出典:YouTube
2002年にリリースされたTLCのアルバム『3D』は、グループにとって初の作品となったLisa “Left Eye” Lopesの死去後に完成した、深い意味を持つ作品です。ファンからは厳しい耳で迎えられたものの、T-BozとChilliが残されたスピリットと強い意志で作り上げた本作は、ヒップホップ/R&Bの枠を超え、彼女たちのキャリアを締めくくるにふさわしい一枚です。
アーティストについて
TLCはTionne “T-Boz” Watkins、Rozonda “Chilli” Thomas、Lisa “Left Eye” Lopes の3人からなるアメリカのR&B/ヒップホップガールズ・グループです。1990年代には『CrazySexyCool』(1994)、『FanMail』(1999)といったアルバムで世界的大ヒットを記録。革新的なファッションとメッセージ性の強いリリックでティーン層を中心に絶大な支持を得ました。『3D』は、Left Eyeの不慮の死によって苦境に立たされたグループが、立ち直りをかけて制作した作品であり、彼女への追悼と未来への希望が同居した作品でもあります。
アルバムの特徴・個性
『3D』は、ヒップホップとR&Bを基盤に、ポップやソウル的な側面も融合させたスタイルです。アルバムにはプロデューサーとしてBabyface、The Neptunes、Rodney Jerkins、Missy Elliott & Timbaland、Raphael Saadiq、Organized Noizeなど、豪華な顔ぶれが参加し、サウンドの多様性と洗練された質感を実現しています。
特に「Girl Talk」と「Quickie」はTLCらしい鋭さとユーモアを兼ね備え、残されたメンバーとプロデューサーがLeft Eyeの魂を継承しつつグループの未来を指し示すような作品になっています。
『3D』全曲レビュー
1. 3D (Intro)
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ジャンル:R&B/ヒップホップ導入部
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特徴:アルバムの序奏として静かに始まり、続く楽曲の世界観へと静かに導いている。感情を抑えたトーンが、この作品に込められた“再生と追悼”のテーマをほのめかす。
2. Quickie
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ジャンル:R&B/ポップ
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特徴:T-BozとChilliの歌声が織りなす美しいハーモニーが、タイトルの「Quickie(気軽な関係)」というテーマとは裏腹に、大人の切なさを感じさせる。シンプルながらも洗練されたビートは、TLCの初期サウンドを彷彿とさせる部分もあり、懐かしさと新しさが共存している。
3. Girl Talk
4. Turntable
5. In Your Arms Tonight
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ジャンル:ニューソウル/R&B
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特徴:The Neptunesによる洗練されたプロダクションに支えられたナンバー。トレンド感とともに、T-BozとChilliの歌声の深みを存分に感じられる。夜のドライブにぴったりの、クールでセクシーな雰囲気が魅力。
6. Over Me
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ジャンル:ポップ・ロック/R&B
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特徴:軽快なギターとリズムが融合し、忘れ去られた恋を吹っ切るポジティブな歌詞が印象的。楽曲の後半に、Left Eyeのボーカルがサンプリングとして登場する部分があり、ファンにとっては感動的な瞬間となる。
7. Hands Up
8. Damaged
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ジャンル:ポップ・ロックバラード
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特徴:痛みや癒しをテーマとした重厚なバラード。T-Bozの低めのトーンが心に刺さり、グループの感情的な深みを増幅させている。
9. Dirty Dirty
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ジャンル:エレクトロR&B/インタールード風
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特徴:Missy ElliottとTimbalandが手掛けた実験的なトラック。変幻自在なビートと、不気味なシンセサイザーの音が、TLCの持つクールでワイルドな側面を最大限に引き出している。
10. So So Dumb
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ジャンル:ポップ/R&B
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特徴:浮気に対する皮肉と後悔を歌うキャッチーなトラック。シンプルな構成ながら、グルーヴ感のあるベースラインと心地よいリズムが病みつきになる。
11. Good Love
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ジャンル:R&Bバラード
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特徴:穏やかで情感豊かなバラード。軽快なアコースティックギターの音色と、TLCの爽やかなハーモニーが、聴く者に元気を与えてくれる。
12. Hey Hey Hey Hey
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ジャンル:ファンキーR&B
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特徴:軽快で楽しいリズムが売りのナンバー。T-BozとChilliの掛け合いが活きており、アルバムに明るいムードを添えている。パーティーやクラブで聴きたくなるような、TLCの新たな一面を見せる楽曲。
13. Give It to Me While It’s Hot
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ジャンル:ダンスR&B
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特徴:テンポが高く、ダンスフロア向けのトラック。TLCらしいクールでソウルフルなボーカルと、Left Eyeのラップが、この曲に深い意味合いを与えている。悲しみを乗り越え、それでも前へと進む彼女たちの決意が感じられる、感動的なクロージングトラック。
こんな人におすすめ!
- 90年代から2000年代にかけてのR&B・ヒップホップが好きな人
- 女性ボーカルグループが好きな人
- ポップスとヒップホップの融合を楽しみたい人
- 音楽のバックグラウンドやストーリーに興味がある人
- バラードからアップテンポまで幅広いスタイルのR&Bを楽しみたい人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
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Aaliyah – 『Aaliyah』
洗練されたR&Bとエレクトロニック・ソウルの融合を提示した名盤。『3D』にも通じる未来的でありながら感情豊かなサウンドを持っている。 -
Destiny’s Child – 『Survivor』
女性の自立や強さをテーマにしたアルバム。TLCの“女性としての強さ”という軸と共通する部分があり、感情の耐性を音楽で表現する点で類似性がある。 -
Missy Elliott – 『Under Construction』
TLCと制作陣を共有し、エッジのきいたプロダクションとパーソナルなリリックを融合させたアルバム。刺激的で革新的なR&Bを求める人におすすめ。 -
D’Angelo – 『Voodoo』
ソウルとヒップホップの間を行き来するブラックミュージックの傑作。『3D』の感情的な深さと静かな強さを好む人には共鳴する要素がある。 -
Mary J. Blige – 『No More Drama』
痛みからの回復と強さへの移行を描いたアルバム。TLC『3D』のテーマにも通じ、感情が音楽で昇華される経験を与えてくれる。
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まとめ
『3D』は、TLCの歴史における転換点を示す重要な作品です。Left Eyeの死を受けて喪失と追悼の気持ちを込めながらも、T-BozとChilliはプロデューサー陣とともに未来へ進む意思をアルバム全編で示しています。傷と希望を同時に映し出すこの作品は、黒人女性グループとしての感情と意志の強さを見事に音楽に昇華した名盤として記憶されます。