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そっと寄り添うような音楽が、日々の喧騒を静かに癒してくれる瞬間があります。Novo Amorの『Cannot Be, Whatsoever』は、まさにそんな音の記憶をくれるアルバムです。空気の揺らぎ、心の機微、自然の息吹が、繊細なアレンジと淡く滲むようなメロディの中に染み込んでいます。この作品は「静寂の中にある感情」を音楽として丁寧に紡ぎ出した、まるで手紙のような一枚です。
アーティストについて
Novo Amor(本名Ali John Meredith-Lacey)は、2014年頃から本格的に音楽活動を開始しました。初期はシンプルなアコースティックギターと透明感のある歌声を軸にした宅録的な楽曲が多く、Bon IverやSufjan Stevensと比較されることが多かったです。しかし、アルバムを重ねるごとにサウンドは豊かに膨らみ、壮大なオーケストレーションや電子的な音色を融合させる方向へと進化しました。彼の音楽には、ウェールズの自然や個人的な記憶が色濃く反映されており、どこか懐かしく、同時に新鮮な響きを持っています。
アルバムの特徴・個性
『Cannot Be, Whatsoever』は、Novo Amorが過去の自分と向き合い、それを手放すための物語とも言える作品です。タイトルの意味は「全くそうではない」という否定的なニュアンスを含みますが、実際には“過去の痛みを認め、それを超えていく”という前向きな感情も込められています。サウンド面では、アコースティックギターやピアノをベースに、ドローンやエレクトロニック・ビート、ストリングスが加わり、映画的な奥行きを持った楽曲が多く収録されています。全体として非常に静謐でありながら、感情の波がしっかりと存在するアルバムです。
『Cannot Be, Whatsoever』全曲レビュー
1. Opaline
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ジャンル:アンビエント・フォーク/ドリーム・ポップ
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特徴:オープニングにふさわしく、静けさの中に淡い期待を感じさせる美しい一曲。穏やかなアコースティックギターのループと、薄く重なるシンセが印象的。後半のストリングスがドラマチックな展開を演出し、序章ながらすでに物語の核心を予感させるような深みがある。
2. I Feel Better
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ジャンル:インディー・フォーク/オルタナティブ
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特徴:タイトルが示すとおり、前向きな気配をたたえた一曲。イントロの鍵盤とギターの絡みが柔らかく、リズム感も軽やか。ただし、明るさの裏にある「痛みからの回復」のような複雑な感情が漂う。
3. Decimal
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ジャンル:エレクトロ・アコースティック/インディー・フォーク
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特徴:美しいメロディラインが特徴のトラック。電子音とアコースティックの絶妙な融合で、ノスタルジックかつ現代的なサウンドに仕上がっている。コーラスの配置やリバーブのかけ方にセンスがあり、音の“間”がとても心地よい。
4. No Plans
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ジャンル:ドリーム・フォーク/ローファイ・ポップ
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特徴:やや陰りのあるコード進行が、曲のテーマに繋がる“漂うような感覚”を生んでいる。歌詞の内容も、「未来に期待しない日々」への受け入れを描いており、切なさと静けさが見事に共存している。ひとつの季節が終わるような、感傷的な美しさが際立っている。
5. Birdcage
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ジャンル:チャンバー・フォーク/アンビエント
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特徴:低音を控えめにし、ヴォーカルとストリングスの繊細なアンサンブルに焦点を当てた楽曲。まるで閉ざされた部屋で誰かの記憶を思い出しているような、個人的な密室感がある。短い尺の中にも展開があり、聴き手の想像力を刺激する。
6. Keep Me
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ジャンル:オルタナティブ・フォーク/ドリーム・ポップ
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特徴:静かなギターのフレーズに導かれ、Novo Amorの儚いファルセットがやさしく重なる1曲。中盤以降に加わるストリングスとノイズのような加工音が、感情の波を視覚化するかのように広がっていく。ミニマルな構成ながら、情感は豊かで、何度聴いても胸に迫る温度感がある。
7. Halloween
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ジャンル:インディー・フォーク/バロック・ポップ
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特徴:不穏なピアノのアルペジオで始まり、心の闇を照らすような語り口が特徴的。中盤からリズムが崩れていくような構成があり、内面の混乱を音で表現している。終盤にかけて、音数が一つひとつ消えていくようにフェードアウトしていく展開が見事で、聴く人の心にも沈黙が訪れるような印象を残す。
8. Statues
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ジャンル:チャンバー・ポップ/アンビエント・フォーク
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特徴:冒頭から漂う空気感が、まるで森の中に足を踏み入れたような錯覚を与える。細かいパーカッションと弦楽器のレイヤーが、美しく複雑な音の構築を支えている。孤独や静けさが持つ力を音で描いた傑作。
9. If We're Being Honest
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ジャンル:アコースティック・フォーク/スローコア
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特徴:音数は少なく、ギターとボーカルのやりとりに集中できる構成になっている。まるで日記の一節を読み上げるようなリリックと、揺れるようなメロディラインがリスナーの心にそっと入り込む。小さな音の動きや息づかいまでもが曲の一部になっていて、まさに“耳元で語りかける”タイプの1曲。
10. Guestbook
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ジャンル:ピアノ・バラード/ミニマル・フォーク
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特徴:ピアノを主体にした非常に静かな楽曲で、アルバム終盤に向けて心を落ち着かせる役割を果たしている。演奏は非常に控えめながら、その静寂がかえって強い感情を生む構造になっている。後半でふと現れるストリングスが、まるで記憶の断片を繋ぎ合わせるような役割を担っており、儚くも力強い締めくくりの準備をしてくれる。
こんな人におすすめ!
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Bon IverやSufjan Stevensのような繊細で内省的な音楽が好きな人
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落ち着いた雰囲気の中で、深く感情を味わいたい人
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映画のサウンドトラックのように情景を描く音楽を求めている人
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自然や静けさの中で過ごす時間が好きな人
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夜や雨の日に、部屋でじっくり音楽に浸りたい人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
1. Bon Iver -『For Emma, Forever Ago』
ウィスコンシンの山小屋で録音されたとされる伝説的なインディーフォーク作品。孤独と再生をテーマにした静謐なサウンドが、Novo Amorに強い影響を与えています。
2. S. Carey -『Range of Light』
Bon IverのドラマーでもあるS. Careyによる、クラシカルな要素を取り入れたアンビエント・フォーク。自然の描写が豊かで、Novo Amorと通じる精神性を持っています。
3. Angus & Julia Stone『Down The Way』
兄妹デュオによるフォーク・ポップの名作。よりメロディアスな方向性ながら、感情の細やかさと内向きの美しさが共通しています。
4. A Blaze of Feather -『A Blaze of Feather』
Ben Howardのバンド仲間によるソロプロジェクト。海や風、夢のような音像を詩的に描く点で、Novo Amorと世界観が重なります。
5. Daughter -『Not to Disappear』
少しダークな質感も持つ女性ヴォーカル中心のインディーロック。繊細な詞世界と音の余白が魅力で、Novo Amorのファンには強く刺さるはずです。
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まとめ
『Cannot Be, Whatsoever』は、Novo Amorが自身の過去と向き合い、手放すまでの感情を音楽に刻み込んだ作品です。静かながらも深い感情の波を持ち、アコースティックと電子音の絶妙なバランスが聴く者を包み込みます。深夜や早朝、ふと立ち止まって自分を見つめたい瞬間にこそ、最適な一枚です。