雑食音楽偏歴

あの頃好きだった曲、今も聴いている曲

Feeder『Echo Park』(2001)

2001年にリリースされたFeederの3rdアルバム『Echo Park』は、UKロックシーンにおける転換点を象徴する一作です。2000年代初頭、ロックが再び脚光を浴びる中で、彼らのエモーショナルな旋律とオルタナティヴな轟音は、同時代の聴き手たちに強く響きました。特に「Buck Rogers」のスマッシュヒットによって、Feederは一気に知名度を拡大し、そのサウンドは英国ロックの新たな顔として認識されるようになります。

この記事では、Feederというバンドの背景とともに、『Echo Park』の魅力を徹底的に掘り下げていきます。特に各楽曲の特徴や聴きどころに焦点を当て、これからFeederを聴いてみようという人にもわかりやすく紹介していきます。

アーティストについて

Feederは、1994年にイギリス・ウェールズで結成されたロックバンド。中心メンバーはGrant Nicholas(ボーカル・ギター)とTaka Hirose(ベース)。彼らの音楽は、初期はグランジオルタナティヴロックの影響が強く、次第に叙情性やポップ性が増していきました。ドラマーのJon Leeは『Echo Park』の後に不幸な出来事で亡くなり、バンドにとってこのアルバムは彼とともに完成させた最後のフルアルバムとしても知られています。

アルバムの特徴

『Echo Park』は、全体を通してエネルギーと哀愁が共存するバランスの取れた作品です。先行シングル「Buck Rogers」のキャッチーさが話題をさらいましたが、アルバムには内省的で静謐な曲や、エモーショナルな爆発を孕んだ楽曲も多く含まれています。サウンド的には、グランジ、ポスト・ブリットポップ、メロディックオルタナティヴロックがミックスされた印象です。

アルバムの個性

この作品の個性は、"陽性の爆発"と"陰性の浸透"の見事なコントラストにあります。Grant Nicholasの書くメロディには、どこか切なさが漂い、Jon Leeのドラミングは荒々しくも正確で、楽曲を力強く支えています。また、Taka Hiroseのベースラインはメロディを際立たせる陰の立役者。これらが融合した結果、『Echo Park』はロックのエネルギーを持ちながらも、深い感情を湛えたアルバムとなりました。

全曲レビュー

1. Standing on the Edge

  • ジャンル:オルタナティヴ・ロック

  • 特徴:緊張感あるイントロはインダストリアル風ドラムと鋭利なギターリフで幕を開ける。途中で1960年代風のポップコーラスに移行し、ミスマッチを自然に融合している。Grant Nicholasの歌声は自己反省と焦燥を帯び、サビでは「世界の縁」に立つ主人公の覚悟が伝わってくる。本作のプロダクションを担当したGil Nortonとの緻密なバランス設計が際立つ。

2. Buck Rogers

  • ジャンル:ポップ・ロック

  • 特徴:TR-808的なリズムとキャッチーなベースラインが特徴で、シングルヒットの理由は明白。歌詞は近未来的な逃避願望と、現実への揺らぎを巧妙に混ぜており、Grantが書いたものでオーディエンスに共感を与えるシンプルさが秀逸。プロディーサーやA&RによりSR‑71向けの曲を自分たちのものにした逸話も面白い。

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3. Piece by Piece

  • ジャンル:グランジ寄りのオルタナ

  • 特徴:アンビエント調のイントロから静かに幕開けし、ゆらぎあるコード進行とメランコリックなメロディが展開。歌詞は「破片のように壊れた関係」を暗喩し、感情の繊細さと空虚さを巧みに描く。サイケ・トリップ混じりのサウンドデザインで、Feederの実験性が見えるイチ推しバラード。

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4. Seven Days in the Sun

  • ジャンル:サーフ・ロック風オルタナ

  • 特徴:軽快なサーフ風ギターとホーン的シンセが夏の爽やかさを感じさせる、明るく爽快なムードが全体を包むポップチューン。“七日間の太陽”をテーマに、歌詞はノスタルジーと移動の自由を表現。キャッチーなギターが耳に残り、青春のワンシーンのような光景を呼び起こす。表面的には陽気でも、根底に少しの孤独が見え隠れする。

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5. We Can't Rewind

  • ジャンル:エモーショナル・ロック

  • 特徴:クワイエット・ラウド構造を採用し、静かなAメロから激しいサビへとスイッチ。歌詞は別れた恋人への思いやりと希望を込めており、「友人としていよう」という慈しみも感じられる。バンドの内省的側面が表れており、暗を抱えつつ前を向く姿勢が示される。

6. Turn

  • ジャンル:ポスト・ブリットポップ

  • 特徴:優しく穏やかな旋律が印象的で、メロウな質感がアルバムに安らぎをもたらす。サビでは思いがあふれるように展開し、抑制と解放のバランスが美しい。Tour中の孤独やメンバー間の絆を浮かべる歌詞が温かい。

7. Choke

  • ジャンル:ヘヴィ・ロック/グランジ

  • 特徴:低音の効いたヘヴィなリフと、どこかダークなトーンが印象的。暴力性すら感じさせるサウンドで、感情の鬱屈をストレートにぶつけるような1曲。アルバム中でも特に重厚な“ポップ側”を象徴する中間曲。

8. Oxygen

  • ジャンル:ミッドテンポ・オルタナ

  • 特徴:アンビエント的なイントロから壮大に展開し、後半は壮大なアンセム性を持つ構成。Grantの感情深いボーカルが「酸素のように必要な何か」への渇望を表現し、ポジティブと葛藤の狭間を行き来する。優しさの中に心の痛みが漂うような、抑制された美しさがある。リスナーを深く静かに包み込む1曲。

9. Tell All Your Friends

  • ジャンル:ポップ・ロック

  • 特徴:キラキラしたギターとポジティブなメロディで、一見明るい曲調。しかし歌詞には“別れ”や“始まり”を示唆するフレーズがあり、青春の終わりのような余韻が残る。自己防衛とポーズの正当化に見える語り口が印象的だが、全体としては軽快なロックチューン。Grantの「責任の擦り付け」に対する苦笑交じりの表現が面白い。

10. Under the Weather

  • ジャンル:ミニマル・ロック/アコースティック寄り

  • 特徴:シンプルな構成でボーカルの感情がダイレクトに伝わる。心の内を淡々と語るようなトーンが印象的。穏やかな空気の中にも孤独や疲れを感じさせる静かな名曲。

11. Satellite News

  • ジャンル:ドリーミー・オルタナ

  • 特徴:ゆったりとしたペースで、ニュースを聞くように現実逃避と不満を交えた歌詞が胸を打つ。浮遊感が強く、宇宙や未来への郷愁すら感じる。最後の重く響くギターリフも印象的で、アルバム後半の落ち着きと深みを与える重要曲。

12. Bug

  • ジャンル:ノイジーグランジロック

  • 特徴:初期Feederを彷彿とさせるラウドで粗削りなサウンド。攻撃的なギターとスピード感で突き進む短めの楽曲。カオティックな熱量が、静かな終盤から再びアグレッシブに引き戻す。

こんな人におすすめ!

  • 90年代後半〜2000年代初頭のUKロックが好きな人

  • NirvanaFoo Fightersのようなグランジ・エモ系が好きな人

  • OasisBlurではなく、もう少しエモーショナルなUKロックを求めている人

  • キャッチーで感情に訴えるメロディが好きな人

  • 激しさと優しさ、両方の要素をバランスよく味わいたい人

同じ系統の楽曲・アルバム5選

1. Jimmy Eat World – Bleed American

本作は、アメリカ発のメロディック・エモの金字塔とされる名盤である。冒頭を飾る「Salt Sweat Sugar(Bleed American)」から最後の「My Sundown」まで、緻密なギターアレンジと胸を締めつけるような内省的リリックが全体に貫かれている。Feederの「Buck Rogers」的な疾走感は「The Middle」や「Sweetness」に通じ、キャッチーでラジオ向きな曲が並ぶが、そこに込められたメンタル面の傷や思索が深く、単なるポップロックに終わらない構成力が光る。英国的メロディアスさにアメリカン・ポップの清涼感を混ぜた好例といえる。

2. Idlewild – The Remote Part

スコットランドのバンドIdlewildによる本作は、英語圏文学の影響とギター・アンセムが同居する稀有な作品である。Feederと同様、激しさと繊細さを同時に持つタイプで、サウンド面はよりブリティッシュ・ロック然としている。「You Held the World in Your Arms」は静と動の緩急をつけた構成で、Feeder「Turn」などに通じる情感を生み出す。ポエティックな歌詞と壮大なメロディライン、エモーショナルなヴォーカルという三拍子が揃ったアルバムだ。

3. Ash – Free All Angels

北アイルランド出身のAshは、90年代末〜2000年代初頭のUKギターロック復権を象徴するバンドの一つ。本作は特にポップセンスが炸裂しており、「Burn Baby Burn」や「Shining Light」といったアンセム級の楽曲が揃う。Feederの『Echo Park』と同様、バンドのキャリア中もっともメジャーに成功したアルバムであり、楽曲の粒が立ち、疾走感のあるギターと叙情的な歌詞の融合が魅力である。ロックキッズに親しまれる一方で、深読みもできる構成になっている。

4. Manic Street Preachers – Know Your Enemy

Feederのエモーショナルさをより政治的/社会的な文脈に寄せたのが、マンネリを打破するこの問題作。音楽的にはローファイ、エレクトロ、ガレージロックなどを取り入れて実験的であるが、「Let Robeson Sing」「Found That Soul」などにおける熱量と叙情はFeederと親和性が高い。バンドの転換点となる本作は、感情の爆発というよりは「知的で内燃的なロック」としての重厚さがあり、似たフィーリングを異なる角度で伝える。

5. Nada SurfLet Go

アメリカのオルタナ〜エモシーンにおける秘宝的作品。もともとは「Popular」で一発屋扱いされた彼らが、本作で成熟と再起を果たした。「Inside of Love」「Blonde on Blonde」など、静謐で詩的な表現が多く、Feederの「Oxygen」「Piece by Piece」的な立ち位置の楽曲が中心を占める。アコースティック調でありながら構成は緻密で、余白の美学とメロディの純粋さを感じさせる一枚である。夜に一人で聴くのにぴったりな心象風景ロック。

リンク

feederweb.com

open.spotify.com

まとめ

『Echo Park』は、Feederというバンドが内に秘めていた激情と繊細さを見事に融合させた傑作です。特にロックに感情や詩情を求める人にとって、このアルバムは2000年代UKロックの中でも外せない一枚と言えるでしょう。キャッチーでありながらも深く、激しくもありながら優しい。その音楽的両義性は、今聴いても全く古びることがありません。