出典:YouTube
UKのプロデューサーPaul Woolfordが “Special Request” 名義で発表した2019年作『Offworld』は、ブレイクビーツ、アンビエント、ドラムンベース、エレクトロの境界を曖昧にしながら、宇宙的なスケール感を描き出した意欲作です。
Special Request といえば、ジャングル/レイヴ再解釈の尖ったサウンドを思い浮かべる人が多いですが、『Offworld』はその中でも異色。“宇宙(Offworld)に放り出されたような静寂と広がり” があり、攻撃性よりも幻想性・浮遊感・映画的な深さが前面に出た内容となっています。
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アーティストについて
Special Request は、英国出身のDJ/プロデューサーPaul Woolfordが展開する別名義で、通常のハウス/テクノとは異なる “レイヴ、ジャングル、ブレイクビーツの探求” をテーマにしています。
90年代レイヴへの愛情と、現代的な低音・音響処理を融合させる手腕は圧倒的で、名義ごとに明確な世界観を作り込むことで知られています。
『Offworld』は同年の『Bedroom Tapes』『Vortex』と並ぶ3部作の1つで、よりアンビエント志向・映画音楽的な描写に寄った作品です。
アルバムの特徴・個性
『Offworld』は、Special Requestの攻撃的なジャングル路線とは正反対に位置するアルバムです。ノイズ、荒れたブレイク、ビッグドロップはほとんど排除され、代わりにシンセパッド、揺らめくアンビエント、ソウルフルなコードワークが中心となります。
テーマは“宇宙空間の孤独と夢幻”。
全体を通して、無重力のようなサウンドデザインと、失われた90年代の温かいR&B〜エレクトロニカの情感が共存しており、ジャングル/ドラムンベースのルーツにある“宇宙志向”をメロディックに再構築している点が魅力です。
『Offworld』全曲レビュー
1. 237,000 Miles
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特徴:浮遊感のあるパッドが広がり、宇宙空間に静かに漂うような感覚を与えるオープナー。ビートは柔らかく、反復するシンセの波形が淡くにじむ。Special Request特有のジャングル要素は控えめで、むしろアンビエントに寄った没入型のサウンドスケープが目立つ。
2. Shepperton Moon Landing
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特徴:深い残響とゆったりしたビートが、月面着陸を思わせる静謐な空気を形成する。メロディは最小限でありながら哀愁を帯び、後半にかけてパッドの層が徐々に厚みを増す。シンプルだが空間処理の巧みさが際立ち、耳を包み込む温度を感じさせるトラック。
3. Offworld Memory 3
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特徴:初めてドラムンベースのビートが明確に登場する曲。疾走感のあるドラムに対して、メロウなコードが対照的に重ねられ、スピードと静けさが同居する。90年代のLTJ Bukem的“浮遊するDNB”の流れを継承しつつ、よりドリーミーな質感を与えている点。
4. Front Screen Projection
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ジャンル:IDM/エレクトロ
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特徴:粒立ちの良いシンセアルペジオと軽快なエレクトロビートが特徴。シネマティックなタイトル通り、シーンを投影するようなミニマルな構造を持つ。アルバムの中では最もIDM的で、矩形波の細やかな動きと残響のループが複雑に絡む。
5. Arse End Of The Moon
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特徴:宇宙の最果てを描くような静けさを帯びた楽曲。ビートレスに近い構成で、パッドとサブベースのわずかな揺れが中心。アルバムの休符的存在で、深い深淵に沈むような瞑想的時間を与える。
6. Morning Ritual
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ジャンル:ブレイクス/アンビエントDNB
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特徴:柔らかく刻まれるブレイクビートと、朝焼けのような明るいシンセトーンを特徴とする。前曲の深淵から一転、光が差し込むような前向きな雰囲気が漂う。クラブ向けというより、心を整えるためのリチュアル(儀式)的チューン。
7. Floatation (SR Offworld Mix)
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特徴:アルバムのハイライトであり、最もメロディックな高揚感を持つ楽曲。美しいシンセストリングスが波のように押し寄せ、軽やかなブレイクが“浮遊”の感覚を強調する。90年代のアトモスフェリックDNBへのオマージュでありながら、現代的に再構築された名曲。
こんな人におすすめ!
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レイヴの遺伝子を現代的にアップデートした音が聴きたい人
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ドラムンベースの中でもアトモスフェリックでメロディ重視の作品が好みの人
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特定のジャンルより“音響体験”としての電子音が好きな人
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映像制作・読書・深夜ドライブなど集中作業のBGMを探している人
同じ系統の楽曲・アルバム5選
1. ASC『Return of the Emissary』
アトモスフェリックDNBの旗手ASCによる深宇宙系サウンドであり、浮遊感とミニマルさの融合が『Offworld』と共鳴する。ビートは硬質だが、空間処理の広さと淡いシンセは強い親和性を持つ。
2. Bvdub『Ten Times the World Lied』
ビートレス〜アンビエント寄りの作品であり、情緒的なシンセのレイヤーが延々と続く構造が『Offworld』の瞑想性とリンクする。陰影の深いメロディラインが特徴。
3. Synkro『Changes』
UKガラージ、アンビエント、DNBを横断するSynkroの代表作である。柔らかなビートとメランコリックなシンセの使い方が本作と非常に近く、夜間の移動に似合う作品。
4. Lone『Galaxy Garden』
ネオレイヴ × メロディックエレクトロの名作であり、宇宙的サウンドスケープという共通テーマを持つ。よりカラフルだが、スペース感の表現方法に通じるものがある。
5. Detroit Escalator Co.『Black Buildings』
深海か宇宙か判別できないような深遠なアンビエントテクノ。静けさとディープさを徹底的に追求しており、『Offworld』の静謐な側面と重なる。
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まとめ
『Offworld』は、Special Requestが持つ攻撃的なジャングルのイメージを覆し、メロディと静寂を前面に押し出した異色作です。宇宙をテーマにしたサウンドデザインは一貫して美しく、アンビエント〜ドラムンベース〜IDMを横断しながらも、作品全体として統一感があります。
深夜にひとりで聴くと世界に溶けるような没入感があり、Special Requestの幅広い表現力を再認識させるアルバムといえます。
