雑食音楽遍歴

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S. Carey『Range of Light』(2014)|深い森の静寂と、木漏れ日のアンサンブル

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出典:YouTube

静けさの中に広がる豊かな音世界――

S. Careyのセカンドアルバム『Range of Light』は、そんな言葉がぴったりの作品です。

2014年にリリースされた本作は、前作『All We Grow』からさらに深化し、より自然との結びつきを感じさせる音像へと進化しました。派手さはないものの、繊細なアレンジと緻密な音作りによって、聴き手を深く没入させる力を持っています。

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アーティストについて

S. Carey ことSean Carey は、アメリカ・ウィスコンシン州出身のマルチ奏者です。

大学でクラシックの打楽器を専攻していた彼は、Justin Vernon によるプロジェクトBon Iver の傑作『For Emma, Forever Ago』に衝撃を受け、自らバンドへの加入を直訴。ドラマー、ボーカリストとして、あの重厚かつ繊細なサウンドの構築に不可欠な存在となりました。

ソロ活動では、打楽器奏者としての緻密なリズム感覚と、クラシックで培った高度なアレンジ能力を発揮。Bon Iver の「静」の部分をより深化させ、自然界のテクスチャを音楽に変換する唯一無二のスタイルを確立しています。

アルバムの特徴・個性

2014年に名門レーベルJagjaguwarからリリースされた本作は、デビュー作『All We Grow』をより壮大に、そしてより精密に進化させた傑作です。

  • パーカッシブな構築美
    ドラマーである彼らしく、ピアノの打鍵音や微細なパーカッションが幾重にも重なり、有機的なリズムの網目を形成しています。
  • 「光」を感じさせる音響設計
    多重録音されたボーカルが、木漏れ日のように重なり合い、空間全体を包み込むような温かみと透明感を生んでいます。
  • 自然との共鳴
    渓流の音や鳥のさえずりを思わせるフルートやストリングスの使い方が見事。部屋にいながらにして、ウィスコンシンの深い自然の中に誘われるような感覚を味わえます。

『Range of Light』全曲レビュー

1. Glass/Film

  • ジャンル:チェンバー・フォーク / ミニマル・ミュージック

  • 特徴:アルバムの幕開けは、現代音楽家Philip Glass へのオマージュを感じさせるピアノのミニマルなリフレインから始まる。透明なガラスが光を反射するように一音一音が結晶のような輝きを放ち、静かに景色が動き出すような高揚感を生んでいる。

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2. Creaking

  • ジャンル:アコースティック・フォーク

  • 特徴:「きしみ」を意味するタイトルの通り、古い木造の家や森の木々が風に揺れるような、どこか懐かしく温かい質感を湛えた一曲。ミニマルなアルペジオとショーンの柔らかな歌声が、聴く者を親密なパーソナルな空間へと引き込む。

3. Crown the Pines

  • ジャンル:インディー・フォーク

  • 特徴:重層的なコーラスワークと、細かく刻まれるパーカッションが印象的。松の木々(Pines)の頂を風が吹き抜けていくような、瑞々しくも雄大な景観を音像化しており、アルバムの中でも特に生命力に満ちた展開を見せる。

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4. Fire-scene

  • ジャンル:エクスペリメンタル・フォーク

  • 特徴:穏やかな流れの中で、ややダークで緊張感のある色調を持つ楽曲。抑制されたビートと不穏な低音が、静かに広がる炎の情景を想起させる。破壊の後に訪れる静寂や、再生の予感を感じさせる深い精神性を備えている。

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5. Radiant

  • ジャンル:アンビエント・フォーク

  • 特徴:タイトル通り「光り輝く」ような、柔らかな音響の波が押し寄せる一曲。楽器の残響が空間をたっぷりと満たし、まるで光の粒子の中に溶けていくような感覚を味わえる。聴く者の心を浄化するような、圧倒的な透明度を誇るトラック。

6. Alpenglow

  • ジャンル:アート・フォーク

  • 特徴:夕日に染まる山頂の輝きを表現した楽曲。複雑に編み込まれたピアノのパターンが、刻一刻と変化する空の色を見事に描写している。リズムの揺らぎが心地よく、ショーンの打楽器奏者としての非凡なセンスが光る。

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7. Fleeting Light

  • ジャンル:モダン・クラシカル / フォーク

  • 特徴:「移ろう光」を描いた、短くも美しい小品的な一曲である。儚げなメロディラインが、消えゆく光の名残を惜しむように響く。静寂を活かした配置が、次の「The Dome」へと続くドラマチックな架け橋となっている。

8. The Dome

  • ジャンル:アンビエント・ポップ

  • 特徴:巨大な天蓋(ドーム)の下にいるような、広大なスケール感を感じさせる名曲。ゆったりとしたビートの上に、温かみのあるシンセサイザーとギターが溶け合い、宇宙的な包容力を生んでいる。日常の喧騒を完全に忘れさせる没入感がある。

9. Neverending Fountain

  • ジャンル: フォーキー・ダウンテンポ

  • 特徴: アルバムを締めくくるのは、絶え間なく湧き出る泉(Fountain)のように、清らかな音の粒が溢れ出す楽曲。旅を終えて再び出発点に戻ってきたような、穏やかな充足感とともにアルバムの幕を閉じる、深い余韻を残す幕引き。

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こんな人におすすめ!

  • 静かで落ち着いた音楽が好きな人

  • Bon Iver系のインディーフ・ォークが好きな人

  • ポスト・クラシカルやミニマル・ミュージックに興味がある人

  • 自然や風景を感じる音楽を求めている人

  • 日々の疲れを癒し、心を整えたい人

同じ系統の楽曲・アルバム5選

  1. Bon Iver『Bon Iver, Bon Iver』
    S. Carey が制作に深く関わった歴史的傑作。豊かなアンサンブルと圧倒的な音響美という点で、本作と表裏一体の関係にある。

  2. The Tallest Man on Earth『There's No Leaving Now』
    同じくJagjaguwarレーベル所属。ピアノを導入し、サウンドの幅を広げた本作の叙情性は、S. Carey のファンにも響くはず。

  3. Julianna Barwick『Nepenthe』
    声を楽器のように使い、多重録音によって神聖な空間を作り上げる女性アーティスト。本作の持つ「光」の美学と共通するものがある。

  4. Vance Joy『Dream Your Life Away』
    アコースティックな響きを大切にしたサウンドメイク。大自然の中で聴きたくなるような開放感と温かさを持ち合わせた一枚。

  5. Olafur Arnalds『Island Songs』
    アイスランドの作曲家によるポスト・クラシカル。S. Carey が持つ「静寂の美学」を、よりクラシック側から追求したような美しさがある。

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まとめ

『Range of Light』は、音楽というよりも“体験”に近いアルバムです。

派手な展開や強いフックはありませんが、その分、聴くほどに深く染み込んでいく魅力があります。自然と共鳴するような音楽を求めている人にとって、本作は間違いなく特別な一枚になるでしょう。

静かな時間にじっくりと向き合いたい、そんなときにこそおすすめしたい作品です。