Diploが〈Higher Ground〉から発表したEP『Do You Dance?』は、「Turn Back Time」「On My Mind」「Looking For Me」などのヒット曲を含む全7曲を収録し、ディープハウスやUKハウスに焦点を当てたダンスミュージック集です。1曲あたり約3分、テンポ感とグルーヴ重視のコンパクト設計で、フィットネスミックスやクラブセットにもしっくり馴染む仕上がりです。
Diploといえば、Major LazerやSilk Cityといったプロジェクトでの世界的ヒット、数々のトップアーティストとのコラボレーションで知られていますが、彼のソロ作品では、ジャンルの垣根を越えた実験性と、深い音楽的探求心がより色濃く表れています。この『Do You Dance?』は、彼が自身のルーツであるハウスミュージックに立ち返りつつ、その進化形を提示した意欲作と言えるでしょう。
このEPは、単なるダンスフロア向けのトラック集に留まらず、リスナーを様々なダンスミュージックの歴史と未来を巡る旅へと誘います。
アーティストについて
DiploことThomas Wesley Pentzは、現代エレクトロニック・ミュージック界で最も影響力があり、多作な人物の一人です。彼はプロデューサー、DJ、ソングライターとして、ジャンルの壁を軽々と飛び越える活動を展開しています。
彼のキャリアは、フィラデルフィアのアンダーグラウンドシーンから始まり、自身のレーベルMad Decentを立ち上げることで、世界のダンスミュージックの潮流を大きく変えました。M.I.A.とのコラボレーションや、レゲエ、ダンスホール、エレクトロニック・ミュージックを融合させた世界的グループMajor Lazerとしての活動は特に有名です。さらに、Mark RonsonとのSilk Cityではハウスやディスコの要素を取り入れ、「Electricity」でグラミー賞を受賞するなど、常にその創造性を更新し続けています。
Diploの音楽性は、特定のジャンルに留まらず、ヒップホップ、ダンスホール、ブラジル音楽、そしてハウスなど、世界中の様々なサウンドを取り入れ、それらを独自の方法で融合させることにあります。彼の作品は、常に新しい音を探求し、リスナーを予測不能な音楽の旅へと誘います。彼は単なるDJやプロデューサーではなく、音楽文化のキュレーターであり、トレンドセッターとして、世界中のダンスミュージックシーンに多大な影響を与え続けています。
EPの特徴
EP『Do You Dance?』は、Diploの音楽的ルーツへの回帰と、現代的なサウンドへの昇華が特徴的な作品です。このEPは、彼がハウスミュージックというジャンルにいかに深く傾倒しているかを改めて示すと同時に、その多様性を提示しています。
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ハウスミュージックへの再定義: EP全体を通じて、ハウスミュージックの温かみとグルーヴが前面に出ています。しかし、単なるレトロなハウスではなく、Diploならではの現代的なプロダクション技術と実験的なアプローチが加えられ、ジャンルに新たな息吹を吹き込んでいます。
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多様なハウスサブジャンルの探求: ディープハウス、アフリカントライブハウス、プログレッシブハウスといった様々なハウスのサブジャンルが巧みに取り入れられています。各トラックが異なる顔を持ちながらも、Diploの持つ一貫した美的感覚によって、EP全体に統一感が生まれています。
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ヴォーカルとインストゥルメンタルのバランス: 一部のトラックではゲストヴォーカルがフィーチャーされ、楽曲に感情的な深みを与えています。一方で、インストゥルメンタルのトラックでは、ビートとシンセサイザーのレイヤーが複雑に絡み合い、リスナーを音の世界へと没入させます。
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瞑想的でありながらもダンサブル: 全体的に、アッパーなクラブアンセムというよりも、より内省的で、かつ身体を揺らすことができるようなグルーヴが重視されています。深夜のクラブで深く踊り込むような、あるいは自宅で瞑想的に聴き入るような、多様なシチュエーションで楽しめる作品です。
『Do You Dance?』は、Diploが自身のソロ名義で、よりパーソナルかつ洗練されたハウスミュージックを探求した意欲作であり、彼の音楽性の幅広さを改めて証明する一枚と言えるでしょう。
EPの個性
『Do You Dance?』の個性は、Diploが長年培ってきたジャンルレスな探求心と、ハウスミュージックへの深い愛情が融合した「成熟したサウンド」にあります。彼のプロジェクトやコラボレーションは、しばしば大胆な実験やチャートを意識したポップなアプローチが特徴ですが、このEPでは、より繊細で、リスナーの内面に語りかけるようなサウンドが追求されています。
この作品は、彼が単なるヒットメーカーに留まらず、多様な音楽的ルーツを持つアーティストであることを改めて示しています。特に、アフリカ音楽やディープハウス、プログレッシブハウスといった要素を彼独自のフィルターを通して再構築することで、聴き慣れたハウスのフォーマットの中に新鮮な驚きを提供しています。
また、パンデミック禍におけるリリースという背景も、このEPの個性を際立たせています。アッパーなパーティーアンセムが求められがちだったダンスミュージックシーンにおいて、彼は自宅でじっくりと音楽と向き合えるような、内省的でグルーヴィーなサウンドを提示しました。それは、リスナーに「あなたは踊るか?」と問いかけながらも、そのダンスが身体的なものだけでなく、精神的な解放にもつながることを示唆しているようです。『Do You Dance?』は、Diploのアーティストとしての深みと、時代を超えた音楽的メッセージが込められた、真に個性的な作品です。
『Do You Dance?』全曲レビュー
1. Turn Back Time
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ジャンル:ディープ・ハウス、ヴォーカル・ハウス
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特徴:Diploとソニー・フォデラのコラボレーションによる、エモーショナルでグルーヴィーなハウス・トラック。力強い女性ボーカルが前面に出ており、郷愁を帯びたメロディラインと相まって、リスナーの心に深く響く。ソニー・フォデラらしい、跳ねるようなドラムと、Diploの洗練されたシンセサウンドが融合し、クラシックなハウスの雰囲気と現代的なプロダクションが見事に調和している。クラブのフロアを温め、感情的な高揚へと誘う一曲。
2. On My Mind
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ジャンル:テック・ハウス、ベース・ハウス
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特徴:SIDEPIECEとのタッグによる、非常にダンサブルで中毒性の高いテック・ハウス・トラック。繰り返されるヴォーカルサンプルが耳に残り、タイトでパンチの効いたドラムと重厚なベースラインが、フロアを揺らすに十分なパワーを持っている。ミニマルな要素の中に、計算されたサウンドエフェクトと展開が盛り込まれており、クラブでのピークタイムに最適なアンセム。この曲はリリース後、世界中のDJセットでヘビープレイされた。
3. On My Mind (Purple Disco Machine Remix)
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ジャンル:ディスコ・ハウス、ファンク・ハウス
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特徴:「On My Mind」のPurple Disco Machineによるリミックスであり、原曲のテックハウスの要素をディスコ・ハウスへと昇華させている。生楽器のようなグルーヴィーなベースラインと、きらびやかなストリングス、そしてタイトなファンキードラムが特徴。原曲のヴォーカルサンプルが、より陽気でレトロな雰囲気に包まれ、聴く者を自然と踊らせる。日中のパーティーや、ソウルフルなムードに浸りたい時に最適なバージョン。
4. Looking For Me
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ジャンル:ヴォーカル・ハウス、ディープ・ハウス
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特徴:Paul Woolford、そしてKareen Lomaxという強力な布陣で制作された、美しいヴォーカル・ハウス・トラック。Kareen Lomaxのパワフルで情熱的な歌声が、楽曲の中心を成し、希望に満ちたメッセージを伝える。DiploとPaul Woolfordによるプロダクションは、広がりを感じさせるシンセパッドと、洗練されたリズムが特徴であり、感情的な高まりを生み出す。深い感動を与える、エモーショナルな楽曲。
5. Samba Sujo
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ジャンル:アフロ・ハウス、ブレイクビーツ
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特徴:Born Dirtyとのコラボレーションによる、熱狂的でリズミカルなアフロ・ハウス・トラック。ブラジルのサンバのようなパーカッションと、力強いベースラインが、独特のグルーヴを生み出している。反復するヴォーカルチャントが、楽曲にトライバルな雰囲気を加え、聴き手を原始的なダンスへと誘う。Diploが持つワールドミュージックへの造詣の深さが感じられる一曲。
6. Love To The World
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ジャンル:テック・ハウス、ベース・ハウス
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特徴:Wax Motifとの共同作業による、ソリッドでエネルギッシュなテック・ハウス・トラックである。シンプルでありながらも、聴き手を惹きつけるベースラインと、タイトなドラムが特徴。ミニマルな構成ながらも、楽曲全体に漂うポジティブなヴァイブスが、フロアの一体感を生み出す。ダンスミュージックが持つ、普遍的な愛と喜びを表現している。
7. Conga Rock
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ジャンル:テック・ハウス、ラテン・ハウス
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特徴:Mat.Joeとのコラボレーションによる、陽気でグルーヴィーなテック・ハウス・トラックである。ラテン音楽の影響を受けたパーカッションと、キャッチーなホーンサウンドが特徴的。身体を自然と揺らすようなリズムと、遊び心に満ちたアレンジが、楽曲に楽しさをもたらしている。このコレクションの締めくくりにふさわしい、明るく活気に満ちた一曲。
こんな人におすすめ!
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UKとディープハウスを主体にしたダンスミュージックが好きな人
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ボーカルを含む上質なダンスミュージック作品を楽しみたい人
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クラブセットやフィットネス向けに使えるコンパクト設計のトラックを探している人
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瞑想的でありながらも身体を動かしたい人
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ジャンルの垣根を越えた音楽的探求に興味がある人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
1. Black Coffee - 『Subconsciously』
南アフリカ出身のDJ/プロデューサーによるアルバムであり、アフロハウスとディープハウスの要素が融合した、スピリチュアルでグルーヴィーなサウンドが特徴である。Diploの『Do You Dance?』が持つアフリカントライブハウスの側面と共通する部分がある。
2. Jamie xx - 『In Colour』
The xxのメンバーによるソロアルバムであり、ハウス、レゲエ、ダブステップといった要素が融合した、メロディックで内省的なエレクトロニック・ミュージックである。Diploの作品が持つ、リスニングとしての深みと、ジャンルの横断性に通じるものがある。
3. Fred again.. - 『Actual Life 3 (January 1 - September 9 2022)』
日常のサウンドや、ヴォイスメモをサンプリングに取り入れ、エモーショナルでパーソナルなハウスミュージックを構築している。Diploの作品が持つ、ハウスの感情的な側面と、現代的なプロダクションへの探求心に共鳴するだろう。
4. Peggy Gou - 『Once』
韓国出身のDJ/プロデューサーによるEPであり、ハウスとテクノを基盤としつつ、ジャズやソウルの要素を取り入れた、グルーヴィーでファンキーなサウンドが特徴。Diploの『Do You Dance?』が持つ、洗練されたハウスグルーヴと共通する部分がある。
5. Disclosure - 『Settle』
UKガラージとハウスミュージックを現代的にアップデートしたアルバムであり、キャッチーなヴォーカルと、ダンサブルなビートが特徴である。Diploの作品が持つ、ハウスの普遍的な魅力と、現代的なクラブサウンドへのアプローチに通じるものがある。
リンク
まとめ
DiploのEP『Do You Dance?』は、2020年代という時代において、ハウスミュージックの新たな可能性を提示した傑作です。彼はこの作品で、自身の音楽的ルーツであるハウスに深く潜り込みながらも、長年培ってきたジャンルレスな探求心と、最先端のプロダクション技術を惜しみなく投入しています。
ディープでメロディックなサウンドから、力強いアフリカントライブハウス、そしてクラシックなソウルハウスまで、多様なグルーヴが凝縮されたこのEPは、単なるダンスミュージックの枠を超え、リスナーの内面に語りかけるような深い音楽体験を提供します。
『Do You Dance?』は、Diploがアーティストとして常に進化し続けている証であり、ジャンルの垣根を越えて音楽を愛するすべての人に、ぜひ一度体験していただきたい作品です。このサウンドが持つ普遍的な魅力と未来への問いかけを、あなたの耳と心で感じてみてください。