出典:YouTube
2017年にリリースされた00110100 01010100(バイナリコードで「4T」を意味する)のアルバム『0181』は、英国を代表するエレクトロニック・ミュージックの巨匠、Four Tet(フォー・テット、本名:Kieran Hebden)による別名義プロジェクトです。このアルバムは、彼のメインプロジェクトとは一線を画し、IDM(Intelligent Dance Music)、グリッチ、アブストラクト・テクノの境界線を深く探求した傑作として位置づけられています。
アーティスト名もアルバムタイトルも数字と記号で構成されたこのプロジェクトは、その名の通り、サウンドもまた極めてデジタル的、数学的です。緻密にプログラミングされたビート、ランダム性と秩序が混在するノイズ、冷徹なシンセサイザーのテクスチャは、Kieran Hebdenが持つ「デジタル時代の音響芸術」への関心を示しています。
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アーティストについて
00110100 01010100は、Kieran Hebdenによる数ある実験的なプロジェクトの一つです。彼は、メイン名義のFour Tetとして、フォーク、ジャズ、エレクトロニカ、ハウス、テクノを融合させた独自のジャンルレスな音楽で世界的に高い評価を得ています。
彼のメインプロジェクトが「有機的で人間的な感情、アコースティックな温かみ」を重視するのに対し、00110100 01010100名義のサウンドは、その対極に位置します。
このプロジェクトにおいて、彼はIDMのルーツへの回帰と現代化、デジタル・ノイズの美学、パーソナルな感情の排除を探求しています。
アルバムの特徴・個性
『0181』は、従来のダンスミュージックやアンビエントとは一線を画す、以下の三つの大きな特徴を持っています。
・グリッチとパーカッションの境界線の曖昧さ
このアルバムでは、クリックノイズ、デジタルなアーティファクト、ランダムに発生するような音の断片が、緻密に配置されています。これにより、リズムが「パターン」であると同時に「ノイズ」でもあるという、独特の感覚を生み出しています。
・数学的な構造と即興性のバランス
楽曲の構造は非常に複雑で、まるで高度な数学的アルゴリズムに基づいてプログラミングされているかのよう。しかし、その厳密さの中にも、予期せぬノイズの爆発や、瞬間的なメロディの出現といった、即興的で偶発的な美しさが潜んでいます。
3. 荒涼とした未来的なサウンドスケープ
使用されているシンセサイザーの音色は、暖かみや叙情性を排した冷たく硬質なものです。荒廃した都市や、故障したAIの回路のような、ディストピア的で荒涼とした未来の風景が喚起され、この音響的なリアリティが、このアルバムの持つ深遠な魅力となっています。
『0181』全曲レビュー
1. 0181 000 0001
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特徴: アルバムの冷徹な幕開けを飾る。断続的なクリックノイズと、遠くで響くようなドローン的なシンセサイザーが、不穏で知的なムードを作り出す。リズムはまだ定まらず、これから始まる音響的な実験への序章として機能している。
2. 0181 000 0002
3. 0181 000 0003
4. 0181 000 0004
5. 0181 000 0005
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ジャンル:テクノイド/アブストラクト・テクノ
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特徴: 情報を絶え間なく流し続けるデータストリームのような、ミニマルで反復的なグルーヴを持つ。ビートは抑制的だが、空間的なエフェクトと細かなグリッチが加わることで、深い催眠効果を生み出す。
6. 0181 000 0006
7. 0181 000 0007
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ジャンル:ダーク・アンビエント/ノイズ
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特徴: 深層から響く低音のドローンと、遠くで聞こえるような微かなノイズが、不気味で広大な空間を作り出す。未来的な廃墟のような情景を喚起させる。
8. 0181 000 0008
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ジャンル:ミニマル・グリッチ
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特徴: 極めてミニマルなトラック。音の「不在」そのものを音楽として提示する、哲学的なアプローチを持つ。
9. 0181 000 0009
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ジャンル:エクスペリメンタル・エレクトロニカ
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特徴: システムのフリーズやクラッシュを思わせる、徐々に音響が崩壊していくような展開を持つ。リピートするグリッチノイズが耳障りでありながら、そのパターンに美学を見出せる、実験的な聴覚体験を提供する。
10. 0181 000 0010
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ジャンル:IDM/サイバー・テクノ
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特徴: アルバムの中核をなす、壮大でサイバーパンク的なムードを持つ楽曲。冷徹なビートと、広大なシンセサイザーのコードが組み合わさり、人間と機械が融合した世界を描写する。
11. 0181 000 0011
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ジャンル:ポリリズミック・IDM
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特徴: 複数の異なるリズムパターンが同時に進行する、高度に複雑なリズム構築が特徴のトラック。聴き手を混乱させつつも、その複雑さの中に美しさと緻密な計算を見いだすことができる。
12. 0181 000 0012
13. 0181 000 0013
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ジャンル:テクスチャル・アンビエント
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特徴: ドローンとノイズを基調とし、特定のビートを持たないテクスチャ中心の楽曲。音の質感、空間的な広がり、残響が主役となり、荒涼としたSF的な風景を描写する。
14. 0181 000 0014
15. 0181 000 0015
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ジャンル:メロディック・リプライズ
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特徴: アルバム全体を通じて散発的に現れたメロディの断片が、この曲で再び顔を出す。冷徹なビートの上に、一瞬だけ叙情的なシンセサイザーの和音が乗り、聴き手に安堵感を与える。
16. 0181 000 0016
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ジャンル:アブストラクト・フィナーレ
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特徴: アルバムの静かで哲学的な終焉を飾るトラック。極めて抑制されたビートと、フェードアウトしていくノイズとシンセサイザーの残響が、この音響探求の旅の終わりを告げる。
こんな人におすすめ!
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AutechreやAphex Twinのような、複雑で実験的なIDMのサウンドを深く探求したい人
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グリッチやノイズを、リズムやメロディとして楽しむことができる音響探求に熱心な人
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テクノのグルーヴと、現代音楽の知的な構成美の融合に興味がある人
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数学的、あるいはプログラミング的なアプローチを持つエレクトロニック・ミュージックを探している人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
1. Autechre『Confield』
現代IDMの金字塔であり、複雑なアルゴリズムとポリリズミックな構造を追求した作品。極めて知的なリスニング体験を求めるリスナーにとって必聴。
2. Alva Noto『Xerrox Vol. 1』
ドイツのアーティスト、Carsten Nicolaiによる作品。グリッチやクリックノイズを極めてミニマルで洗練された形で使用している。
3. Ryoji Ikeda『Data.Microsphere』
日本のサウンドアーティスト、池田亮司による、デジタルノイズやサイン波といったデータの最小単位を音楽として構築した作品。Four tetの音楽を構成する「グリッチやノイズを純粋な音の要素として扱う」というアプローチを、より徹底的に、科学的に追求した傑作。
4. Venetian Snares『Rossz Csillag Alatt Született』
ブレイクコアのパイオニアによる作品。IDMの複雑なリズム構造に、ハードコアやドラムンベースの強度を加えている。
5. Squarepusher『Go Plastic』
超絶技巧のベース演奏と複雑なブレイクビーツを融合させた作品であり、当時のIDMシーンに大きな影響を与えた。Four tetの音楽が持つ「高度なプログラミングによる緻密さ」や「驚異的なリズムの密度」の点で共通している。
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まとめ
00110100 01010100の『0181』は、グリッチ、ノイズ、複雑なリズム構造を駆使して、デジタル時代の音響芸術を極限まで推し進めた、現代IDMシーンの傑作です。その冷徹で無機質なサウンドは、一聴すると難解かもしれませんが、その背後には、緻密な計算と、ランダムな美学に対する深い洞察が隠されています。
もしあなたが、音楽を「音響的なパズル」として捉え、予測不能なリズムの探求に喜びを見出すなら、この『0181』は間違いなくあなたの知的探求心を刺激する一枚となるでしょう。ぜひこの記号の森から生まれる未来の音楽を体験してみてください。