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A Perfect Circle『eMOTIVE』(2004)

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出典:YouTube

A Perfect Circle の3rdアルバム『eMOTIVe』は、2004年のアメリカ大統領選挙に合わせてリリースされた異色のカバーアルバムです。政治的・社会的メッセージが込められた名曲の数々を大胆に再構築し、現代的な怒りや悲しみ、そして希望を表現しています。本作は、ロックバンドが単なるエンターテイナーに留まらず、いかにして時代と対話しうるかを示す貴重な例と言えるでしょう。

アーティストについて

A Perfect Circle は、Tool のボーカルであるMaynard James Keenanと、ギタリストのBilly Howerdelを中心に結成されたアメリカのオルタナティブロックバンドです。1999年のデビューアルバム『Mer de Noms』で高く評価され、2003年の2ndアルバム『Thirteenth Step』ではその評価を決定的なものにしました。Tool のプログレッシブで重厚な音楽性とは異なり、A Perfect Circle はよりメロディアスで芸術性の高いアプローチを特徴としています。

アルバムの特徴・個性

『eMOTIVe』は、10曲のカバーと2曲のオリジナルを含む全12曲で構成されています。特筆すべきは、どのカバーも単なる焼き直しではなく、原曲を一度解体し、APCの美学で再構築している点です。ジョン・レノンの「Imagine」は、平和を願うメッセージを逆説的に重く沈んだ音像で表現しており、単なる理想論に終わらせない現実感を帯びています。

アルバム全体としては、政治的メッセージを押し出しつつも、単純なプロテストソング集ではありません。むしろ、人間の感情や倫理観に訴えるような、深く内省的なトーンが貫かれています。まさに“感情(eMOTIVe)”を軸に構成された作品と言えるでしょう。

『eMOTIVE』全曲レビュー

1. Annihilation

  • ジャンル:インダストリアル、アンビエント

  • 特徴:Crucifixのカヴァーであり、アルバムの不穏な幕開けを飾る。歪んだ電子音と重苦しいドラムマシンが、混沌とした世界観を表現している。アルバムのテーマ性を象徴する衝撃的なイントロダクション。

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2. Imagine

  • ジャンル:オルタナティヴ・ロックアンビエント

  • 特徴:John Lennonが残した平和のアンセムを、A Perfect Circleならではのダークで内省的なサウンドで再構築している。原曲のシンプルなピアノメロディは尊重しつつも、深遠なストリングスとMaynardの感情豊かな歌声が楽曲に新たな深みを与えている。希望と絶望が入り混じるような、複雑な感情を呼び起こす。

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3. Peace, Love, and Understanding

  • ジャンル:オルタナティヴ・ロック

  • 特徴Nick Loweのカヴァーであり、平和と理解への切なる願いを歌い上げている。ギターのアルペジオと抑制されたリズムが、楽曲に叙情的な雰囲気を与えている。Maynardのヴォーカルは、聴き手に直接語りかけるように力強くも穏やかに響く。

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4. What's Going On

  • ジャンル:プログレッシヴ・ロック、ソウル

  • 特徴:Marvin Gayeのクラシックなプロテストソングを、A Perfect Circle流に大胆に解釈している。原曲のソウルフルなグルーヴは残しつつも、より重く歪んだギターサウンドとMaynardの切迫した歌声が、現代の社会問題に警鐘を鳴らすような緊迫感を生み出している。

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5. Passive

  • ジャンル:インダストリアル、オルタナティヴ・メタル

  • 特徴:かつてMaynardとTrent Reznorが構想していたプロジェクトTapewormのために作られた楽曲。激しく歪んだギターリフと冷徹なドラムマシンが、無関心な社会に対する怒りを表現している。アルバムの中で最も攻撃的なトラックの一つであり、聴く者に強い衝撃を与える。

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6. Gimme Gimme Gimme

  • ジャンル:ポストパンク、ニューウェーブ

  • 特徴:Black Flagのパンクアンセムを、A Perfect Circleならではのゴシックで耽美なサウンドでカヴァーしている。原曲の荒々しいエネルギーは残しつつも、Maynardの歌声とBillyの緻密なギターワークが楽曲に新たな芸術性を加えている。欲望と消費社会への批判を表現している。

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7. People Are People

  • ジャンル:エレクトロニック・ロック、シンセポップ

  • 特徴:Depeche Modeの80年代ヒット曲を、よりダークでインダストリアルな要素を加えてカヴァーしている。シンセサイザーの冷たい音色と重厚なビートが、差別や分断といったテーマを強調している。

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8. Freedom of Choice

9. Let’s Have a War

  • ジャンル:ハードコア・パンク、インダストリアル・ロック

  • 特徴:Fearの楽曲のカヴァーであり、戦争への皮肉と怒りを爆発させている。原曲の破壊的なエネルギーはそのままに、より重くインダストリアルな要素を加えることで、そのメッセージに凄みが増している。

10. Counting Bodies Like Sheep to the Rhythm of the War Drums

  • ジャンル:インダストリアル・ロック、エレクトロニック・ロック

  • 特徴:アルバム『Thirteenth Step』に収録された「The Outsider」のリミックス・バージョンであり、戦争の無益さと、大衆の盲目的な追従を痛烈に批判している。機械的で反復するリズムと歪んだヴォーカルサンプルが、楽曲に圧倒的な説得力と緊迫感を与えている。

11. When the Levee Breaks

  • ジャンル:ブルースロック、プログレッシヴ・ロック

  • 特徴:Memphis Minnie & Kansas Joe McCoyのブルース曲を、Led Zeppelinのヴァージョンを参考にA Perfect Circle流に再構築している。重く引きずるようなリズムと歪んだギターサウンドが、楽曲に絶望的な雰囲気を漂わせる。災害や社会の崩壊を予感させるような圧倒的なスケール感を持つ。

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12. Fiddle and the Drum

  • ジャンル:フォーク、アンビエント

  • 特徴:Joni Mitchell反戦歌をカヴァーしており、アルバムの最後を締めくくるにふさわしい静かで内省的な楽曲。アコースティックギターとMaynardの感情を込めたヴォーカルのみで構成されており、平和への切なる願いと痛ましい現実を対比させている。シンプルな美しさがかえって強いメッセージ性を放つ。

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こんな人におすすめ!

  • A Perfect Circle のオリジナル作品よりも、アート志向な「解釈」を楽しみたい人

  • 社会的なメッセージを持つ音楽が好きな人

  • カヴァー曲の再構築に興味がある人

  • ダークでアンビエントなロックサウンドを求める人

  • 感情的な深みを持つ音楽を聴きたい人

同じ系統の楽曲・アルバム5選

1. Nine Inch Nails - 『The Downward Spiral』

インダストリアル・ロックの金字塔であり、Trent Reznorの個人的な苦悩と社会批判が融合したダークで内省的なアルバム。重苦しい雰囲気や、感情を揺さぶるサウンド、実験的な要素に共通する魅力がある。

2. Faith No More – 『The Real Thing』 ジャンルを横断するミクスチャー・ロックのパイオニア、Faith No Moreの代表作の一つ。ヘヴィなギターリフ、ファンクやヒップホップの要素、Mike Pattonによる多才なヴォーカルが特徴で、予測不能な展開と時にダークで実験的なサウンド

3. Deftones - 『White Pony』

ニューメタル/オルタナティヴ・メタルの枠を超えた、Deftonesの最高傑作の一つ。ヘヴィなサウンドの中に、アンビエントでドリーミーな要素とChino Morenoの感情的なヴォーカルが融合しており、A Perfect Circleの持つ静と動のコントラストや、耽美なサウンドに通じるものがある。

4. Puscifer - 『"V" Is for Vagina』

Maynard James Keenanによるもう一つのサイドプロジェクトであり、より実験的でエレクトロニックな要素が強い。ユーモラスでありながらも、政治的・社会的なメッセージを内包している点が『eMOTIVE』に通じる彼のクリエイティビティの側面を示している。

5. Pink Floyd - 『The Wall』

ロックオペラの金字塔であり、社会の疎外感や戦争の悲劇をテーマにしたコンセプトアルバム。壮大なスケールと深いメッセージ性を持つ点で、『eMOTIVE』と共通する部分が多い。時代は異なるが、音楽を通じて社会に問いかける姿勢は共通している。

リンク

www.aperfectcircle.com

open.spotify.com

まとめ

『eMOTIVe』は、単なるカバーアルバムにとどまらないA Perfect Circle による"社会と人間に対する問いかけ"で満ちた意欲作です。大胆な再解釈、原曲への深い理解、そして独自の表現によって、新しい感情の層が重ねられています。今こそ聴くべき、時代の鏡としてのアルバムと言えるでしょう。