重厚なベースと、氷のように冷たくも美しいサウンドスケープ。ダウンテンポなビートと、どこか退廃的な美意識の融合は、本作が持つ「夜」の側面に通じるものがある。 -
Jon Hopkins『Singularity』
精神世界とテクノロジーの融合。静謐なピアノと、力強く脈打つビートの対比が鮮やか。聴き手をトランス状態へと導く構成力は、DjRUMのファンに刺さるはず。 -
Burial『Untrue』
ロンドンのストリートの夜気をそのままパッケージングした傑作。サンプリングされた声の処理や、孤独な空気感の描き方は、DjRUMの背景にある「ロンドンの魂」を理解する上で欠かせない。
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まとめ
『Under Tangled Silence』は、現代エレクトロニカの一つの到達点とも言える作品です。ジャンルを横断しながら、極めて個人的で深い音楽体験を提供しています。
簡単に消費される音楽ではありませんが、その分だけ何度も聴く価値があります。音楽を“感じる”ことに重きを置くリスナーにとって、本作は間違いなく特別な一枚となるでしょう。