出典:YouTube
2019年にリリースされた808 Stateのアルバム『Transmission Suite』は、彼らにとって実におよそ17年ぶりとなる完全オリジナルアルバムです。クラシック・アシッド/レイヴのレジェンドが、現代テクノの文脈を踏まえつつも、自らの美学を大胆にアップデートした一枚として高く評価されています。
本作は、マンチェスターの象徴でもある廃ビル「The Old Granada Studios」で制作され、工業地帯の寒々しい空気、退廃した未来像、クラブカルチャーの余韻がそのまま閉じ込められた作品です。アシッド、IDM、エレクトロ、テックハウスなど、過去と現在の電子音楽の狭間を埋めるような音が詰まっています。
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アーティストについて
808 Stateは1987年に結成されたUKマンチェスターのレジェンド的テクノユニットです。アシッドハウス黎明期から活動しており、UKクラブカルチャーにおけるパイオニアとして、多くのアーティストに影響を与えてきました。
代表曲「Pacific」や「In Yer Face」は、電子音楽史に残るクラシックとして認知されています。
彼らの特徴は、メロディアスで暖かいシンセラインと、無機質で硬質なビートの共存。ハードなクラブトラックでありながら知性的な構築美を持っており、シンプルなテクノとは一線を画す存在です。
アルバムの特徴・個性
『Transmission Suite』は、808 Stateの過去作にあるレイヴ的な明るさよりも、退廃した近未来感・インダストリアルな冷気が強い作品です。
シンセは金属的に響き、ベースはアシッド特有のねじれる動きを保ちつつ、テンポ感はどこかミドルでストイック。結果として、マンチェスターの夜景を切り取ったような、都会の影が映し出されるようなアルバムとなっています。
『Transmission Suite』全曲レビュー
1. Tokyo Tokyo
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ジャンル:エレクトロ/アシッド・テクノ
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特徴:金属質なシンセが刻むミニマルなテーマが印象的。アシッドが控えめにうねり、未来都市の雑踏を踏みしめるような推進力を持つ。
2. Skylon
3. Cannonball Waltz
4. The Ludwig Question
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ジャンル:エクスペリメンタル・テクノ
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特徴:金属質のシンセが複雑に絡み合い、知性的な緊張を生む。硬派なサウンドデザインが印象的。
5. Huronic
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ジャンル:インダストリアル・テクノ
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特徴:鉄の軋みのような音像と暗い低音が特徴。工業地帯の冷気を表現しているような無骨なトラック。
6. Landau
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ジャンル:チル・エレクトロニカ
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特徴:柔らかいシンセが空気を包み込み、アルバム全体の硬質感の中でひと息つける涼やかな楽曲である。
7. Westland
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ジャンル:エレクトロ
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特徴:重心の低いビートがじわじわと進行し、冷たいアルペジオが空間を満たす。都市的でありながら荒涼とした情景も見せるトラック。
8. Trinity
9. Ujala
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ジャンル:アンビエント・エレクトロ
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特徴:パッドシンセが穏やかに広がり、静謐な光を感じさせる。陰影のある美を体現した名曲である。
10. Carbonade
11. Pulcenta
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ジャンル:ミニマル・アシッド
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特徴:淡々と反復するアシッドラインが中毒性を生む。職人芸的な構成によりフロア仕様の緊張感を持つトラック。
12. Angol Argol
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ジャンル:エクスペリメンタル・エレクトロ
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特徴:音響効果の遊びが多く、電子音の粒がランダムに飛び交う。自由度の高い設計が魅力。
13. Bushy Bushy
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ジャンル:テックハウス
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特徴:軽快なビートとファンキーなベースラインが特徴。初期808 Stateのような遊び心が感じられる曲。
14. 13 13
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ジャンル:IDM/エレクトロ
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特徴:細かい電子音が立体的に組み上げられ、複雑なリズム構造を持つ。後半に向けてじわじわと深みが増していく構成が秀逸で。
15. Crab Claw
こんな人におすすめ!
同じ系統の楽曲・アルバム5選
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Autechre『Tri Repetae』
マンチェスター出身のIDMデュオによる金字塔。硬質でミニマリスティックなテクスチャが『Transmission Suite』の冷たい質感と響き合う。 -
The Chemical Brothers『Exit Planet Dust』
UKクラブカルチャーの黄金期を象徴する作品。アシッド、ブレイクビーツ、レイヴのエッセンスが808 State的美学と共鳴している。 -
Plaid『Reachy Prints』
メロディアスな電子音と複雑なリズム構成が魅力のIDM作品。『Transmission Suite』の持つ柔らかい叙情性に近い質感を持つ。 -
LFO『Advance』
UKテクノの名作で、攻撃的なアナログシンセと硬質なリズムが特徴。808 Stateのダークサイドと共通する美学がある。 -
B12『Time Tourist』
デトロイト・テクノの精神をUK流に昇華した傑作。未来都市的な音像が『Transmission Suite』と深くリンクしている。
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まとめ
『Transmission Suite』は、レイヴ黎明期を牽引した808 Stateが、現代のテクノ文脈においてもなお革新的であり続けることを証明した作品です。
冷ややかな空気、硬質なシンセ、抑制されたアシッド……そのすべてが、マンチェスターの街が持つ工業的な影とともに鳴り響きます。
古さと新しさが混ざり合う不思議な一枚で、808 Stateの歴史の長さを知るファンにも、現代の電子音楽を聴くリスナーにも刺さるアルバムです。
