雑食音楽遍歴

徒然なるままに あの頃好きだった曲、今も聴いている曲を紹介します

DjRUM『Under Tangled Silence』(2025)|夜の独り時間に深く沈む。静寂の奥で鳴る音

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出典:YouTube

2020年代に入り、クラブミュージックは再び“聴く音楽”としての側面を強めています。その中でも、ひときわ異彩を放つ存在がDjRUM(ドラム)です。

最新作『Under Tangled Silence』は、ジャングル、テクノ、クラシック、アンビエントを横断しながら、極めて個人的で深い音響体験を提示するアルバムとなっています。

断片化された記憶や感情を音として再構築したような、没入型のリスニング体験が広がります。

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アーティストについて

DjRUM ことFelix Manuel は、ロンドンを拠点に活動するプロデューサーです。

彼の最大の特徴は、圧倒的な「越境性」にあります。ジャズ、クラシック、テクノ、ジャングル、ダブステップ……。これら相反する要素を、ターンテーブリストとしての卓越したスキルと、アカデミックな作曲能力で見事に融合させます。

現代の「音の彫刻家」とも呼べる唯一無二のアーティストです。

アルバムの特徴・個性

本作は、タイトルが示す通り「絡まり合った沈黙の下」にある感情や風景を描き出しています。

  • 静動の極端なコントラスト
    息を呑むようなピアノの旋律や環境音による「静」のセクションから、突如として超高速のブレイクビーツが襲いかかる「動」への転換。

  • シネマティックな物語性
    1曲の中でリズムが解体され、再構築される様子は、まるで一本の映画を観ているような没入感を与えます。

  • 驚異的なサウンドデザイン
    全ての音の粒が立っており、ヘッドフォンで聴くと、耳元で何かが蠢いているような生々しい音響体験を味わえます。

『Under Tangled Silence』全曲レビュー

1. A Tune for Us

  • ジャンル:モダン・クラシカル / アンビエント

  • 特徴:祈りのような静謐さに満ちている曲。柔らかなシンセのレイヤーと、遠くで鳴り響くピアノが、リスナーの意識を深い場所へと導く。

2. Waxcap

  • ジャンル:IDM / エクスペリメンタル

  • 特徴:微細なグリッチ音と、有機的なパーカッションが交錯するトラック。キノコの名を冠したこの曲は、土の下で菌糸が広がるような、静かだが生命力に溢れた動きを感じさせる。

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3. Unweaving

  • ジャンル:レフトフィールド・テクノ

  • 特徴:タイトルの通り、既存のリズムを「解きほぐしていく」ような構成が圧巻。規則的なビートが鳴り始めたかと思うと、突如として無音や変則的なエディットが挿入され、聴き手の予測を鮮やかに裏切る。数学的な緻密さと、肉体的なグルーヴが同居する傑作だ。

4. L’Ancienne

  • ジャンル:ネオ・クラシカル / ダブ

  • 特徴:古風な弦楽器の響きを、現代的なダブのフィルターで加工した一曲。どこか遠い過去の記憶を呼び起こすようなノスタルジーがありつつも、サブベースの響きは極めて現代的である。時代を跨ぐような不思議な感覚に陥るトラック。

5. Hold

  • ジャンル:アンビエント・ガラージ

  • 特徴:ヴォーカルの断片がソウルフルに漂い、切なさを加速させる。2ステップ的なリズムの予感を感じさせながらも、あえて本格的なビートを抑制することで、「宙吊り(Hold)」の状態を表現している。その寸止めの美学が、聴き手の感情を強く揺さぶる。

6. Galaxy In Silence

  • ジャンル:スペース・ジャングル / ブレイクコア

  • 特徴:アルバム中最もダイナミックな一曲。静寂の宇宙(Galaxy)に、突如として超高速のアーメン・ブレイクが銀河の衝突のように鳴り響く。激しいリズムの渦の中でも、背景のアンビエント・パッドが気高さを失わない様は、まさにDjRUMの真骨頂と言える。

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7. Reprise

  • ジャンル:モダン・クラシカル / ピアノ

  • 特徴:前曲の狂騒を鎮めるように置かれた、静かなピアノ曲。嵐が去った後の静けさの中で、主題が形を変えて繰り返される。この短いインターバルがあることで、アルバム後半への没入感がさらに高まる重要なピースとなっている。

8. Three Foxes Chasing Each Other

  • ジャンル:ジャズ・エクスペリメンタル / IDM

  • 特徴:3匹の狐が追いかけっこをしているような、軽快かつ複雑なリズムが特徴。ウッドベースのような音色と、トリッキーなシンバルワークがジャズ的な即興性を演出している。遊び心と高度なプログラミングが完璧に融合した、非常にテクニカルなトラック。

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9. Let Me

  • ジャンル:エモーショナル・ブレイクス

  • 特徴:悲痛な叫びのようなヴォーカル・サンプリングが、激しいビートの上を泳ぐ。本作の中でも特に「情念」が強く出た楽曲であり、聴く者の胸を締め付ける。闇の中から光を求めるような、力強いエネルギーに満ち溢れている。

10. Out Of Dust

  • ジャンル:ハーフステップ / テクノ

  • 特徴:塵の中から立ち上がるような、低重心のグルーヴ。無機質なインダストリアル・サウンドが、徐々に温度を帯びていく展開に引き込まれる。終盤に向けて音の密度が増していき、圧倒的な音圧で空間を支配する様は圧巻の一言。

11. Sycamore

  • ジャンル:モダン・クラシカル / アウトロ

  • 特徴:アルバムを締めくくるのは、大樹(シカモア)のように包容力のある美しい旋律。全てのカオスを浄化し、静かな終焉へと導く。最後に残るのは、深い沈黙と、長い旅を終えた後のような清々しい余韻。

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こんな人におすすめ!

  • 作業用ではなく“じっくり聴く音楽”を求めている人

  • サウンドデザインの極致に触れたい人

  • シネマティックな没入感を重視する人

  • 「静寂」と「破壊」のコントラストを楽しみたい人

  • 音響や空間表現に興味がある人

同じ系統の楽曲・アルバム5選

  1. Floating Points『Crush』
    ジャズの素養と電子音楽を高度に融合させた点において、DjRUMと最も共鳴するアーティストの一人。即興性と緻密なプログラミングが同居している。

  2. Amon Tobin『Bricolage』
    サンプリング・アートの極致。ジャズやブラジル音楽を解体し、ドラムンベースのフォーマットに落とし込むその手法は、DjRUMの先駆者的存在と言える。

  3. Andy Stott『Faith in Strangers』
    重厚なベースと、氷のように冷たくも美しいサウンドスケープ。ダウンテンポなビートと、どこか退廃的な美意識の融合は、本作が持つ「夜」の側面に通じるものがある。

  4. Jon Hopkins『Singularity』
    精神世界とテクノロジーの融合。静謐なピアノと、力強く脈打つビートの対比が鮮やか。聴き手をトランス状態へと導く構成力は、DjRUMのファンに刺さるはず。

  5. Burial『Untrue』
    ロンドンのストリートの夜気をそのままパッケージングした傑作。サンプリングされた声の処理や、孤独な空気感の描き方は、DjRUMの背景にある「ロンドンの魂」を理解する上で欠かせない。

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まとめ

『Under Tangled Silence』は、現代エレクトロニカの一つの到達点とも言える作品です。ジャンルを横断しながら、極めて個人的で深い音楽体験を提供しています。

簡単に消費される音楽ではありませんが、その分だけ何度も聴く価値があります。音楽を“感じる”ことに重きを置くリスナーにとって、本作は間違いなく特別な一枚となるでしょう。