出典:YouTube
Flying Lotusの2014年作『You’re Dead!』は、生と死という普遍的なテーマを鮮烈かつ革新的なサウンドで描き出したアルバムです。ジャズ、ヒップホップ、エレクトロニカ、フュージョンといったジャンルを縦横無尽に横断しながら、死後の世界への旅をコンセプトとして紡ぎ上げた本作は、ひとつの音響的叙事詩とも呼べる存在感を放っています。
リスナーは、めまぐるしく変化するリズム、鮮やかに飛び交うシンセサウンド、ジャズ的な即興性の中で、まるで魂が肉体を離れ、異世界をさまようような体験を味わうことになるでしょう。エネルギッシュで混沌としていながらも驚くほど緻密に構築されたサウンドスケープは、聴くたびに新たな発見を与えてくれます。
アーティストについて
Flying Lotus(フライング・ロータス)、本名Steven Ellisonは、アメリカ・ロサンゼルス出身の音楽プロデューサーです。彼はBrainfeederというレーベルを主宰し、ThundercatやKamasi Washingtonなど現代ジャズやビート・シーンを代表するアーティストを世に送り出してきました。
また、彼はAlice Coltraneを大叔母に、John Coltraneを大叔父に持ち、スピリチュアル・ジャズやアフリカン・アメリカン・カルチャーの精神性を強く受け継いでいます。『You’re Dead!』は、そうした血脈やLAビートシーンの文脈を集約しながら、死生観を大胆かつ鮮烈に音楽へと昇華させた作品です。
アルバムの特徴・個性
『You’re Dead!』の特徴は、ジャズとエレクトロニカの境界を溶解させるようなビートの構築にあります。特に盟友Thundercatのベースが全編を貫き、ジャズ的な即興性とエレクトロニックな実験精神が高次元で融合しています。
さらに、Kendrick Lamarを迎えた「Never Catch Me」をはじめ、ラップとジャズの衝突も大きな聴きどころ。死をテーマにしながらも暗鬱さに沈むのではなく、むしろ生命の躍動を肯定するような光とスピード感が漂っており、聴く者に「生と死は地続きである」という哲学的な感覚を与えます。
『You’re Dead!』全曲レビュー
1. Theme
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ジャンル:スピリチュアル・ジャズ/アンビエント
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特徴:冒頭を飾る短いプロローグ。荘厳なシンセの広がりとThundercatのベースが絡み合い、死の入り口へ誘うような雰囲気を作り出している。
2. Tesla
3. Cold Dead
4. Fkn Dead
5. Never Catch Me feat. Kendrick Lamar
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ジャンル:ジャズ・ヒップホップ
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特徴:アルバムのハイライト。Kendrick Lamarのスピリチュアルなラップと、超絶技巧のベースが融合し、「死を超越する精神」を描き出す。
6. Dead Man’s Tetris feat. Snoop Dogg & Captain Murphy
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ジャンル:エクスペリメンタル・ヒップホップ
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特徴:Snoop DoggのラップとCaptain Murphy(自身の別名義)が登場。死をテーマにしながら遊び心に満ちたサイケデリックな曲調。
7. Turkey Dog Coma
8. Stirring
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ジャンル:アンビエント・ジャズ
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特徴:わずか1分未満の静謐なインタールード。死後の静寂を描いたようなトーン。
9. Coronus, the Terminator
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ジャンル:スピリチュアル・ソウル/ヒップホップ
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特徴:ゆったりとしたテンポと幻想的なヴォーカル。死神に迎えられるような雰囲気が漂う、アルバム中でも神秘性の高い一曲。
10. Siren Song feat. Angel Deradoorian
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ジャンル:エクスペリメンタル・ジャズ
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特徴:不協和音と歪んだベースラインが渦を巻き、死後の混沌をイメージさせる。
11. Turtles
12. Ready err Not
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ジャンル:ヒップホップ/ビートミュージック
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特徴:重たいビートが支配する。死を前にした「覚悟」を音で描いたようなトラック。
13. Eyes Above
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ジャンル:エレクトロ・ジャズ
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特徴:幻想的なシンセとソウルフルなメロディが印象的。死を越えて「上」を見上げるような視点を示す。
14. Moment of Hesitation
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ジャンル:ジャズ・フュージョン
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特徴:ハービー・ハンコックも参加した楽曲。死の境界で逡巡するような緊張感を持つ。
15. Descent into Madness feat. Thundercat
16. The Boys Who Died in Their Sleep feat. Captain Murphy
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ジャンル:エクスペリメンタル・ヒップホップ
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特徴:Captain Murphy名義のヴォーカル。子供のような歌声とダークなビートが不気味に絡む。
17. Obligatory Cadence
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ジャンル:アンビエント/インタールード
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特徴:余韻のように鳴る小曲。死後のリズム、残響をイメージさせる。
18. Your Potential // The Beyond feat. Niki Randa
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ジャンル:スピリチュアル・ソウル
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特徴:女性ヴォーカルが幻想的に広がり、死を越えて「その先」へ導かれる感覚を描き出す。
19. The Protest
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ジャンル:スピリチュアル・ジャズ/ゴスペル
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特徴:ラストを飾る荘厳な楽曲。「死は終わりではなく、むしろ抗議(生の継続)」という強烈なメッセージを残す。
こんな人におすすめ!
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ジャズとエレクトロニカの融合に興味がある人
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特定のジャンルに囚われることなく、自由な発想で音楽を聴きたい人
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ThundercatやKamasi Washingtonなど現代ジャズを追っている人
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死や精神世界といったテーマを音楽で探求したい人
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アルバムを「体験」として味わいたい人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
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Thundercat – 『Drunk』
ベースとヴォーカルを自在に操るThundercatによるアルバム。『You’re Dead!』と同様にジャズ的素養とポップ感覚を融合し、現代的なスピリチュアル・ファンクを体現している。 -
Kamasi Washington – 『The Epic』
3時間に及ぶ大作。スピリチュアル・ジャズの復権を象徴する作品であり、『You’re Dead!』の哲学的な側面と強い親和性を持つ。 -
Shabazz Palaces – 『Black Up』
アフロ・フューチャリズムとヒップホップを結びつけた異色作。抽象的なビートと精神世界を巡るリリックは、FlyLoの試みに通じる。 -
Sun Ra – 『Space Is the Place』
フリージャズとコズミック哲学を結びつけた伝説的作品。Flying Lotusの精神的な祖先とも言える。 -
Herbie Hancock – 『Head Hunters』
ジャズ・ファンクの金字塔。『You’re Dead!』に参加したハンコックの革新性を知ることで、FlyLoの実験精神の源泉を理解できる。
リンク
まとめ
『You’re Dead!』は、死という避けられないテーマを音楽で多面的に描き切ったアルバムです。ジャズ、ヒップホップ、エレクトロニカ、ソウルを横断しながらも40分弱で展開されるそのスピード感は、まるで生と死の狭間を一気に走り抜けるかのようです。Flying Lotusの最高傑作のひとつであり、21世紀のスピリチュアル・ジャズの到達点とも言えるでしょう。